第五章 第一節 アラビア王国へ
五人を待ち受けていたのは大歓声であった。王子が戻ってきたことが奇跡だったのだ。それだけではなかった。街中には電線があちこちに復旧している。
電気が通っているのだ。かつてのように快適な暮らしとまではいかないがもう天候に左右されずとももうバイオマス発電によって魔導物質に頼らずとも灯りのある生活に戻ったのだ。
「王子、王宮につきました」
タウス、ケンの表情は固い。なぜなら後ろには鬼族の子が親書を持ってがいるからだ。
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ジラント王国の親書の結果は後日に届く。 しかし、もう一つ重大な親書がここにあった。
鬼族の一派、大元帥派の親書である。
もちろん受け入れるべきか、受け入れるべきではないのかを国会で議論する必要があった。
決議までの間、特使となった鬼族の子アラ、ミラは国賓待遇として迎え入れられた。
タウスは鬼族との本当の出会いのいきさつをあえて隠すことにした。冒険の途中に鬼族の村を発見し説得したということにした。
王子は細身の剣を自由自在にこなせるようになっていた。王族らがアラ、ミラの指導を見張る。それだけではなかった。「サルワの悲劇」後事実上止まっていた野球、サッカー、ソフトボールなどの球技を国主導で事実上再開することにしたのだ。アラとミラは始球式に参加した。アラとミラを恐る恐る見る観客。
国会の決議は可決された。ただし嘘だった場合に備えて条件付可決となった。報告がほとんどとどかないアラビア王国へ親書を届けること、とあったのだ。砂漠には竜が棲み付き、暴れまわるという。「サルワの悲劇」後は両国には交流があまりなかったのだ。というよりも国として存続しているかも怪しい状態であった。王子とアラとミラがアラビア王国に派遣される。この議決にタウスとケンはさらに複雑な表情をあらわにした。
城門をくぐると文明の恩恵はまだ到達していなかった。砂漠の烈風が3人を襲う。友好国アラビア王国への旅が始まった。ホルムズ海底トンネルは鉄道ごと破壊されたため迂回せざるを得なかった。
アラとミラに聞いても「アラビア王国には凶暴な竜が棲み付き、中心部にはうかつに近づけない」という話のみであった。
鬼族でもうかつには近づけない地域なのだ。隊商に聞いても同じであった。ジラント王国と違い、やはり車ではなく駱駝のキャラバンであった。街道の脇に捨てられた自動車の残骸が文明が逆行したことを証明している。
チグリス・ユーフラテスの大河にかけられた橋は無残にも破壊されていた。ここが国境である。検問所にたどりついた。アラとミラは今は正式に神聖ファリドゥーン王国の北方に住む住民として登録されいた。検問所を潜り抜け船に乗るとそこはアラビア王国である。為替もすませ旅券に印を押してもらい、国境を船で通る。国境の傍に街がすぐ見えた。
一行は絶句した。最初に来た町が津波で全壊となっていたからだ。
ここは十五年前の悲劇の時と時が止まっているのでは?というような光景であった。サルワの悲劇時には地震も起きていたというが津波まで来ていたのだ。
高層ビルの低層部分が潰れている。ビルが倒壊したままになっている。廃墟と化したビルに人が住んでいる。緑化は電気ポンプによって配水が行なっていたためか砂漠に戻ってしまっている。高速道路が壊れたままになっている。ここはまだ首都ではない。国境沿いに栄えた街クゥエートである。
さびついた時計の針が午後三時のあたりで止まっている。小学校も病院も何もかも……。
残った住民は交易でかろうじて食べていた。漁業は出来ない。湾内は高濃度魔導汚染水で汚染されているため海産物を食べてしまったら獣族や半獣族の場合は自我を失った魔族になるかガンになって死ぬのだ。人間の場合は気がつかぬうちにガンになるという。飢餓からか、それでも海産物に手をつけ死んでしまったもの、魔族に戻ってしまったものも多いという。墓標が至る場所で見られる。
ここから先は魔族の世界、魔との戦いなのだ……。
さらに南下すると人もいない廃墟から唸り声が聞こえる。魔に戻ってしまったものどもの飢えた獣の声が砂漠に響いた。




