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12人の少女 最終計画  作者: ヤマネコ
始まり
9/164

2020 9/1(9)

よろしくお願いします。

伊藤「よぉ~理科~」


エントランスのソファーで座って待っていると伊藤が部屋から出てきて流れるように理科の隣に座ってきた。ほとんど話したことが無いはずだが、不思議と嫌な感じはなかった。


理科「…どうも」


緋色に続いてまたも普通に話せた。なぜ特定の人にはスラスラと話せるのか自分でも分からず気味が悪かった。伊藤はそんな理科を見て少し微笑んでいる。


伊藤「力は何を手に入れた?」


理科「それは…」


伊藤「おいおい、言おうとするなよ」


聞いといて答えを聞かないとはムカつくなと思いながら彼女の表情を見てみるとムスッとした顔をしていた。


伊藤「…多分だけど、このゲーム簡単に片付くものじゃない」


理科「根拠は?」


伊藤「ここにいるやつら…。理科は会ったことないか?」


理科「いや、クラスが一緒のあなたと保健室で会う星名さん以外には接点がないよ」


伊藤「さっき清水と仲良さげに話していたよな」


理科「社巫女さんと話はしたけど…仲がいいのかって…いうとどうだろう」


伊藤「社巫女…? 名前呼び?」


理科「え? そうだね。名前で呼んでいるよ」

伊藤「ふーん」


面白くなさそうに顔を逸らしている。


理科(もしかして伊藤さんと社巫女さん仲悪いのかな…)


伊藤「お、みんな来た」


伊藤が理科の顔を見ないで複数の扉が開いている方を見る。理科もつられてみる。この空間に来て初めて姿を現した瀬奈来夏。彼女は眠そうに目を擦った後に、欠伸をして口を手に当てながら近くの椅子に座った。


瀬奈と目があう。眠そうな目をしている彼女に自分はどう映っているのか…。それは本人にしか分からない。


後ろを見ると、椿と宮永が何かを話しながら伊藤から少し距離を取って座った。いつの間にか奈那子と楓も理科の近くに座って話をしている。


緋色・星名も部屋から出てきて1人で座っている。緋色はスマホをポチポチいじっていて、星名は何かを考えているのか無表情で誰もいない壁の方を見ている。明坂と茅野はボードゲームの方で倒れるように寝ていた。机の上には遊んでいた途中だからか、ゲーム盤の上に駒が倒れて転がっている。


理科(社巫女さんがいない)


今エントランスに集まっている人を確認すると清水の姿だけない。


椿「あれ?清水さんは?」


伊藤「まだ部屋にいるみたいだな」


緋色「まぁ、まだ5分前だから平気だろ」


奈那子「朝倉さん、見てきてよ」


理科「…わか…り…ま…し…た」


抵抗してもウザがられるだけと思って、清水の部屋に向かう。スマートフォンを見てみるが彼女からのチャットは無い。


清水の部屋をノックすると扉が開かれる。部屋に入らないで入り口で待っていると中から「入ってきて」と声が聞こえた。言われるがまま中に入ると清水が口元に指を縦に立ててシーっとしろというジャスチャーをしていた。


チャットで用件を聞こうとすると持っていたスマホの手首を握られ、自分の耳もとに彼女の小さな口が寄せられた。


清水「今から話すことに何も返事をしなくていい。だから聞いてね」


清水「…またこの建物に戻るまでずっと私の手を握っていてほしいの。理由は誰がどの力を持っているかを炙り出したいから…。安心して? 私は〈身代わり〉持ちだから理科ちゃんが狙われても私が引き受けるから、理科ちゃんは何もされない。お願い」


うそだ。だって身代わりを持っているのは私だ。理科は自分の力が〈予感〉と〈身代わり〉であることを知っている。手を握っているのは…どんな効果があるのか…〈入れ替わり〉

や〈変装〉を使うきなのだろうか…


理科(…。いけない。さっきから社巫女さんのことを疑ってばかりいる。最悪予感を使えば乗り切れるか…? 今はとりあえずみんなの所に行かなきゃ)


分かったと首を縦に振ると、清水は理科の腕を組んで手を繋いできた。しかもただ手を繋ぐだけじゃなく指と指を絡ませている。初めて指を絡ませて思ったのが、思ったより指を絡めるのがくすぐったくて…腕を組まれると歩きづらいことだった。


清水さんの部屋から出ると、他の10人がこちらを見てきた。それぞれ反応が違った。

柊姉妹3人はびっくりとした顔をしていて、明坂・茅野・宮永・緋色は特に反応もなく「早く来いよ」という雰囲気を出している。星名・瀬奈は何かを納得したような顔をしている。

伊藤は…目を見開いていた。


清水「みなさん遅れてごめんなさい。さぁ、行きましょう。理科ちゃん」


明坂「それじゃあ全員揃ったわね。行くわよ~」


明坂・茅野・宮永が先頭になり、次に緋色・楓、椿・奈那子・瀬奈、伊藤・星名、最後尾に理科と清水が並んで歩いている。


理科(具体的にどうやって炙り出す気なのかな…)


清水は誰がどのような力持ちかを見極めるつもりだろうが…。腕を組むことで本当に炙り出せるのか…。清水は理科の横にピタッとくっ付きながら歩く。やはり歩きづらい…。

止めないかと提案しようと思ったが、ニコニコ顔で話しかけてくる彼女を見ながら歩いているとそんな気持ちが薄れていった。


清水「それでね~」


本当に今朝取り乱していた人と同一人物なのか…。時間を置くとこうも変わるのか…。と疑心になっていると前から誰かに見られている気がした。


理科(?)


清水の顔を見るのをやめて前を見てみると他の10人は前を向いて各々が談笑している。


理科(気のせい?)


腕を組んでいた力が強くなっていた。彼女の小さな身体からは想像も出来ないくらいの強さで腕を引いている。驚いて清水の方を見るとさっきのニコニコ顔はどこに行ったのか、真顔で目じりを釣り上げている。


清水「誰を見ていたの?」


理科はスマートフォンを取り出して個人チャットに書き込む。


理科『誰かに見られていたような気がしたので』


そう書き込むと納得したのかニコニコ顔に戻る。情緒不安定に思えてきた。


理科(?)


良く見ると、個人で理科にチャットを送ってきた人物がいた。誰かと思い名前を見てみると星名メアだった。


トーク画面を見てみると


星名『清水さんは結構な人見知りだから手助けしてあげて』


返信をしようとしたが、私がスマホを突いているのを嫌がったのだろう。少し不機嫌になっていた。自分が話をしている時にスマホに意識が向くのは確かに良くないなと思い、ポケットにスマホをしまった。


理科(…星名さんは社巫女さんと仲が良いのかな)


そこまで関係のない人の心配をするのか…。でもある程度仲が良かったらあの白い部屋で取り乱していた時に声をかけるはず…。星名さんのことは少し警戒しておこうと気持ちを引き締める理科。


明坂「着いたわよ」


12人が足を止めると高級焼き肉店の前まで来た。何人からは「おー」と興奮している。値段が高いが、その分高い肉を使っていて人気がある。


椿「お金あるの?」


茅野「領収書貰っておけば返してくれるって言っていましたし平気ですよ」


奈那子「返してくれる保障なんてないと思うけどな~」


宮永「その時はそのときですよ。こういう時こそ、おいしいものを食べて元気を出さないと持ちませんよ」


楓「私も早く焼肉食べたいです。匂いを嗅いだらお腹が空きました」


緋色「私も~」


瀬奈「うっそ焼肉~?服に匂いついちゃうじゃん」

茅野「なら入らなくていいですよ?」


瀬奈「目の前でおいしそうな匂いがするお店に来て入らないってのはなぁ…。お金は誰が出すの?」


茅野「絵美が1人で払います」


瀬奈「本当? ごちになります~」


明坂「亜李…。あなたね…」


茅野「足りなかったらあの男どもに払わせましょう」


明坂「それもそうね」


宮永「私もお金を払ってくれる男に心当たりがあるのであまり気にせず食べましょう」


奈那子「そんな人がいるんですか?」


宮永「います。便利ですよ」


楓「男を財布代わりなんて…私もそれが出来るようになったほうがいいかもしれません」


椿「妹が不特定多数の男を財布にしている所を見てしまったらどんな顔をすればいいのやら…」


10人が店に入る。清水は理科と腕を組んだまま動かない。何かあったのかと思い顔を下に下げると…少し不機嫌そうな顔をしていた。


清水「理科ちゃん」


こっちを見ている清水と目があう。


清水「理科ちゃんは人を財布扱いするようなことはしちゃだめだよ?」


理科『しませんよ。第一男の知り合いがいないので』


清水「…そ、ならいいの」


理科の腕を再び引いて2人もお店の中に入っていった。






お店を出る。会計をしている時、レジに表示される数字がどんどん大きくなって桁が増えていくところを遠くから見ていたらまたここに来ようと思えなくなった。明坂1人でお金を払ったが、実は実家がお金持ちなのか…。


12人全員お店から出る。


瀬奈「ふぃ~食べた」


楓「お腹パンパンです」


緋色「あ~苦しい。伊藤、おんぶしてくれ」


伊藤「お前の足にロープを巻いて、車に引っ掛けてやろうか?」


緋色「あっはは、伊藤は過激な人? 絵美と亜李と宮永と気が合いそうだな」


茅野「ちょっと沙耶、それはどういう意味ですか?」


明坂「聞き捨てならないわね。沙耶1発逝っとく?」


宮永「私も手伝いますよ」


緋色「冗談だって…。間に受けるなよ」


伊藤「……ふん」


伊藤は最後尾にいる理科と清水に近づき、理科の隣に付いた。理科が真ん中で、右に伊藤、左に清水という配置になった。伊藤はポケットからチュッパチャプスを2つ取り出し、1つを自分の口で銜えた後、もう1本を理科の方に差し出してきた。


伊藤「舐めるか?」


伊藤は銜えていた飴を口から取り出すと、飴と唇に透明な線が繋がっていたが途切れてしまった。


理科「じゃあ…いただきます」


素直に受け取る。味はグレープだ。包装紙を指で剥がして口に運ぶ。なんてことのないただのグレープ味の飴だ。


伊藤「うまいだろう」


理科の目を見て二かっと微笑む。不味くはないが、そこまでおいしいかというと…微妙だった。しかし貰った手前、「おいしいよ」と言うと、理科の手を繋ぎ始めた。少し頬を緩ませていたが、次の瞬間彼女の手は離れた。


清水「何勝手に理科ちゃんの手に触っているの?」


腕組を解除して伊藤の手を離させる。


伊藤「何すんだよ」


清水「そっちこそ、何勝手に私の理科ちゃんと手を繋いでいるの?」


伊藤「いいだろ?手を握るくらい。というかお前はどの立場からそんなことを言えるわけ?」


清水「私が理科ちゃんの相棒だからよ」


「相棒」という言葉を聞いた伊藤は目じりを上げるが、すぐに落ち着きを取り戻したようで


伊藤「朝倉もこんな奴の相棒なんて大変だな」


そのままスタスタと先に歩いていってしまった。


清水「理科ちゃん?」


理科は恐る恐る振り返る。


清水「他の子とあまり仲良くなったら嫌だよ?」


彼女の目が赤くなっていた。




ホテルに戻る。各自入浴を済まして、それぞれ時間を潰した後に部屋に戻っていった。


理科「私はなんで社巫女さんのことをあんなに疑っていたのかな」


部屋の布団に身を投げて、貰った黒猫のぬいぐるみを抱きしめる。


抱いているととても清水のことが心強く思え、彼女を守らなければいけないという感情がドッと押し寄せてきた。


理科「そういえば…」


さっき星名からチャットが来ていたのをスルーしてしまったので改めてみる。


星名『清水さんは結構な人見知りだから手助けしてあげて』


理科はすぐに文字をシュッシュッと打ち込み送信する。


理科『任せてください』


欠伸が出る。時間を見るともうすぐ日付が変わる時間だ。


黒猫のぬいぐるみをパソコンの隣に置いて部屋の電気を消す。


理科「ふぁ~…」


大きな欠伸を一つした後、眠りについた。



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