☆別の宇宙のセリア君?
それから僕は泣きべそをかいているみんなと一緒に座った。僕だけはなるべく怖い顔をして。
だけど怖い顔でも泣きべそでも、どちらでも良かった。とにかく!「僕ら」のどちらでもいいから、あの紙に気付いて欲しかったんだ。
だけどやっぱり僕も涙が出てきた。
僕は怖い顔をしながら、顔の半分で泣きべそをかいていたんだ。
それでも僕は、棺桶からアクエリアスが飛び立つところが見えないかと目を凝らした。
でも涙で棺桶がゆがんでよく見えかった。
だけど見えないなら耳がある。
それで僕は耳を澄ました。
最初僕は蚊が飛んで来たのだと思った。でもよく聞くと、蚊の羽音とは明らかに違う。
「シュウィーン」と唸っていた。それは聞き覚えのある、アクエリアスの、あの電気掃除機のような音だったんだ。
〈もしかして?〉
そして懐かしい、セリア君らしき声!
「ダイスケクン ニカイヘイコウ!」
僕は嬉しくて嬉しくて嬉しくて腰が抜けた。それで腰が抜けた僕はまた四足動物になって階段を上り、二階の自分の部屋へと向かった。
アクエリアスも僕を追いかけているようだった。
それから僕は自分の部屋に入ると、かすかに見えるアクエリアスが部屋に入るのを確認してからドアを閉めた。
そしてアクエリアスはそのまま床の上に着陸した。
早速僕は机の引き出しからブリキの弁当箱を出し、それを開けると光線銃を手に取り、カートリッジを取り出してもう一方の手に持った。
それから僕が床の上に目を向けると、米粒大のアクエリアスが突然大きくなり始めた。
〈やばい。部屋の中で元の大きさ戻るなんて!〉
僕はそう思ったけれど、アクエリアスはプラモデルくらいのサイズになると、大きくなるのを止めた。
それからややあって、今度はアクエリアスからオレンジ色の光線が出て僕に当たった。
するとアクエリアスはまた「大きく」なり始めた。
〈やっぱりやばい。僕の部屋の中で…〉
でも今度は僕の部屋もいっしょに大きくなっていったんだ。という事は、今度は僕が小さくなっていったという訳だった。
それで結局、僕もアクエリアスも、最終的には24分の1くらいのプラモデルのサイズになっていた。
それからアクエリアスのドアが開き、中からセリア君が手招きをしたので、僕はすぐに乗り込んだ。
僕はセリア君が懐かしかったし助けて欲しいしで、一気にしゃべろうとした。
でもセリア君は「ちょっと待てて」なんて言って、それからアクエリアスを発進させ、僕の部屋の本棚の上に並べてあったスポーツカーのプラモデルたちの間に着陸させた。USJのお土産の、デロリアンの隣だ。
これで誰かが部屋に入っても、アクエリアスはプラモデルの一つだと思う、という訳だろう。
それからセリア君がしゃべり始めた。
「ダイスケ君、よく聞いておくれ。僕は今、君にとって過去にいるんだ。だから君が僕に話し掛けると、それは君自身の過去に影響を与える可能性がある」
僕は「何だって!」と言おうとしたが、セリア君は冷静な顔で人差し指を口に当てたので、僕はそのまま自分の言葉を飲み込んだ。
「まああくまでも可能性だけどね。まあいい。とにかく今、君は黙っている方がいい。君の過去を変更しかねないからだ。もしそうなったら時空連続体が…、まあとにかく、今は僕の言う事を一方的に聞くだけにしてほしいんだ。それともう一つ。本当は僕と君は別の宇宙にいる。ややこしいかもしれないけどね」
よく分からないし、めちゃくちゃややこしいけれど、僕はそっとうなずいた。〈やっぱり別の宇宙?一方的に聞くだけ?〉
「それから、僕といっしょに宿題を取りに来た〈君〉は、千分の一のサイズのまま眠らせてある」
セリア君は小さな空きビンを僕に見せた。中では親指くらいのサイズの「僕」が眠っていた。
「〈君〉と〈君〉が鉢合わせするとやばいと思ったんだ」
鉢合わせがやばいというのは何となく僕にも分かったので、僕はそっとうなずいた。
「だから、もう一人の〈君〉にはしばらく眠っていてもらう事にしたんだ」
僕はうなずく以外に、何をする事も許されていなかったので、また僕はそっとうなずいた。
そしてセリア君は話を続け、僕は一方的にそれを聞いた。
「君は知っていると思うけれど、僕らは、今眠っている〈ダイスケ君〉の宿題を取りに七月二十日に来る予定だった。だけどタイムマシンが誤作動して、この日に来てしまったんだ。そしたら君の家でお通夜をやっていたので、とても驚いていたところさ」
別の宇宙のセリア君たちも全く同じ事をやっていたので、僕も驚いた。
「それで、君のお父さんは昨夜八時頃、トイレを出て突然倒れたんだね。お通夜に来ていた人たちが話していたよ。それと学位論文がだめになったそうだね。それで僕らは作戦会議中だった」
〈やっぱり作戦会議…〉僕がそう思っていたら、別の宇宙のセリア君は僕が手に持っていた光線銃とカートリッジを目ざとく見つけ、少し考えてから、僕にこう言った。
「つまり君がその光線銃でお父さんを撃ったという事だね。昨夜お父さんがトイレを出た、その瞬間に」
別の宇宙のセリア君の洞察力にドキリとすると同時に、僕は後ろめたい気持ちが張り裂けそうで、うつむいた。
「いいよいいよ。気にするな。まあどういう理由で撃ったのかはきかないよ。きいてもしょうがないし。だけどそのカートリッジは殺人光線用だね。しかもまずい事に最強のやつだ。作用時間は十年くらいかな」
〈作用時間?〉僕はしゃべろうとしたが、別の宇宙のセリア君はあわててまた口に指を当てて僕を制止した。
「そう。作用時間だ。それが十年。でも君のお父さんが十年もあのままじゃ、きっとこの星の習慣として、お父さんは明日にでも焼かれて骨にされて、それから土の中に埋められてしまうだろう。だからすごく具合が悪いよね」
僕はそっとうなずいた。すごく具合が悪い事は思い切り良く分かる。「作用時間」はさておいて。
「それで、これから僕はオーラム星へ帰って、適当なカートリッジを持ってきて、それと交換しておくよ。タイムマシンを使って、うまい時期を見計らってすり替えておくからね」
〈殺人光線? 作用時間十年? 適当なカートリッジにすり替える……〉
分かるような分からないような話だけど、うなずく意外に何も許されていなかった僕は、再びそっとうなずいた。
「それともう一つ。僕がこれから始める行動は、君のお父さんの〈未来〉を変える事なんだ。何故なら、僕は君たちにとって〈過去〉にいるからだ。だから心配はいらない」
何がどういう風に心配はいらないのか、僕にはさっぱり分らなかったけれど、別の宇宙のセリア君がそう言うのだったら、心配はいらないのだろう。とにかく未来を変えるってこと…、僕はそう考える事にした。
とにかく僕は、セリア君の言葉を信じる他にはなかったし。
それで僕は、これで何度目か分らないけれど、またうなずいた。
「それともう一つ。さっきも言ったように、僕は君が知っている〈僕〉とは違うんだ。ややこしいかも知れないけれど、時空連続体の中では『別の宇宙』にいるんだ。だからここで眠っているいる〈ダイスケ君〉も本当は〈別の宇宙のダイスケ君〉さ。分かるかい?僕だって言われてみれば、君の知っている〈僕〉とは微妙に違うだろう? 全く同じ訳ではないんだ。何たって別の宇宙にいるからさ。まあいい。とにかく僕がうまい事やっておいてあげるから。カートリッジは机の引き出しの中だね。とにかく僕を信じろ! あとは君にまかせる。君ならきっと出来る。自分に自信を持てよ!」
そして僕は、さらにもう一度そっとうなずいた。
でも決して〈分かった〉という意味ではない。
ややこしくてややこしくてややこしくて、頭が爆発しそうだったんだ。
それからアクエリアスは発進し床へ降り、僕は降りて、そして元の大きさに戻された。
するとアクエリアスはまた小さくなってから離陸した。
それで僕は窓の所へ行き網戸を開けると、アクエリアスはその窓から外に出て、そのままどこかへと飛んで行った。




