一体どんな作戦だろう?
だけどセリア君は、またしても僕に意外な質問をした。
「ところでダイスケ君、報復の連鎖って知っているかい?」
「え~と、やられたらやり返すからまた相手がやり返すからまたやり返す…、みたいな?」
「そうだね。これは無限に続いていくんだ」
「つまり、やられたらやり返すからやり変すからやり変すからやり返すからやり返すからがずぅ~~~~っと?」
「そうだね。だけどここが問題なんだけど、ほとんどの場合、やり返された側は〈一方的にやられたから…〉としか思わないんだ」
「う~ん…」
「酷い事をされた。仕返ししてやる。訴えてやる。そうやって仕返しして、でも仕返しされた側は、ただ単に〈酷い事された〉としか思わないんだ。分かるかい?」
「うーん。何となく、ってかよくわからん」
「つまりだよ。最初に自分たちの方から悪い事をしたくせに、その事はすっかり忘れてさ。いや、理性的には分かっていても、感情的には許せない…」
「感情的に許せないから、またやり返すの?」
「そうだ。だからこうして『やり返す』の無限のループが出来てしまうんだ。言い換えると報復が報復を呼ぶ。つまりこれが報復の連鎖だ」
「で、それと平和のリレー作戦と、どういう関係があるの?」
「いいからいいから」
「いいよ。報復の連鎖は分かった。それで?」
「それで、報復って普通何倍かにして返す、なんて話があるだろう?」
「そうか。『千倍にして返す!』とか、どこかの国の超お偉いさんかなんかが言っていたような気がする」
「何も千倍にして報復しなくてもいいだろうに」
「そうだよね、いくらなんでもそれは…」
「だけどこれが現実なんだ。だからやられたらやり返すから、報復が報復を呼ぶという無限の鎖になるのだけれど、これを繰り返すうちに、報復がどんどん増幅し、ついでに憎しみもどんどん増幅していく」
「ずっとそんなことやってる国、あるよね。この頃やり始めた国だってあるし…」
「そうなんだ。それでね。仮にそういう感じで報復が増幅しながら無限に続いたとしたら…、いつまでもいつまでもやられたらやり返す、つまり報復を続けて、そしてどんどん軍事力を強めていって、揚句には核兵器なんかも開発してさあ。そしていつまでも報復を続けて、そしたら最後に起こる事は何だ?」
「報復が増幅して、核兵器を持って、永遠に報復して、増幅して…で、どうなるの?」
「全面核戦争とかだろう?」
ドカ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン!
「一巻の終わりだろ?」
「ひえ~」
「だから、どこかで報復の連鎖を断ち切らないといけないんだ。とにかくやられたらやり返すは、どこかで卒業しないといけない。そうしないと自分たちが滅びるまで戦いを続けるはめになる」
「滅びるまで戦い続けるはめ?」
「そうだ」
「そうかぁ。確かに、そうかも知れないな…」
「だから、何とかしないといけないんだ」
「だけど、簡単じゃないよね」
「それは簡単じゃないさ。だけどね。結局大切な事は、〈許す〉という気持ちなんだ」
「許す?」
「許せない! 訴えてやる! なんて言っている人たち」
「うん」
「僕はそんな人たち、本当は不幸だと思うんだ。許す気持ちを持っている方が、結局は幸せになれるはずなんだけどな。それに何か悪い事をした人には、そうせざるを得なかった特別な事情があったかもしれないだろう?」
「何か特別な事情?」
〈そうだよな。誰にだって止む追えない特別な事情があったかも知れないよな。別に悪気がなくっても、そうせざるを得ない特別な状況に追い込まれる事もあるかも知れないよな。戦争やいろんな紛争をやっている人たちには、もしかすると、そうせざるを得ない何かがあったのかも知れないよな。みんな悪い悪いと言ったって、本当に全て悪いとは限らないのではないだろうか…〉
「だからいつかは許した方がいいと思うよ」
「つまり怨みっこなしって事?」
「いい言葉だね。地球人、いい言葉を持っているんだから」
〈怨みっこなし。許す。みんなそれぞれ事情がある。そうかも知れないな…〉
「だけど『恨みっこなし』で解決しない事もあるんだぜ」
「そんな事も?」
「泥沼の戦争を年十年も何百年もやっている人たちに『ごめんなさい』なんて言ったって、鉄砲で撃ち殺されるのがおちだよ。恨みとか復讐心で凝り固まっているんだから」
「うーん…」
「戦争っていうのは得てしてそういう状況になるんだ。だから一度起こってしまうと、時として手が付けられなくなるんだ」
「手が付けられなくなる…」
僕はまた、セリア君が黄金マンションで誰かさんと電話で話していた、あの話を思い出した。
(二十一世紀後半の同時多発核兵器テロに全面核戦争に放射能…)
思い出したくもない恐ろしい話。
だけどそれがもし事実なら、それから目を背けてはいけないのではないのか?
僕らはその事実を知る義務があるのではないのか?
地球人として…
それで僕は、恐る恐るセリア君にきいてみた。
「ねえセリア君。もしかして二十一世紀後半の地球に、そんな手の付けられない戦争が起こるの?」
するとセリア君は、ちょっとためらっていたけれど、だけどセリア君はその事を僕に、はっきりと答えてくれた。
「君だけには教えておくね」
「うん」
「起こるんだ!」
〈そんなのいやだ…〉
「だけどね、そんな手が付けられない戦争を回避した例はあるんだ」
「本当?」




