第6話 七剣の宴
帝国暦1271年、初夏。
帝都中央宮殿の大広間は、煌びやかな光に満ちていた。
巨大なシャンデリアから降り注ぐ魔導灯の光、壁に掛けられた歴代皇帝の肖像画、金糸で織られた絨毯。
そこに帝国の最高戦力——「帝国七剣」が一堂に会していた。
正式に七剣に任命されてから半年。
ヴェルナ・ド・ルシフェルとミリアーナ・ヴァルハイトは、若き双翼として最も注目を集めていた。
広間の中央に置かれた長大なテーブルには、豪華な料理と最高級の葡萄酒が並んでいた。
皇帝の直々の招きによる「七剣の宴」。
表向きは親睦を深めるためのものだったが、水面下では激しい権力闘争と探り合いが渦巻いていた。
ヴェルナは赤いビキニアーマーに黒マントを羽織り、栗色の髪を後ろで束ねて堂々と座っていた。
十六歳になった彼女の体は、女性らしい曲線を帯びつつも、戦士としての逞しさが際立っていた。
赤い瞳は好奇心と闘志に輝いていた。
「すげえな、こんな豪華な宴は初めてだぜ」
隣に座るミリアーナは、深紅のドレスを優雅に纏い、黒髪を上品に結い上げていた。
十五歳とは思えぬ気品と冷たい美しさが、すでに宮廷の貴族たちを魅了していた。
「ふふ、ヴェルナ。あまりはしゃがないで。
ここは戦場と同じよ。
油断したら、すぐに喰われるわ」
ミリアーナの声は穏やかだったが、瞳の奥には深い影があった。
昨夜も皇帝の寝所に呼ばれ、老いた肉体に犯されていた。
体には新しい痣と爪痕が残り、化粧で必死に隠していた。
宴が始まると、他の七剣メンバーたちが次々と声をかけてきた。
最初に近づいてきたのは、ガルドリック・ヴァルンシュタインだった。
巨躯を重厚な黒鋼の鎧に包み、白髪交じりの髭を震わせて大笑いする。
「ほう! 黒棘の双翼か。
ヴェルナ、お前は前回の演習で俺の盾を二回も揺らしたな。
なかなかやるじゃないか!」
ヴェルナは立ち上がり、ガルドリックと固く握手した。
「ありがとうございます! おっさん…じゃなくて、ガルドリックさんも強かったですよ!」
「はっはっは! 気に入った。
いつか本気でやり合おうぜ、娘分」
ガルドリックはヴェルナの肩を叩き、満足げに去っていった。
ミリアーナは微笑みながら、心の中で呟いた。
彼はいい人。
ヴェルナを気に入っている。
でも、いつかヴェルナに殺される未来が、予言には映っていた。
次に現れたのは、ディアドラ・フォン・ローエングラム。
赤い長髪を豪快に振り乱し、酒杯を片手に近づいてきた。
「ヴェルナ! お前、酒は飲めるか? 一緒にやろうぜ!」
「もちろん! ディアドラさん、強いですよね!」
二人はすぐに意気投合し、大杯を重ね始めた。
ヴェルナの笑い声が広間に響く。
ミリアーナは静かに葡萄酒を傾けながら、二人を眺めていた。
ディアドラの豪快さは、ヴェルナの心を明るくする。
しかし、それもいつか壊さなければならない。
バルトロメオ・クロスは、神聖なローブを纏い、厳しい目でヴェルナを見た。
「力だけに頼る者は、いつか道を誤る。
信仰を忘れるな、ヴェルナ・ド・ルシフェル」
「わかってますよ。
でも、俺は俺のやり方で帝国を守ります」
二人の間に火花が散ったが、ミリアーナが巧みに話題を変えた。
セレナ・ルミナスは、薄紫の瞳でミリアーナに近づき、耳元で囁いた。
「ミリアーナ。皇帝陛下の寵愛、なかなか見事ね。
身体を上手く使っているようだわ」
ミリアーナの表情は変わらなかったが、指先がわずかに震えた。
「セレナさんも、影の仕事はお上手ですわね」
二人の視線が交錯した。
セレナはミリアーナの秘密を知る数少ない一人だった。
ルーカス・エッジワートは、影のように壁際に立ち、無言で全員を観察していた。
彼の視線は特にミリアーナに長く留まっていた。
宴も中盤に差し掛かった頃、皇帝アルフォンスが玉座から声をかけた。
「七剣よ、帝国の未来を担う者たちよ。
今日この宴で、互いの絆を深めよ」
皇帝の濁った視線が、ミリアーナに留まった。
彼女は優雅に立ち上がり、深く礼をした。
その仕草一つ一つが、皇帝の欲望を刺激するように計算されていた。
ヴェルナは無邪気に喜んでいた。
「ミリアーナ、俺たち本当に七剣だぜ!
これで腐った貴族どもをぶっ飛ばせる!」
「ええ、そうね」
ミリアーナは微笑みながら、ヴェルナの手をそっと握った。
手の温かさが、彼女の冷えた心を一瞬だけ溶かした。
しかし、宴の後半、ミリアーナは皇帝の側近に呼び出され、控え室へと連れていかれた。
そこで再び、老皇帝の欲望の犠牲となった。
老人はミリアーナに脚を広げてテーブルに手をつく事を求めた。
そしてスカートを捲り上げる。
老人にショーツを履く事を許されていないミリアーナの全てが露わになり、老人が彼女の腰を掴むと直ぐに彼女の中が老人で満たされる。
老人の腰が前後に動き、ミリアーナの中に熱い物が吐き出される。
短い時間だったが、彼女の体は再び汚され、心は削られた。
そんなミリアーナの娼婦の様な姿を冷ややかに見つめる目がある。
セレナ・ルミナスの目だ。
「卑しい女には卑しい女なりの処世術があるのね。
それでも皇帝の寵愛を得て、王妃さへ失脚させる。
大した女だわ。
精々取り入って利用させて貰うは」
侮蔑な眼差しでミリアーナを見つめてセレスはそう呟くのだ。
控え室から戻ったミリアーナの顔は、完璧に平静を保っていた。
ヴェルナが心配そうに尋ねる。
「大丈夫か? 顔色悪いぞ」
「ええ、ちょっと疲れただけ。
あなたが楽しそうで、私も嬉しいわ」
宴が終わり、二人が宮殿の回廊を歩いている時、ミリアーナは静かに言った。
「ヴェルナ、私たちはこれからもっと強くならなければならない。
どんなに汚れても、どんなに傷ついてもよ。帝国を変えるためには鋼鉄の心臓が必要なのだから」
ヴェルナは力強く頷いた。
「ああ、お前が頭脳でいる限り、俺は強くあれる。
そしてどんな敵でも倒す。
お前は俺の大切な相棒だ」
その言葉が、ミリアーナの胸を深く抉った。
予言の幻視が、再び頭の中で閃いた。
ヴェルナが自分の首を掴む未来。
血飛沫が舞う光景。
ごめんね、ヴェルナ。
この宴は、ただの始まり。
私はこれから、あなたを深く、深く裏切っていく事になるの。
夜風が二人の髪を揺らした。
七剣の宴は華やかだったが、その裏側で、血塗られた運命の歯車は静かに回り始めていた。
七剣の宴は、表向きの絆と、水面下の暗闘を描いた。
ミリアーナの犠牲は深まり、ヴェルナの無邪気な希望は、まだ影に気づいていない。
しかし、予言の鎖は確実に二人を絡め取ろうとしていた




