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23 防衛

 俺たちは、城下を防衛するべく生き残った天馬の元へと向かっていた。


「天馬の急襲部隊を送ってくるとは、赤根め。我らを侮ったな」

「どういうことですか? 伊那さん」


 その途中で合流した伊那さんの独り言に質問した。

 伊那さんもこの瘴気騒ぎを鎮めるべく、城下のあちこちを駆けまわっていたらしい。


「天馬は数が少ない貴重な魔物。それ故に、急襲部隊として使われることなどほとんどありません。失敗して数を減らしてしまっては、合戦時の空中戦力が無くなってしまいますから」


 移動速度は速いし、上からいろいろ降らせることもできるから、急襲には向いてると思ったが。どうやら、そうもいかない理由があったようだ。


「急襲部隊によって相手を壊滅状態に陥れることができると確信していなければ、このような作戦が取られることなどないのです」

「なるほど。今の紅条なら天馬十騎で襲ってしまえば、軽くひねりつぶせると思われているわけですね」


 たしかに、今の状況がまさにそれだ。

 立ち向かえる空中戦力が、相手の十騎に対してこちらはたったの二騎。おまけに防衛のための結界もはることができず、未だに城の中は混乱している。


「対空戦力の要である天守も、瘴気のせいで使い物にならないようだし」

「はい。天守の主な役割は、霊脈から霊力を城の機能へと分散させること。また結界の起点でもあります。そして、魔導兵器も天守に。しかし、今回は霊脈を乱すように瘴気の陣が巡らされていました。赤根の手によってかなり綿密に計画されていたのでしょう」

「せっかくの天守の効果も全て使い物にならないと」

「もはや、紅条城は使い物にならないも同じ。後は人の手で守るより他はありません」


 結界などの効果のない城など、リアルの城と何ら変わりはない。

 魔法の存在するこの世界では、張りぼても同然だろう。


 ここに、空爆がしかけられれば、ひとたまりもない。

 赤根の策がはまれば、紅条の城はこの奇襲によって陥落しただろう。


「えっと……あの、朱良様と何かあったのですか? 先ほどから一言も言葉を交わされていませんが」


 恐る恐るといった感じで、伊那さんは俺と朱良さんを交互に身ながら聞いてくる。

 確か伊那さんと別れたのは、<花鳥風月>の強化を頼んだ後、伊阪屋でお昼を食べる前だ。あの頃は、俺と朱良さんは仲良さげに話していたから、伊那さんにしてみれば一度別れた間に何があったのか気になるだろう。

 言うつもりはないけど。


「あー、ちょっと、喧嘩中なんです」

「け、喧嘩中。聞いた話では、コハク殿が朱良様を赤根の魔の手から守ってくださったと」

「それは、そうなんですけど。なんにせよ、喧嘩中なんです」

「その、戦に差し支えないのであればかまわないのですが」


 それはきっと大丈夫。何もいがみ合っているわけではないのだから。


 前方に羽の生えた白い馬が二頭見えた。


「伊那様、こちらが何とか難を逃れた天馬二頭でございます」


 天馬を連れた男が伊那さんに報告している。


「二頭か……かなり少なくなったな」

「もともとは何頭いたんですか?」

「もとはたしか、二十はいたはずです」


 伊那さんは馬役を下がらせ、一頭を朱良さんに渡した。


「お二人が行くんですか?」

「もちろんです。現状、戦に出れるものの中で一番の武芸者であると私は自負していますし、朱良様の天馬捌きはこの城、いや、この国一です。人馬一体とはまさに、朱良様のためにある言葉ですよ」


 そう言うのなら、それでいいだろう。

 この城の人材のことは俺には何も分からない。朱良さんや伊那さんにお任せするのが正解だ。


 俺は俺のできることだけすればいい。


「サクヤ!」


 サクヤを呼んで、天へと駆けあがる。

 後ろから朱良さんと伊那さんが天馬で追ってくる。


「コハク様! 空軍は魔導師が多く当てられます。魔法の打ち合いから始まりますので、ご準備を」

「わかりました」


 空からの急襲というならば、主な攻撃は空爆となるだろう。

 魔法の打ち合いは俺にはできない。どうにかして、近づいて行かないと。


 俺も準備をしないと。


 星弓を取り出し、【七剣星】を発動する。


「貪狼、巨門、禄存、文曲、廉貞、武曲、破軍。七つ結びて矛となれ。七剣星」


 七つの球体を身にまとい、敵が来るのを待つ。


 弓に星矢をつがえ、引き絞る。


 【無限の星】のCTは0.5秒。MPは1。

 一秒に二本創り出すことができる。

 一分もあれば、百本以上のの矢を生成することができるのだ。


 弓につがえている一本と、俺の周りに浮かぶおよそ百本の矢。【七剣星】の光球。


 それらを準備して、敵を待つ。


 奴らがこの町にたどり着く前に、撃ち落とす。


「私の合図で放ってください」

「お願いします」


 俺には遠見系のスキルはない。

 でも、伊那さんの言うとおりに動けば間違いはないだろう。何しろ、紅条家の中でもかなりの武芸者と言い放つ人だ。


「――3、2、1、今です!」


 伊那さんの合図と共に、矢を放つ。

 弓弦から放たれた矢と共に、俺の周りに会った矢も飛んでいく。

 およそ百の矢の群れが敵の進路を妨げる。こんなことで、撃ち落とせるとは思っていない。でも、足止めにはなっただろう。


 この隙に、一気に駆ける!


「サクヤ!」


 俺の声と共に、サクヤがトップスピードで宙を駆ける。

 天馬とはスピードが違う。朱良さんと伊那さんを置いてきぼりにしてしまうが、仕方がない。


 あっという間に敵を視界に収めた。


 飛んできた矢の群れを回避するために、それぞれが散開して隊列がバラバラだ。


 そこに付け込む。


「行け! 【七剣星】」


 七つの光球をそれぞれ騎手に飛ばす。


 できるだけ、天馬は生け捕りにしようかと思うのは、余計な考えだろうか。

 しかし、この後のことを考えるのならば、空中戦力は多い方がいいはずだ。


 よって、天馬は鹵獲。乗っている兵は突き落とすか、余裕があれば捕虜にするか……でも、さっきみたいに肉傀儡に化けられても嫌だしな。


 敵からも炎や雷が飛んでくる。


 サクヤはそれを軽やかにかわすと、彼らの上空を陣取った。

 これは俺がサクヤに事前にお願いしていたことだ。腹を見せることで隙になるかもしれないが、そこはサクヤだから大丈夫だろう。それに、こうすれば、俺の欲しい所に影を作ることができる。


 まずは、一人目。


 短刀を取り出し、【影縫い】で天馬にできたサクヤの影から飛び出す。


「いつの間に!?」


 突然現れた俺に驚いているそいつに、【飛閃・鴉】で鎧通し。ぐったりとうなだれ、行動不能。


 騎手が意識を失い制御を離れた天馬がいななき始めるが、俺が呼んだサクヤが【流星顕現】で駆け付け、唸って見せればおとなしくなった。

 天馬も神獣・ハティは怖いだろう。騎手を落とさないように地上に向かわせれば、おとなしく言うことに従った。


 今度は、天馬を鹵獲されるのはまずいと敵の攻撃が一層激しくなり、その攻撃から鹵獲した天馬を守りつつ、新たに天馬を鹵獲するというかなり凶悪なミッションだなこれ……サクヤと共に少しずつ数を減らしていく。


 牧場の羊を小屋に追い込むように、サクヤが敵の周りをぐるぐると追い込みをかける。

 その間に俺は、別の天馬を仕留めにかかる。

 その繰り返しだ。


 少し遅れた伊那さんと朱良さんが合流し、形勢は逆転する。


 そのころには敵は七体にまで数を減らしていた。


 俺が天馬を鹵獲していることに、呆れたような顔を浮かべながら、朱良さんはスキルを発動する。


「全員、私を見なさい!」


 空に響く朱良さんの声。思わず、俺も朱良さんへと視線を向けそうになる。

 だが、これは朱良さんの相手の注意を自分に向けるスキルだ。


 敵の魔法が全て朱良さんへと向けられる。


 その全てを華麗な手綱さばきで、避けていく。

 何であんな動きができるのか。サクヤですらできないだろう。俺が乗っていればなおさらだ。

 宙返りはもちろんのこと、曲芸のように天を翔ける。

 伊那さんが言っていた、人馬一体。正にその通りだろう。いったいレベルをどこまで上げればあんな動きができるのか。

 思わず見惚れた。


 おっと、俺は俺の仕事をしないと。


 今の間に、伊那さんが二頭を仕留めていた。

 早い……


 朱良さんが敵の注意を引き付け、その間に俺と伊那さんで敵を無力化していく。

 俺たちは着実に敵の数を減らしていった。

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