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平和のリレー作戦開始へ

「やあ、ダイスケ君、久しぶり! 僕たち、十年後の未来から来たんだぞ。トンネルが復活してね。復活したらまた来るって、約束していただろう?」

 セリア君は立派な青年の姿で大人の声だった。

 だけど笑顔は少しも変わっていない。しゃべりかたもあのセリア君だ。それから、別の宇宙の誰かさんみたいに「しゃべるな!」とは言わなかったので、早速僕はしゃべる事にした。

「そうだったんだ。復活したんだ。だけどセリア君もエリアちゃんも、一体全体どうしちゃったの? 地球人の大人みたい!」

〈もしかして、地球人みたいに長生き出来る方法を見付けたのだろうか?〉

 僕はそれがとても知りたかった。


「ダイスケ君、久しぶりね。驚いたでしょ、私たちの姿。あ、懐かしい。そのリストバンド」

「いつだって付けているよ。エリアちゃんのことずっと思ってるから」

「本当? 嬉しい」

「だけどエリアちゃんも、美人のお姉さんになっちゃったね。凄いよ」

「ありがとう。だけどこれもみんな、あなたのお父さんのおかげなのよ」

「え? お父さんの?」

「そうよ。私、今、二十二歳なのに全然、おばぁちゃんじゃないでしょ?」

「だからダイスケ君。これはみんな、君のお父さんのおかげなんだ!」

「え~! 僕のお父さんのおかげ?」


 それから、「僕のお父さんのおかげ」で何が起こったのかを、セリア君は詳しく説明してくれた。

 セリア君は僕を地球へ送り届けた後オーラム星へ戻り、それからお父さんの論文をじっくりと読んだらしいのだけれど、それには大変な事が書いてあったというんだ。

 お父さんの論文の内容をオーラム星人に当てはめてみると、オーラム星人が三十歳くらいまでしか生きられなかったのは、ある種の「病気」だという事になるそうだ。

 その理論ではオーラム星人のDNAの中にいろんな問題があったらしく、その為に老化がとても速くなり、その上、成長ホルモンという物質が不足して身長が低かったらしいのだ。

 そしてそれを治せば細胞の老化が遅くなり、地球人並みの寿命になって、身長も延びるはずだという。

 しかもお父さんの論文には、その治療法の原理まで書いてあったらしい。

 それで、これはとてつもない研究だと気付いたセリア君は、早速、医学の研究を始めた。

 主に遺伝子操作の研究だ。

 セリア君はこの研究に自分のお金を全て使う事になった。(僕の年俸も!)もちろん莫大な国家予算も使われた。


 実はその研究の過程でオーラム星人と地球人と、そしてオーラム星に残された古い資料から、オリーブ星人でさえも、DNA上全く同じ「人類」だという事が判明したそうだ。

 そうするとこれらの人類に共通する先祖が、どこかの星にいる可能性もあるという。

 それについては、これからセリア君たちが調査するらしい。

 それはともかく、セリア君はそれから数年の歳月を掛け、とうとうその治療を開発したそうだ。

 もちろんそれはオーラム星人の寿命を地球人並みに伸ばすというものだ。

 やがてそれはオーラム星で実用化され、沢山の人がその治療を受ける事となった。

 もちろんセリア君自身も、そしてエリアちゃんもだ。

 それはセリア君たちが一五歳の時だった。

 それまでオーラム星では、十五歳はそんなに若くはなかった。だけどそれから七年程で、セリア君達は若々しくなって身長も伸び、今の姿になったのだという。


「そういう訳で、今の僕らの姿をダイスケ君に見せたくなっちゃってね。トンネルが復活したと聞いたら矢も盾もたまらず、アクエリアス二世号で飛んで来たという訳さ」

「そうだったんだ。でもセリア君たちが僕らと同じ寿命になったなんて凄いよ。本当によかった。あ、だけどトンネルを通ってタイムマシンを使うのは、いけなかったのじゃ?」

「それなら今度のトンネルは前のよりもずっと頑丈らしいから、とりあえず一万年くらいは大丈夫だそうだ」

「じゃあ、それも良かった」

「それとね。これからオーラム星の平和省の人たちが地球に来て活動を始めるそうだ。ダイスケ君にとっては十年後の話だね。ええと過去の人に対して未来の事をあまり話さない方がいいから、これは内緒の話なんだけどさ」

「分かったよ。誰にも言わないよ」

「約束だぞ! それで、いよいよ平和のリレー作戦が開始される事になる」

「そうなんだ!」

「今度は僕たちが地球を平和にする番だ。これは、何十年も何百年も掛かる大仕事だ。もちろん最初のターゲットは、二十一世紀後半の同時多発核兵器テロだ。だけど僕たちオーラム星人が地球人から見て子供にしか見えないのでは、この作戦は不可能だった。これは前にも話したよね。チワワ浜だったよね。だけど君のお父さんの研究のおかげで、僕らはこの地球でも『大人』として十分に通用するようになっただろう。それで平和のリレー作戦が可能になったという訳さ」

「ダイスケ君、つまりあなたの父さんの研究は、オーラム星人と、そして、廻り廻って地球を救う事になったのよ。とても素晴らしい事なのよ」

「そうさ。武内先生と並んで、研究、頑張っていたじゃん。君のお父さん!」


 それから僕らはブランコに乗り、しばらく話をした。

 早速僕はエリアちゃんに、「嘘をついてごめん」と謝ろうとした。

(本当は僕、嘘なんかついてないのだけど!)

 でも反対にエリアちゃんが僕に謝ってきた。

「ダイスケ君。私、地球の事ちっとも知らなかったから、あのときダイスケ君に酷い事言ってしまったわね。本当にごめんなさい」

「いいよいいよ。全然構わないって!」

〈いいんだいいんだ。エリアちゃんが分かってくれさえすれば…〉


 エリアちゃんのその言葉で、ずっと僕の胸につかえていた「塊」が一瞬にして消滅した。

 それから、やっぱりセリア君は、「別の宇宙のセリア君」の事は全く知らなかったようだ。

 それに、殺人光線のカートリッジの事にはとても驚いていた。

 きっと大急ぎで例のブリキの弁当箱を用意したから、カートリッジを間違えたのじゃないかと言っていた。

 でも僕は、セリア君がカートリッジを間違える「運命」にあったのではないかと思っている。

 やっぱりお父さんはあの日、「死なないといけなかった」のではないかと思うんだ。

 別の宇宙のセリア君だって「殺人光線用」を持って来た事を考えても。

 それから、別の宇宙のセリア君が僕に何もしゃべらせなかったという事も話してみた。

 そしたらセリア君、「何という神経質な奴!」と言って笑い転げていた。

 別人だったんだ。そっくりだったけれど。

 だから未来の事も、少しくらいなら話しても構わないそうだ。あんまり言っちゃいけないらしいけれど。

 それをいい事に、早速僕はセリア君に僕の未来の事をきいてみた。そしたらセリア君、

「それを言っちゃぁおしめえよ」なんて言って、なかなか教えてくれなかった。

 でも僕は聞きたかったので、バナナ監督みたいにごちゃごちゃ言って食い下がった。

 そしたらセリア君はこう答えてくれた。

「それは君の努力次第だ!」と。

 それと、セリア君はずっと以前から、僕の事を「ダイヤの原石」だと思っていたそうだ。だからこそ、僕はお父さんを「運命」から守る事が出来たんだって。

 それから、ダイヤといってもオーラム星のじゃなくて、地球のダイヤだから誤解するなって。

 だけど僕がいつまでも原石のままじゃダメだ。磨かないといけない。その為に僕がする事は山のようにある。だから今のうちからいろんな勉強をしておく必要もあるし、いろんな経験を積む必要もある。丈夫な体も絶対に必要だから、野球も頑張れって。

「大人」になったセリア君は、大人っぽく僕にそんな話をしてくれた。 

 それからセリア君は、未来の事はあまり言えないから、これはあくまでも自分の「妄想」だからすぐに忘れて欲しいと前置きしてから、僕の未来の話をしてくれた。

「ずっと未来の事だけど、君は大統領になる。もちろん『地球の大統領』だ。チワワ浜で話しただろう。戦争が無くなったら『世界政府』が出来るって。だから平和のリレー作戦が成功した暁には、君はその『世界政府』の…、つまり、地球の初代大統領さ!」

 その話を聞いて僕はまた腰が抜け、乗っていたブランコから滑り落ちた。

 ぼぼ、僕が地球の大統領だなんて!

 セリア君が突然とんでもない事を言い出すのにはすっかり慣れっこだったけれど、いくら何でも僕が地球の大統領…

 だけど考えてみると、夢はいくら大きくても構わない。

 だって、いくら大きな夢を持っていても、誰にも迷惑を掛ける訳じゃないし、「お前はバカか」なんて言われたっていいじゃん。

 そんなの言わせておけばいいし。

 それに、出来るか出来ないかなんて、やってみないと分らないだろう? 

 だから僕は、そういうとんでもない夢に向かって頑張ろうと思った。

〈僕は地球の大統領になる!〉

 そう思う事は僕の勝手だもん!


 それと、セリア君が僕をオーラム星へ連れて行った「もっと本当の理由」とは、もしかしたら、この事だったのかも知れないと、僕は後から思った。

〈僕は地球の大統領になる人物だから…〉

 でもそれは、僕のうぬぼれかな?

 それに、「セリア君と僕は友達だから!」

 僕にとって理由はそれで十分だ。


 それからセリア君が「お父さんへプレゼントだ」と言って、あの論文の入った鞄を僕に返してくれた。オーラム星に十年以上も置いてあったので、鞄の革がひび割れ、とても古ぼけていた。

 それでセリア君が言うには、もし自分が開発した治療法を地球人に応用したら、地球人の寿命はさらに伸びるかも知れないという。そしてそれを突き詰めると、「不老長寿」の治療法になるかも知れないそうだ。

 それで、その治療法開発のヒントを紙に書いて(多分乱暴な字で)論文の最後のページに付けておいたから、この鞄を「小学校の校庭で見知らぬお兄さんから渡された」とか言って、お父さんへ返すようにと言った。

 お父さん、ぶったまげるぞ。

 へたすると、ノーベル賞ものだよ!


 そして僕らは、「十年後の未来でまた会おう」と約束した。

 十年後、大人になった僕と再会するのをエリアちゃんはとても楽しみにしているそうだ。

 僕らはいつまでも仲間だね! 

 そして僕は、セリア君とエリアちゃんと握手をして別れた。

 別れる時、最後にセリア君は僕にこう言った。

「とにかく未来は変えられるんだ。前にも言ったように、本当はまだ決まっていないからさ。君のお父さんの未来だって変えられただろう。だから人類の未来だって、きっと変えられるはずなんだ。僕はそう信じてるよ!」


 オーラム星の少年プロ野球 完

 争いのない世界を祈念して

 2023.6.11


 エピローグ

 アメリカの天文学者カールセーガン博士の「コスモス」という著書の中で、現在、銀河系内に地球程度の文明を持つ惑星が幾つあるかという試算をしています。二千億とも言われる銀河系宇宙の星の中で、それは数十程度だという結果でした。

 ただし「核戦争で数千年以内に滅亡しなければ」という前提がありました。

 しかし、その高度な文明が必然的に数千年で核戦争を起こし滅亡するならば、その数は「数十」から、一気に「一」にまで激減するだろうとも予測しています。

 その「一」とは、もちろん地球のことです。

 そしてもしそうであるならば、人類は宇宙の中で「孤独な存在」となってしまいます。

 たった数千年で滅びるなら、数十億、数百億年という宇宙の歴史の中で、それは本当に本当に短い、それこそ一瞬の存在になってしまうからです。だからそうなると、人類は他の文明とは決して出会えないのです。

 そういう意味でも、宇宙の中で地球は奇跡的存在です。

 人類の存在はもちろん、生命の存在自体も奇跡的と言えます。

 そんな奇跡的な星の上で、どうして人類は争っているのでしょう。どうして人類は互いに傷つけ合い殺し合い、その上、奇跡的な地球環境を破壊し、放射能で汚染してしまうのでしょう。

 だからこの奇跡の地球環境、奇跡の人類、奇跡の文明を、生き長らえさせたいと思います。

 はるか宇宙の彼方に、我々の住むこの太陽系を、天体望遠鏡で見ている文明が、きっとどこかにあるはずです。

 そんな彼らに出会う日まで、我々人類は自ら平和を維持し、たとえそれが何十億年後であったとしても、我々は、ずっとずっと、その時が来るのを待たなければいけないと思います。

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