⑲ キミの目的は何だ
「それはそれは、あり難き幸せに存じます。」
サン・ジェルマンも、馬鹿丁寧に返事をしてよこした。
あまりの出来事に、雪子は横で目を白黒させていた。
「突然呼び出された挙句、一体、私は何を見せられているの?このサプライズがあなたの狙いだというの、サン・ジェルマン?」
雪子から彼に、当然の質問がなされる。
当のサン・ジェルマンはその問いには答えず、雪子にこう言った。
「私は投資を生業とし、趣味としてコレクターをしております。色々な時間軸の私たちが、貴女や京子さん、その他の様々な人間たちにお近づきになるのは、その人物に投資し、その能力をコレクションするためです。それが不老不死の私の生きる目的です。」
「そう、それは素敵ね。」
「ところで雪子さん、貴女が時空を股にかけて移動し、自分の同位体に、次から次に関わっている目的は何ですか?私はそれがとても知りたいのです。」
「…私は、私の同位体から様々なスキルを集めて、私自身のチカラを高めて、そして…。」
「…そして、最後にどうなりたいのですか?」
「…。」
「もしかしたら貴女は、雪村君になりたいのではないですか?」
「…!?」
雪子はとても驚いた。
もちろん、隣で話を聞いていた京子はもっと驚いた。
「そ、そんなことは…。」
「…そんなことは、無い…ですか?本当に?」
「貴女は様々な時間軸を巡るうちに、ふと気づいてしまったのではないですか?真田雪村君こそがオリジナルの存在で、自分たちの方が、その変異体に過ぎないと。」
「…。」
「念動力や時空跳躍能力などの発現は、当人の自由意思によるものです。もし潜在的にそれらを有していても、本人が欲しなければ現れません。彼は無能力者ではない。敢えてチカラを出していないのです。彼は精神的に、自己を律する能力にとても長けており、それが裏目に出て、チカラを発揮していないのです。」
「…最初に疑念が湧いたのは…大学で雪村と頭をぶつけた時よ。そのせいで私が彼の時間軸で、物理的に実体化できるようになったこと。」
雪子が話し出した。
「初めは、私の念動力を彼に渡したことによる等価交換だと思っていたわ。」
「…なるほど。」
「でも後からよくよく考えてみると、他時空内での実体化なんて、等価交換としては大きすぎるチカラだわ。」
「…そうでしょうね。」
「それに彼の過去に行って、私が一つ一つの危機から彼を救わなくても、自力で無傷の大学生になっていたという事実まである。」
「…確かに。」
「すると結論は一つ。彼はあらゆる危機に際して、無意識にチカラを発揮し、後の当人には、その記憶が全く無い。ということ。」
「…よく気づきましたね。さすがは真田雪子さんだ。」




