どうやって回避したの?
「それは約一億年前の事だ」
「一億年も?!」
「うん。その頃、オリーブ星という、とても高度な文明を持った星があったんだ。そしてその星の住人であるオリーブ星人たちは、宇宙船でこのオーラム星にやって来た。だけどそのときのオーラム星は戦争に明け暮れていた。何度もの世界大戦があったらしいし、将来そういう『手の付けられない戦争』を起こして滅亡する事さえ予測されていたんだ」
「オーラム星が滅亡する?」
「そうなんだ。そこで彼らはそれを回避する為に、オーラム星である作戦を実行した」
「どんな作戦?」
「つまり手の付けられない戦争を、根本から起こらないようにしてしまう、という作戦さ」
「戦争を根本から起こらないようにする…、でも、どうやって?」
「それはね、どんな争い事にも必ず歴史の節目といえる時期があるんだ。地球で例を挙げれば真珠湾攻撃。あれを止めていれば歴史はどうなっていただろう」
「ねえ、セリア君って、オーラム星人なのにどうしてそんなに地球の事に詳しいの」
「僕は科学省地球調査班のチーフだ!」
「凄い! でもプロ野球選手じゃ?」
「プロ野球選手だよ」
「じゃ、二足のわらじだね!」
「まああと何足かあるけど」
「まだあるの? じゃ、セリア君って多才だね」
「多才? いいからいいから。それでね。オーラム星の場合なんだけど、オーラム星にやって来たオリーブ星人は、まずオーラム星の過去も未来も調べ上げたんだ」
「未来も?」
「一億年前、すでにオリーブ星人はタイムマシンを持っていたからさ」
「そんな昔からタイムマシンを持っていたの?」
「そうなんだ。彼らの文明は凄かったんだ。それで彼らオリーブ星人はオーラム星の歴史の節目と考えられる歴史上の出来事を徹底的に調べ上げた。地球で言えば『真珠湾攻撃』とか『同時多発テロ』に当たるような、重要な出来事さ。大統領の暗殺なんかもそうだよね。そして彼らはオーラム星人の社会に入り込み、いろいろな働きかけをやった」
「それって『スパイ大作戦』みたいだね」
「そうだよ。その作戦にはオリーブ星のいろんな分野の人たちが関わったらしい。歴史学者とか政治家とか外交官をやっていた人とかスパイみたいな人たちもだ。そして彼らは、あるときは政府高官になって開戦を引き延ばす交渉を粘り強く続けたり、それこそスパイみたいな活動で、テロを未然に防いだりしたんだ。そしてそういう戦争へと向かうような歴史上の出来事を、ことごとく『向かわない』方向へと変えた。そしてそういう活動を何十年も何百年も続けた」
「そんな事を…、何百年?」
「そう。そういうことを何百年もやって、そしてそういう事を延々とやると、世の中が少しずつ変わる」「変わる?」
「変わるんだ。変わって、平和になって、そしていつしか戦争そのものが、根本から起こらなくなっていったんだ」
「延々と続けて、すると戦争そのものが…、根本から?」
「だけど、それだけじゃ不十分なんだ」
「どうして?」
「戦争を止めただけじゃ、また起こるかも知れないだろう」
「そうか」
「だからやはり長い年月を掛けて、同時に人の心も変えていった。これは教育さ。これにもいろんな分野の人たちが関った。教育者とか心理学者とか。そしてオーラム星の人たちに粘り強く『戦争の無意味さ』や、『恨みっこなし』の考えを広めていったんだ。これだって何十年も何百年も続いたんだぜ」
「じゃ、戦争を止めて、人の心も変えて…」
「そうしてオーラム星に永遠の平和がもたらされたという訳さ」
「永遠の平和かぁ。凄い! やっぱり教育って大切なんだね。『恨みっこなし』を広めなければいけないんだね」
「そうだ。つまり戦争を止めて、人の心を『恨みっこなし』に徹底すれば、いつかきっと戦争なんて、無くせるはずなんだけどな。途方もない時間はかかるかも知れないけれど…」
「戦争が無くなるといいなあ」
「だからオーラム星で戦争が無くなったように、地球でも戦争が無くなるといいよね」
「うん!」
「それでね。実は、オーラム星で戦争が無くなると、国境が無くなったんだよ」
「国境が?」
「もちろん民族とか文化とかに基づいた『境界』というものは今でもちゃんと残っているよ。だけどナショナリズムの元となる『国境』というものは自然に消えてしまったんだ。だからオーラム星には今、世界政府しかない」
「世界政府? 凄いなぁ。ナショナリズムって?」
「独裁的な政治家が『我が国を怒らせるとどういう事になるか、目に物見せてやる!』みたいな演説をやって国民を熱狂させてナショナリズムを煽り、戦争に突っ走っていくんだ。そういう話、知らないか? ちなみに、そういう政治家は必ず核兵器を持ちたがる。力を持って他国を服従させたいからさ」
「核兵器を持ちたがる政治家が、戦争に突っ走るの?」
「そうさ。とにかくそういうのがナショナリズムの、最悪の一面なんだ」
「怖い話だね」
「だろう?」
「だけど、国境って消えるものなの?」
「考えてもみなよ。地球を宇宙から見たら、国境なんて見えないだろう?」
「そうだよね」
「だから国境なんて、本当は人間が脳内で勝手に作った代物に過ぎない」
「そうか。だから見えない国境を境にして、血みどろの戦いをやる理由なんて…」
「本当はそんな理由なんて無いと思うんだ」
「僕もそう思う!」
「それとね。戦争が無くなると、素晴らしい事が起こるんだ」
「どんな事?」
「オーラム星の場合、それから一億年も文明が栄えたんだ」
「一億年も?」
「そうだ。そしたら三十年しか生きられない僕らだって、こんなに技術が進歩した」
「そうか。アクエリアスとか、タイムマシンとかだね。それってもしかして、凄いよ!」
「ありがとう。それでね。ここが重要なんだけど、今度はオーラム星がどこかの星に平和をもたらす番なんだ」
「どこかの星?」
「オリーブ星、オーラム星、そして、次の星へと平和を伝えていくんだ。つまり星から星へ平和をもたらし、それを維持する知恵も伝承していく」
「そうか、平和を伝承していくんだ」
「だからそれを平和のリレー作戦というんだよ」
〈そうだったんだ。それが『平和のリレー作戦』だったんだ!〉
セリア君の長たらしい説明で、僕の疑問にやっと決着が着いた。
それとどうやら、とんびとニワトリカラスのいざこざも決着が着いたようだった。
奴らが取り合いをしている間に餌がポトリと落ちて、それを遠くで狙っていた巨大雀がハヤブサのように飛んで来て急降下し、素早く餌をくわえて満足そうに飛んで行ったんだ。
最初からいざこざなんてしなければ良かったのにね。バカみたい。人間も鳥さんも。
「ところでセリア君は地球の調査に来たって言っていたよね?」
「科学省の仕事さ。でも地球人から見て僕らは子供にしか見えないから、それが大問題なんだ」
「やっぱり平和のリレー作戦の次のターゲットは地球?」
「まだ出来ると決まった訳じゃないよ」
「どうして?」
「僕らが子供に見える限り、地球人の社会に入り込むとしても、子供の世界だけだからさ」
「子供の世界だけ?」
「子供だけじゃ世界を動かせないだろう。この問題は今のところどうしようもないんだ」
「どうしようもない…」
「だから今の僕に出来る事は、地球の調査のほかは、少年野球の助っ人くらいだね。だけどそこで僕は君を見つけた」
「僕を?」
「君ほど左ピッッチャーを上手に打てる打者も、そうそういないんだぞ」
「そうかなぁ!」
「自信自信! だからシリウスのポアシをがんがん打ってくれよ」
「ここじゃ僕が助っ人なんだもんね」
「そういう事。でもね、ダイスケ君を連れて来た、もっと本当の理由はね…」
「もっと本当の理由? そんなのがあるの?」
「それは君が…まあいいや。いつか教えてあげる」




