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第42話 サバイバー

「桐子殿、死神への宣戦布告は時期尚早だったのと思うのだが」


「あのままレナードの阿呆にさせるよりは多少マシだったと思います」


「なんだとぅ!?」


 洋館の食堂を思わせる薄暗い部屋に、数人の人影が椅子に座り長机を囲んでいる。


 集まっているのは「血戦派」の吸血鬼たち。


 その中には椿たちと交戦したレナード、桐子の姿もあった。


 桐子を咎めるのは濃紺の軍服に身を包んだ男、静馬(しずま)


「まあまあ、いつかは起こることだったんだから、さ! そんなに桐子ちゃんを責めたげないでよ~。シズマきゅ~ん!」


 その静馬に言い聞かせるように、かつてラグナロクに潜入していたピンク髪の女、セクレタリー改めエリザベートが言う。


 彼女に賛同するように一人の男が口を開く。


「スポンサーからの了承は得ている。これはエリザベートの言う通り時間の問題だった。重要なのはここからだ。どうやって死神と戦っていくか、それに尽きる」


「でも俺たちの天敵、吸血鬼狩りはほとんど潰しただろ? 今さらビビることないって!」


「ばーか。頭首様のお言葉を遮るんじゃないわよ。馬鹿レナードはいつまで経っても馬鹿なんだから!」


 先ほどの静馬への態度とは打って変わってレナードを罵倒するエリザベート。


「レナード、油断は大敵だ。頭の固い貴族連中を動かすには相応の実績を上げなければならないからな。それと桐子とエリザベートは口に気をつけるべきだ。レナードも同じ道を往く同志なのだから」


「は~い! ロデリック様!」


 黒いトレンチコートを着込んだ男、ロデリックは場を納めながら思案する。


 彼は「血戦派」の頭首であり、吸血鬼という種族全体の中でも指折りの実力者だった。


 実際、彼は「貴き血」(ブルーブラッド)がもたらされる以前に吸血鬼狩りを幾度も返り討ちにしている。


「桐子、静馬。すぐに次の仕事に取り掛かれ」


 そして彼は今、ヴァルキリーによる統治を破り、吸血鬼を人間の上位存在として君臨させようと画策している。


 ヴァルキリーによる統治が十全でない今、吸血鬼勢力の力を利用すればそれも絵空事ではなくなる。


 彼ら「血戦派」の決起は「死神に怯える必要はない」というメッセージを各派閥に伝えるという意味が込められていた。


 吸血鬼ロデリック。


 絶大な力を持つ故に、成るように任せていたカグツチとは真逆の男だった。




「久留間は置いてきて正解だった。あいつの座標に転移で戻ってこれたからな」


「喜捨が殺されたが、いいのか」


「ヴァルキリーに面と向かって宣戦布告してきたんだ。いいわけないだろ」


 警察署に戻ってきた椿と兜。


 兜は自身を守って死んだ喜捨のことを何とも思っていない。


 椿はヴァルキリーのそういったところが大嫌いだった。


(ロスヴァイセが姉妹で最低なのは代わりないが、こいつも中々のクソだな)


「『血戦派』ってなんだ? 聞いたことは?」


「ない。異能者の血を取り込んだ新興勢力だろう」


 そう言いつつも椿は自分の言葉に疑問を持ち始める。


 異能者一人の血でどれだけの吸血鬼が強化できるのか。


 死神に戦争を挑むほどの吸血鬼を用意するには、逃げ出した異能者数人の血で足りるはずがない。


「……まだ見つかっていないラグナロクメンバーの捜索はどうなってる」


「お前が疑ってるのはセクレタリーとかいうイカれ女だろ? 確かゲームの運営? だかをしてた女だ。異能者連中を操って集めんのもわけねえよなあ。当たりを付けたはいいがそこからどうするよ」


 兜の言う通り、セクレタリーを名乗った女が関与している可能性が高い。


 死神でも魔術師でもない正体不明の存在。


 その女がラグナロクに入り込んだ吸血鬼勢力であると椿と兜は判断した。


「当てが全く無いわけではない。が、余り当てにはならない」


「どっちだよ」


 その「当て」というのは、かつて必死の命乞いの末に椿への情報提供を条件に生き延びた吸血鬼狩りの死神マクスウェル。


 吸血鬼牧場という前代未聞の非人道的施設を経営していた一党の生き残り。


「じゃあ今からヴァルキリー権限でそいつ呼ぶから。名前とか二つ名とか、教えろ」


 完全に警察署を私物化している兜。


「マクスウェルだ。吸血鬼狩りの“サバイバー”マクスウェル」


「サバイバー? 何から生き延びたんだ?」


「私からだ」


 突然取調室に派手なチェックのジャケット、白シャツにジーパンの中年男が転移してくる。


 ファッションに気を遣っている様子が見て取れる、スタイルのいい男だった。


 驚いた男は、かけていたサングラスを外して部屋を見渡した。


 そして椿の姿を見つけ驚いた様子を隠そうとするが、隠し切れない。


「久しぶりだなマクスウェル。お前が私を着信拒否にしてから何年経ったかな?」


「そんなわけないじゃないですか……姐さんは機械苦手だから。それで、この女は誰ですか?」


 次の瞬間マクスウェルの頭が兜に掴まれ、取調室の机に叩きつけられた。


「公安怪異対策課長の兜だ。これは挨拶代わりだと思え」


「随分なご挨拶じゃねえか……! 女!」


「その女に喧嘩を売るつもりなら止めはしないが、死ぬ覚悟でするんだな」


 椿が警告するがマクスウェルは頭に血が上っている様子でナイフを取り出す。


 兜は鋭く突き出されたナイフを人差し指だけで止めてみせた。


「姐さん、こいつなにも……ごばあっ」


 兜がさっきまで座っていたパイプ椅子でマクスウェルを殴り飛ばしたのだ。


「狭いんだ。あまり暴れないでもらえるか?」


 椿が双方に呆れて言った。


「サバイバーとやら。このヘルムヴィーゲに盾突いて生き残れると思うか?」


 ヘルムヴィーゲ。


 その名前を聞いた瞬間。


 九十度の角度、鼻が机すれすれにつくかどうかの位置まで頭を下げるマクスウェル。


 その後這うように机の脇まで移動し土下座した。


「申し訳ええ、ございませんでしたああ!」


「マクスウェル。珍しくお前の力が必要な場面だ。あの時命を助けたことを失望させるなよ」

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