19 尋問
「なぜ、私を消し去ろうとしたのです? 私があなたに何かしましたか?」
俺は朱良さんへの尋問を開始した。
「あなたが桃太郎だから」
朱良さんは生気の感じさせない表情でポツリと言葉をこぼした。
やはりそうか。
「朱の国では、桃太郎はいてはならない存在なんですね」
「はい」
「桃太郎が鬼にとって脅威だからですか?」
「この国には、古くから伝わる言い伝えがあるのです」
「言い伝え……それはどんな?」
「桃太郎が大陸より来るとき、鬼の住まう島は滅びるだろう。かの者に逆らってはならぬ。かの者に反してはならぬ。かの者に敵対してはならぬ。生き延びるには臣従するのみ」
滅びるか、配下に加わるか。
物騒な言い伝えだ。
しかし、俺はこの国を亡ぼす気などさらさらない。
「いったいどこの誰がそんなことを……」
「わかりません。いつだれが言い伝え始めたのか。言い伝え自体も口伝の物。記録には残っておりません」
そうか。まあ、それが分かったとしてもあまり意味はないか。
今は、朱良さんに集中しないと。
そうなれば、俺をこの国に招き入れたこと自体が疑問だ。
それほどまでに恐れられているものなら、初めから関わることすらしなければよかったのに。
俺の【情報詐称】は出会ったときから、彼女には効いていない。あの森で出会ったときから、俺が桃太郎であるということは知っていたはずなのに。
「それなのに何故、私をこの国に招き入れたのですか?」
「あなたに、他の家に行かれてしまったら困るのです。この紅条家に敵対する家に。赤居の家につかれてしまえば、紅条の家は滅んでしまう」
これまた、セレナの時と同じようなお家のお話だな。
「時は、戦国。群雄割拠の乱世なのですよ、この朱の国は。栄華を築いた紅条家も、前当主の父が戦で討ち死に、後を継いだ兄も病に。今や、紅条家は没落の途中。そんなときにあなたが現れた。対鬼への切り札。鬼同士の戦であれば桃太郎を味方に付ければ、安泰。そう考えて、あなたと仲良くなれるように努めました」
戦国時代……!
紅条家は戦国大名家だったのか。
「それに<月華薬>は絶対に必要でした。兄が病より回復すれば、紅条の家も盛り返す。あなたを朱の国に迎え入れるほかなかった。迎え入れたのなら、どうにか紅条の味方になってもらうしかありません。話をしていけば、あなたはいい人だった。どうにか繋がりを保つことができれば、きっと紅条のお味方になってくれる。私があなたの家臣になれば、きっと。そう思って」
「だからって、あなたが私の家臣になどならなくても」
「あなたの心に紅条への楔を討つには、それが最も効果が高いと思ったのです。私は、武家の女。紅条のお家のためなら、この命この体は、惜しくはありません」
時代劇でよく聞く、お家のためならば。
「でも、あなたにはばれてしまった。であれば仕方なし。次善の策、あなたにはこの国から出ていってもらおうと。また戻ってこられてはかなわない。どうしても私の目の届く所に居てほしかった。紅条の家に敵対する勢力に行かれでもしたら」
外の世界を見てみたいと、その言葉はやはり嘘だった。
連れていって欲しいと言ったのも、俺を監視下に置くことが彼女の目的だったのだ。
「それも無理だった。最後に残ったのは、あなたを殺してしまうこと。少し心苦しかったですが、紅条の家のため。旅人は殺しても甦る。しかも、ここのポータルは解放され、いつでもここに来ることができる。残された手段は黄泉の国へと送り届け、その命を逃さないでいてもらうこと。そうすれば、絶対に生き返ることなどできない」
それが、彼女の真実。
最初から最後まで、全て騙されていたのか。
「こんなことをしなくても、理由を話していただければ」
「こんなこと話せるはずないでしょう。あなたが何をきっかけに、この国を亡ぼすのか分からないのだから。だから、あなたがこの国に滞在する理由がなくならないうちに、こうして仕掛けたのです」
「この国から出ていきましょう。もうこの国には立ち入りません。約束します」
「その約束には何の力もない。臣従を誓っていたものが、一月後には父に謀反を起こす。そうして父は死んだ。人の心は簡単に移ろいゆくもの。私の目に見えていないものなど、信じられはしない」
彼女は見えすぎるがゆえに、見えないものを信用しない。
「では、どうしろというのです? この国から独りで立ち去ることは許されない。消え去るつもりはもっとない。あなたの監視下にずっといればいいと?」
「はい、そうしてください」
……ふざけるな。
でも、もう彼女から聞き出すことは何もない。
今すぐ、ここから出ていこう。
ここまでされて、はいそうですかと、彼女の言うとおりになどできない。
<花鳥風月>を兼芳に預けていることが心残りだが、後日、折を見て取りに行けばいい。
もしかしたら朱良さんに回収されてしまっているかもしれないが、その時はその時だ。この城下の地図は既にある。忍び込んで取り戻せばいい。
自白剤の解毒薬を朱良さんに飲ませる。
状態異常が解除され、うつろな瞳に生気が戻った。
「私は……? はっ」
キッと俺を睨み上げた。
「私に毒を盛って無理やり? このようなことをする人だったなんて」
「それはこちらのセリフだ。朱良さん。人の嘘はすべて丸裸にするくせに、あなたはこんなにも嘘まみれ。初めからすべて俺を騙すためのものだったんだな」
「コハク様?」
俺の言葉遣いが荒っぽくなったことに驚いているようだ。
しかし、ここまでされれれば、荒っぽくもなるだろう。
俺はもう、この人が嫌いだ。
「そっちがその気なら、俺だってもうこんな国に居ようとは思わない。あなたが信じようが信じまいが知らないが、俺はすぐにこの国を出ていく。もうここには来ない。この島には足を踏み入れない。ああ、<花鳥風月>を取りに来るのだけは許してくれよ」
言いたいことはそれだけだ。
さっさとこの国から出ていこう。
「ま、待ってください! 私も連れていって!」
朱良さんの声も聞こえるが、もう聞く耳は持たない。
何が悲しくて、自分を監視している人を旅に同行させなければならぬのか。
俺は部屋を出てすぐに詐称系スキルを除いて、気配を消した。
その後すぐに、部屋から朱良さんが出てきて、あたりを見渡し、俺がいないことを確認すると、宿の出口に向かって走っていった。
後ろから追いかけれられるなんてことはされたくない。それに、こんなことで走ることも。
もう誰にも見つけられないのだから、ゆっくりと行けばいい。
城門を閉じられても、俺にはポータルがある。
俺を探しに走り去る朱良さんの後を、俺は歩いて付いて行った。




