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取らぬ田中の皮算用  作者: 加ヶ谷優壮
第一章 〝取らぬ田中の皮算用〟

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後編 〝取らぬ田中の皮算用〟


 補給ポイントに向かいながら、視界の右上の表示(すうじ)を見る。高橋を倒したことによって、MPの最大値が3ポイント上がっていた。


 それに加え、身体強化を含めた特殊能力の質も上がっているが……


「あと一人、だな」


 手の平から伝わる感覚。

 それが、もう少しだと告げていた。


 補給ポイントに入る。

 合計3分間の滞在。

 その条件を満たし、オレはMPの全回復に成功する。


 ここでの目的は達した。

 オレは右の〖瞳〗を裏返し、ミニマップを確認する。


 今回のゲームの舞台は、四方を海に囲まれた離島。中心に大きな島、その左右に小さな島が二つ。


 その二つの小島と中央の島は、木製の橋で繋がっており、行き来が可能だ。

 ……まあ、今は時間経過により生存できるマップが狭まっているので、小島に行くプレイヤーはいないだろうが。


 町並みは典型的な田舎。

 至る所に青々しい植物が生えており、建物の数が全体的に少ない。

 目立つ建物は、役場・神社・学校・病院・図書館くらいだろうか。

 耳を澄ませば、虫の鳴き声と潮騒(しおさい)が聞こえてくる。


「――――」


 ミニマップは、現在の島の状況をリアルタイムで教えてくれる。可愛くデフォルメされているので、微細な島の変化はわからないが――


「生きてるな」


 突如、田んぼの真ん中に大きな穴が空く。

 十中八九、オレが戦いたいと思っているプレイヤーの行動に起因するものだ。


 出会えればいいが……こればかりは運だな。

 今回戦うことが叶わなくても、プロになればいくらでも戦う機会があるだろう。

 そう自らに言い聞かせ、オレは身体強化を発動した。


「取っ――」


 背後から迫る丸/太。

 その下手人の右/腕。

 ひだりう/で。


「た……?」


 放った剣圧で、全てを断つ。

 中央の部分を失い、二つに分かたれた丸太が。

 右腕の肘より先の部分が。

 左手が。

 地面に落ちる。


「う、嘘……嘘でしょ!?」


 喚く女の体を蹴り飛ばす。


「あぎゃっ!」


 近くの木に背中をぶつける女。

 痛くもないくせに、悲鳴を出さないでほしい。

 弱いくせにうるさくて、不愉快だ。


 いつもなら間違いなく初手で殺しているが、今は事情がある。

 近くに背の高い建物はない。

 ここで殺して、もし暴発してしまったら、オレもただでは済まないだろう。


 仕方なしに、女から視線を切って背を向ける。両腕の欠損に、オレの蹴り。それを食らったのだから、恐らく瀕死。


 このゲームの仕様上、休む以外の行動は取れないだろう。


 彼女は今、時間経過によるHPの回復を待つしかない状態だ。……まあ、HPが完全に回復しても、一度切り離された体の部位が繋がることはないので、絶望的な状況には変わりがないのだが。


 彼女がオレに向かって何か叫んでいたが、興味がないので頭に入ってこない。それにしても、自分から他のプレイヤーに居場所を知られるような真似をして、いったい何がしたいのだろうか。

 理解に苦しむ。


 頭の中に刻みつけたミニマップを頼りに、学校へと向かう。20分ほど移動しているが、敵プレイヤーと出会うことはない。


 決勝大会が始まってから、そろそろ三時間が経つ。プレイヤーも少なくなってきているのだろう。


 学校の校門までたどり着く。

 敵と出会えなかったらどうしようか――と頭を悩ませていたが、その心配は杞憂だったようだ。


 校門の真ん中にある補給ポイント。

 その青いサークルの中に、オレンジ色の髪をした女が立っていた。


 画面越しに見たことがある女。

 世界ランキング第8位『田中_412』。

 この決勝大会参加者の中で、最もランキングが高いプレイヤー。


 オレは、本当に、運がいい。

 こうして、ずっと戦いたかったプレイヤーと出会えるなんて。


「――――」


「――――」


 彼女と目が合う。

 目を合わせたまま、オレは校庭へと足を踏み入れた。

 頬を撫でる風が実に気持ちいい。


 少し進んだところで、足を止める。

 彼女のMPが回復するのを待つためだ。

 やがて補給ポイントが消滅し、田中さんがオレの方へと歩み――立ち止まった。


 互いの距離は5メートル。

 真っ向から視線をぶつけ合う。

 田中さんが口を開いた。

 

「紳士なのだな。MPの回復を待ってくれるなんて」


「ええ。楽しい時間は長ければ長いほど良いと、田中さんは思いませんか?」


 田中さんが声を上げて笑う。


「面白いことを言うのだな。君は随分(ずいぶん)と、自分に自信があるようだ」


「まあ……実際強いですから、オレ」


「私に勝つつもりか? ランキングに名を連ねてもいない君が?」


「勝てますよ。正直に言ってしまうと、オレはあなたのことを脅威だと思っていません。さらに、言ってしまえば」


 一度言葉を区切り、言った。


「踏み台だと思っています。オレがプロになるための」


 そう言うと、田中さんはさっきより大きく笑った。

 そして気配が、一変する。

 肌がピリピリと痛むような――そんな感覚を覚える。


「思い上がりも(はなは)だしいぞ、ガキ」


 低い声でそう言うと、田中さんはこちらに右手を向ける。その動きに合わせて、オレもナイフを構えた。


「始めましょうか、田中さん」


 その言葉に、田中さんが攻撃を以て応える。

 刹那、巨大な土塊(つちくれ)がオレに向けて放たれた。


 水気のある土や、稲が生えているなんてことはない。操っているのは、田んぼの奥深くの部分。少しは本気を出してくれたようだ。挑発は効果があったらしい。


 田中さんの能力を整理する。

 ミニマップの動きからして、系統は現物支配系。能力は間違いなく、マップに存在する田んぼと〝田んぼの中央の部分〟を手元に転送して、操るというもの。


 強いな、と率直に思う。

 田んぼの〝中央の部分〟を操るという、明確な大きさの定義が存在しない能力はこのゲームにおいて、無類の強さを発揮するのだ。


 なぜなら、創造操作系の場合はあまりにも質量が大きいものや、存在そのものが強大すぎるものは創造することができないからだ。


 前者には山や島など、後者には神や鬼などの存在が当てはまる。


 今回の田中さんの系統――現物支配系の場合は、上に挙げたようなものがマップに存在するのなら、能力を行使すること自体は可能だ。


 しかし、現物支配系の転移速度は、質量や存在そのものの強大さに依存する――軽いものほど速く、重いものほど遅くなるという感じだ――そのため、実用は現実的ではない。


 それに加え、特殊能力は同時に二つのものを操ることはできないのだ。


 そのため、あまりに重いものや強いものを呼び出すと、名字(こゆう)の特殊能力がしばらく――あるいは、ずっと使えなくなるという圧倒的不利な状況が待っている。


「――身体強化」


 サバイバルナイフの刃渡りは14センチ。

 剣圧を出さなければ、田中さんの土塊を斬り裂くことは不可能だ。

 腕を、高速で振る。


「――ッ!?」


 1秒間。

 その間にオレが放った16の斬撃が、土塊を(さい)の目状に切断する。このぐらい小さくなれば、後はナイフで無力化できる。


「はああああぁぁぁぁぁ!!」


 標的を変えた総数16の斬撃が、田中さんに襲いかかる。

 それを相殺するため、彼女は土塊を凄まじい速度で射出し続けた。


 1、2、3、4、5――MPが湯水のように消えていく。

 だが、斬撃が消滅する気配は一向にない。


「――クソッ!」


 叫び、身体強化。

 そのまま、体を右に逃す田中さん。


「――身体強化」


 細切れにされ、推進力が弱まった6発目の土塊。

 ナイフを操りながら、その土片の一つを田中さん目掛けて蹴り付ける。


 蹴られ、瞬く間に粉々になった土片。

 その土の散弾が、田中さんの体を捉えていた。


「身体強化ぁぁぁああ!!」


 二連続の使用。

 刹那、避け遅れた左腕全体の肉が、散弾によって削り取られた。


「――――」


 ナイフの強度が少し心配だ。

 293個の土片を真っ向から処理するのは流石にやり過ぎだったか。

 ナイフの背を撫でるオレに、田中さんが声を荒げた。


「なんだ、今の異様な動きは……! お前いったい、何人殺した!?」


「そうですね……田中さんは何十人殺しました?」


「――ッ」


 土塊の転移速度。

 射出速度。

 硬さ。

 身体強化の出力。


 その他諸々(もろもろ)を鑑みて、プレイヤーを少なくとも10人は殺していると思ったのだが……違かったようだ。


 ――相手のことを過大評価してしまう癖は、簡単には抜けないらしい。


「田中さん。本気でやらないと死にますよ?」


 左腕を穴だらけにしたのだ。

 オレの実力は十二分に伝わっただろう。

 剣圧の速度をセーブをする必要はもうないな。


「それは私のセリフだよ――水梨っ!」


 言って、田中さんがオレに土塊を連続で飛ばす。

 先ほどまでとは比べものにならない速度。

 オレはそれを剣圧で斬り、推進力を弱めながら避ける。


「水梨ぃ!」


 田中さんがオレの放つ剣圧をギリギリで避けながら、叫ぶ。


「お前、予選では手を抜いていたな!!」


「まあ、調整はしました。その方が意外性が出て面白いと思ったので」


 オレの予選での順位は5位。

 これだけ聞くと意外性もクソもないと思われるかもしれないが、予選大会はAからLまでの12ブロック制で行われているのだ。1位が12人いるのだから、5位のオレが目立つはずもない。


 これは補足だが、決勝大会に進めるのは各ブロック上位7名。

 残りの16の枠は、田中さんなど前の大会で優秀な成績を残した人に与えられるシード枠だ。


「そして、お前は今も手を抜いている!!」


 地面を強く蹴り上げながら、田中さんが先端がドリルのように尖った土塊を放つ。


「そんなことはないですよ」


「なら、どうして固有能力を使わないっ!?」


 巨大な土のドリルを剣圧で斬り刻みながら、オレが言う。


「楽しい時間を長く続けたいから――とかですかね?」


 明らかな挑発。

 それに顔を赤くしながら、田中さんがこれまで以上に巨大な土塊を放つ。

 速度が遅い。

 隙が、できた。


「――身体強化」


 跳び、田中さんが放った土塊を力強く踏み付ける。そして、そのままオレは田中さんに肉薄した。


「――ッ!?」


 間合いに入り、その細い首をナイフで斬り付けようとした瞬間――田中さんが笑った。直後、田中さんの右手から、弾丸のようにサバイバルナイフが射出される。


 ――まあ、そうなるよな。


 その戦法を田中さんが、思いつかないはずがない。

 繰り返すが、田中さんの能力は、マップに存在する田んぼと〝田んぼの中央の部分〟を手元に転送して、操るというもの。


 サバイバルナイフは、ゲーム開始時に唯一1本だけ支給されるアイテム。

 それをあらかじめ、田んぼの中央の部分に埋めておけば、それは固有能力の発動対象となる。


 創造操作系では不可能な、現物支配系ならではの戦法だ。


「――身体強化」


 動作を中断する。

 そして、勢いよくナイフを振り抜いた。


 ナイフでナイフを打ち落とす。

 同時に、田中さんに超至近距離で剣圧を放つ。防御と攻撃の一石二鳥。


 田中さんが手の平から、ナイフを超高速で次々と射出する。巨大な土塊と比べ質量が圧倒的に小さいため、速度も段違いに速い。


 7本のサバイバルナイフを消費し、オレの放った斬撃を相殺する田中さん。

 続けて、田中さんが合算9本目のサバイバルナイフを、手の平から撃ち出す。


 それは新たに剣圧を繰り出そうとするオレのナイフ。その側面を、正確に狙っており――。

 瞬間、刃が折れる。


「――身体強化」


 折れた自らのナイフを、田中さんに投げ付ける。そして、その要因を作り出した9本目のナイフの(ハンドル)部分を右手で掴み、強奪する。

 刹那、ナイフが暴れ狂った。

 そりゃそうだ。


 田中さんは、ナイフそのものを能力で操っているのだ。彼女が能力を解除しない限り、このナイフはオレに牙を剥き続ける。


 直後、ナイフの反発が消える。

 田中さんが能力を解除したのだろう。

 つまり、それの意味するところは、


「身体強化ァァアアア!」


 10本目。

 恐らく田中さんが持つ最後のナイフ。

 それを転移させ、自らの手で握り込む。


「水梨ぃぃぃぃぃぃいいいい!!」


 田中さんが、ナイフを振るう。

 それはオレの放ったナイフを弾き、続けて俺自身の体へと狙いを定めた。

 迫り来る凶刃。

 それをオレは真正面から、受け止めた。

 ナイフとナイフが、火花を上げて衝突する。


「――身体強化」

「身体強化ァァァァァァァアア――ッ!!」


 鍔迫り合い。

 単なる膂力(りょりょく)の勝負。

 この熾烈(しれつ)な……熾烈な戦いには、相応しい幕引きかもしれない。


「――――」

「はあああぁぁぁぁぁ!!」


 空の左手で土塊を射出される前に、オレはナイフに力を込めた。

 田中さんのナイフが瞬く間に押し込まれ、体に傷が――


「――オ、ラァァァァァァアア!!」


 その直後。

 第三者の声が、上から降ってきた。


「――虫けらが」

「――チッ」


 校舎の屋上から飛び降りてくる男。

 プレイヤーネーム『岩崎_12743』。

 直後、男は下に向けている手の平から、巨大な岩石を出した。


 跳び退(しさ)るオレと田中さん。

 攻撃を空振る男。


 そんなヤツの両手首・両足首を、オレが。

 田中さんが首を斬り落とした。


 光となって消えていく男。

 口を開けて何か言葉を発しようとしたので、横向きにナイフを放ち、男の舌を完全に固定した。

 男から視線を切り、懐から予備のナイフを取り出す。

 そんなオレを見て、田中さんは言葉を発した。


「やはり2本目のナイフを持っていたか。ブラフが上手いな」


「ブラフ? 何のことです?」


 オレのその問いを無視し、田中さんが「なあ、水梨」と話を切り出した。


「休戦をしないか? お前もさっきのような邪魔が入るのは嫌だろう?」


「チーミングのお誘いですか?」


 チーミング。

 オンラインゲームで用いられる場合は、本来は敵であるはずのプレイヤー同士が非公式に協力する行為のことを指す。


「ああ、そうだ。別にいいだろう? ラスムダの運営は、チーミングを〝戦略〟として(おおやけ)に認めているのだから」


 そう、それもこのゲームのイカレ具合を押し上げている要因の1つだ。

 オレは田中さんの目を見て、言った。


「魅力的な提案ですが、すみません。その話は呑めないです。あなたを倒すことは、既にオレの計画の一部になってしまいましたから」


「まだ私を倒していないのに、先のことを考えているのか? 取らぬ(たぬき)の皮算用だな」


 取らぬ狸の皮算用。

 まだ捕まえてもいない狸の皮を売ることを考えること。

 その意味から転じて、手に入るかどうかわからないものを当てにして、計画を立てることのたとえに使われるようになった(ことわざ)


「いや――」


 少し笑って、オレは言葉を続けた。


「〝取らぬ田中の皮算用〟じゃないですか?」


「悪いが、言葉遊びは趣味じゃない。水梨、もう一度よく――」


「ごめんなさい――田中さん」


 そう言って、身体強化を発動する。

 そして、オレはナイフを本気で振るった。


「なんか、邪魔が入って白けちゃいました」


「そうか。なら、決着を――え?」


 田中さんが困惑の声を上げる。


「なんでHPが0に」


 田中さんの体は、袈裟懸(けさが)けに切断されていた。


「どういうことだ」


 2つに分かたれた体の上部分。

 それが重力に従い、ずり落ちる。


「水梨、お前」


 刻々と肉体が、光となって消えていく。


「何をした……?」


 ――どうやら田中さんにはオレの腕の振りも、斬撃のエフェクトも、見えていなかったようだ。

 少し。

 ほんの少し。

 速すぎたみたいだ。


『田中_412を倒しました』


 誰もいない校庭で、そんなシステムメッセージが流れる。

 オレは田中さんが最後に存在していた場所を見て、言った。


「ありがとう、田中さん。楽しかったよ」


 あなたのおかげでしばらくの間、自分自身に嘘をつくことができた。


 他者に追い詰められることで得る緊張感。

 自分が負けるかもしれないという恐怖。

 未来がうまく想像できない不安。

 ――ハラハラ、ドキドキ。


 そういった感情を得るのは、本当の本当に久しぶりで。

 振り返ると、思わず涙が出そうになる。


 たとえ――。

 それが、自らの演技で生まれたものだとしても、オレの世界はさっきまで明確に色付いていたのだ。


「さあ、このゲームを終わらせようか」


〖瞳〗を裏返す。

『水梨_73』:プレイヤーキル数18。

 今後のゲームにおいて参考になるであろう情報を頭に刻み付け、オレは身体強化を発動した。


 校舎の壁面を蹴り、屋上に一瞬で移動する。

 もう数秒の猶予も残されていない。

 オレは柵を破壊し、屋上の端に立つ。

 そして、右手を前方へと突き出した。


「――来い、水」


 瞬間、オレの右手の周囲から膨大な量の水が流れ出た。

 止まる気配は、ない。

 そう簡単に止まることなど、あり得ない。


 ――だって、オレはゲームが開始した瞬間に、このマップに存在する海水すべてを対象として、能力を発動したのだから。


 そう、オレが選んだのは現物支配系。

 マップに存在するものを手元へ転送し、操ることができる系統。


 ――海水すべてを転移させる。

 多くの弱者は無謀だと、指を差して嗤うだろう。

 多くの強者は不可能だと、冷静に指摘するだろう。

 しかし、本当にそうだろうか。


『現物支配系の転移速度は、質量や存在そのものの強大さに依存する――軽いものほど速く、重いものほど遅くなるという感じだ――そのため、実用は現実的ではない』


 事実だ。

 でも、このゲームにはプレイヤーを倒せば倒すほど、特殊能力の質が上がるという仕様がある。それは、つまり発動対象の転移速度も上がるということ。


『特殊能力は同時に二つのものを操ることはできない。そのため、あまりに重いものや強いものを呼び出すと、名字(こゆう)の特殊能力がしばらく――あるいは、ずっと使えなくなるという圧倒的不利な状況が待っている』


 事実だ。

 しかし、この仕様は裏を返すと〝いつ使おうと、どの場所で使おうと、どれだけ時間がかかろうとも、ゲームが終わらない限り、対象物は必ず手元へ転送される〟ということを暗に示してはいないだろうか。


『山根_6541を倒しました』


 海水という圧倒的な質量。

 それを前にして、建物や自然が瞬く間に破壊されていく。


『押火_765を倒しました』『佐々木_55453を倒しました』『木下_3334を倒しました』『内田_62を倒しました』『松本_2837を倒しました』


 今の今まで生き残っていた強者たちが、赤子の手を捻るように死んでいく。

 濁流に、蹂躙される。


『椎名_6を倒しました』『永井_4189を倒しました』『石原_220を倒しました』『小田_654875を倒しました』『荒井_9801を倒しました』『栗原_4322を倒しました』『鬼頭_3354を倒しました』『鵜飼_8326を倒しました』『米倉_9043を倒しました』『鈴木_6577を倒しました』『猫本_540を倒しました』『杉原_1548を倒しました』『井上_13を倒しました』『金子_544を倒しました』『竹内_99を倒しました』『三橋_23751を倒しました』『佐藤_55を倒しました』『You Win!』『おめでとうございます。あなたが唯一の生存者です』


 誰もいない世界。

 そして、色彩が曖昧な世界で、オレは呟く。



「やっぱり、有象無象はこの程度か」










 これにて『取らぬ田中の皮算用』第一章完結となります。

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