その8
10月のとある日、この日の午後7時頃、コウジとテツヤは街の居酒屋で食事をしていた。公務員試験が終わってから、二人は隔週に1回のペースで会うようになっていた。
テツヤ「勉強やってるか?」
不意の質問にコウジは戸惑いながらも答えた。
コウジ「・・・ああ。まぁ何とか・・・。」
この言葉と口調にテツヤは詰めてきた。
テツヤ「何とか?じゃあ全然やってないって事だな?」
コウジ「何だと?」
そう言われてコウジはムカついた。
テツヤ「先月終わったばかりだから、じゃあ早速ってならないだろうけど、でも周りの学生たちは、いわ
ゆるお前の敵はきっと、今も勉強してると思うぞ。」
テツヤの話にコウジは返す言葉を失っていた。
テツヤ「だってさ、一番難しいって言われてるんだぜ。特に現役だったら何時間もやってるだろうよ。」
コウジ「・・・じゃあ、こういう場は二度としないで、この時間も勉強しろってか?」
コウジは不貞腐れた感じでテツヤに尋ねた。テツヤは一息吐いてコウジに言った。
テツヤ「そうじゃなくて、こうした時間もリフレッシュとして大事だと思うが、さっき言った、何とかっ
て言う言い方は、昔から変わらねぇよなって事さ。」
コウジ「・・・どういう意味だ?」
テツヤ「昔からそうだったろ?テストの時だって、そう言って誤魔化してたもんな。」
コウジ「・・・・・・。」
テツヤ「俺たちもう、高校生とか10代の時の頃じゃないんだぜ。それに相手は全国にいるし、その上世
代も関係してくるから、もう少し危機感を持って欲しいだけさ。」
コウジ「・・・危機感を持ったって、あと一年間、逆に気が保たないぜ?」
テツヤ「・・・まぁ確かに、でも浪人生とか予備校生は、そんな環境や心境じゃないかな?」
それを聞いてコウジはやるせなさを感じた。浪人生とか予備校生は、目指すゴールは大学合格だから、とにかくそれに邁進して行けば良い。けど大学を卒業して社会に出た時に、自分のようにルートを外れてしまったら、他には何もないって状況だ。したい事もやりたい事も全ては自己責任。ひたすら勉強して、それが実を結べば良いが、必ずそうなるとは限らない。確実な保証がないまま、果てはいつまでそれを続けるのか?そんな先の事を思うとやはり、何かしら不安を感じてしまうのであった。
テツヤ「・・・まぁいい。取り敢えず意識だけでもな。急にギアを上げてもアレだし、徐々にペースを上
げて行けば良いさ。」
そう言ってテツヤはコウジをフォローした。
コウジ「・・・ああ、そうだな。・・・そういう気づきは大事だな。わかったよ。」
テツヤ「別に、怒ったとか説教じゃないからな、・・・元気出せよ。」
力なく答えたコウジに対して、テツヤは取り繕うように慌ててフォローした。ここでふとコウジは、郷愁を感じさせるような口調で、呟くように言った。
コウジ「・・・そうか、アイツも、マサトもこんな気持ちだったんだろうな・・・。」
それを聞いてテツヤは、驚いた表情で答えた。
テツヤ「・・・うわっ、懐かしい。久しぶりに聞いたよ、その名前。」
コウジ「・・・俺たちは次が決まってたのに、アイツは浪人したんだよな。」
テツヤ「・・・そう言えば、そうだな。」
コウジ「・・・で、アイツは今は、消息不明、と。」
テツヤ「ああ。どこで何をしてるかも、一切謎だ。」
コウジ「・・・でも、どこかで生きてるだろうな。」
テツヤ「それは、間違いねぇよ。」
ここでテツヤが急に思い出した。
テツヤ「ああっ!!そうだ!実は昨日、カズキから連絡があったぞ!!」
コウジ「ええっ!?あの、カズキから!?」
テツヤ「そうだよ、他にいるか?」
驚いて発したコウジに対して、テツヤは急に我に返って、冷静にツッコんだ。




