02 熊たちの狂乱
あれから俺たちは目につく限りのハニーベアーを狩って狩って狩りまくった。
レアドロップの恩恵は、俺ほどではないにせよ彼女たちも受けていて、上肉や熊の手、胆嚢などをドロップしてははしゃいでいた。
なんだかよく分からないが俺に張り合っていたジャスミンさんも、レアドロップの誘惑には勝てなかったのか、認めてくれたのかは分からないがこれでお金に困らないと泣いて喜んでくれていた。いや、実際は目をらんらんと輝かせて、狩りまくっていたから泣いてくれていたかは知らない。
「そのフィールドボスのところには、まだ着かないんですか?」
「もうちょっとだね。でも、先にハニークイーンビーを倒さないと」
「エサのロイヤルハニーを取らないとね」
話によれば、フィールドボスのバーサクベアーは出現範囲が広すぎて効率的に出会うことができないらしい。そこで、ハニークイーンビーからドロップするロイヤルハニーというアイテムを木に塗り付け、バーサクベアーが出現するのを待つ作戦をとるのだという。
こちらの方が効率はいいようだが、それでもバーサクベアーを倒すためにハニークイーンビーを探すところから始めなければならないため、随分と手間がかかるようだ。
そこで、俺を連れてきてレアドロップを落とす確率を高めようという作戦である。俺はボスと戦えば、レアドロップを落とす男であるからな。
そういったお得情報をどこから集めたのかと聞けば、クエストの報酬にNPCから情報がもらえることもあるらしい。
俺も、NPCと交流しないといけないかな。セレナたちとは仲良くなれたし、NPCとも積極的に交流をはかろう。うん、頑張る。きっとできるさ。
「あ、見つけた。っていうか早くない?」
「コハクちゃん効果です」
ハニークイーンビーを見つけたようだ。どうやら、かなり速いペースらしい。
でも、ま、ハイオーガの少ないはずのオーガの森で五体に一体はハイオーガに遭遇するコハクちゃんですから。この程度、朝飯前よ。
「これ、普通に歩いてれば、バーサクベアーにもヒットするんじゃない?」
「いいじゃない、ハニークイーンビーも見つけたんだから。もしかしたら、極上のロイヤルハニーとかドロップするかもよ」
しかし、戦闘以外の部分で疲れた。
俺は女子高生のきゃぴきゃぴ感にはついていけないのですよ。
もう一人、女性がいなくてよかった。まだ姦しくはない。え? はたから見てれば女が3人だって? 残念、女二人と性別なしが独りでした。
「ほら、行くよ、コハク」
「わかりました」
「初撃はいつものよろしく」
そうは言われても弱点が分からんのだよ。
俺の鎧通しは、弱点の位置が分かっていないと使えない。
哺乳類だと思われるモンスターの内部弱点はある程度、予測できる。
でも、虫型はよく分からない。
虫型のモンスターと戦ったことないし。
それを伝えれば、
「弱点……? あ、火属性が弱点だね」
「後は……とりあえず針と周りのハニービーナイトに気を付ければ大丈夫」
だめだ、二人と俺の戦い方はこんなにも違ったのか。
「いつもとは違うけどいいかな?」
「うん? まあ、なんかやるなら、やっちゃっていいよ。ハニークイーンビーなら私たちでいくらでも倒せるから」
じゃあ、やりますか。
【鑑定】
<ハニークイーンビー> LV.28
ハニークイーンビーの後ろに回り込む。
うわ、でっか。虫が無理な人間としては早く終わらせてしまいたい。
<風・鳥>の二刀を抜き、左手にまとめて握った。
助走距離を稼ぎ、スキルを発動する。
【疾風】【飛鳥】
十分に速度に乗ったところで、後は流れ作業だ。フラウカリオン戦の最後にやったきりだが、体が覚えている。
【ショートカット】<火鬼の大剣>【紫炎乱舞】【投擲】
ああ、長い。省略だ。
――流星!
大剣は紫炎を噴き出しながらゴウゴウと、ミサイルのように飛んでいく。
その後ろを、俺は飛翔して着いて行く。
ガツッと、ハニークイーンビーの胴を突き抜けた。貫通ダメージが蓄積していき、【紫炎乱舞】の効果でダメージ量が上昇していく。
突然背後から弱点の火属性の攻撃を叩き込まれ、驚いただろうハニークイーンビーはギギギっと鳴き喚き、周りのハニービーナイトがぶんぶんと暴れ始めた。
クイーンビーから突き出た<火鬼の大剣>の柄を脇に挟みこみ、しっかりと抑える。
「吹き飛べ――」
【蒼槍炎舞】
蒼炎が迸る。
ハニークイーンビーは貫かれていた大剣から抜けて、そのまま吹き飛んでいった。
「おおっ」
本当に吹き飛んでいくとは思っていなかった。ちょっと驚いた。
【蒼槍炎舞】が終わる前にぐるぐると振り回し、あたりのハニービーナイトを焼き焦がす。
この攻撃でクイーンのHPは4割削れていた。
吹き飛んだクイーンの方には、二人がもう向かっていたので、俺はこちらのナイトたちを潰すことにする。
一輪挿し【連花】で先程まで戦っていた真っ黒な熊を出現させる。虫との戦闘経験はないので、どういった感覚器で判別しているのかは分からないが、できるだけリアルに作りこんだものを、幻術として周囲にはなった。
地面に突き立てた<花>から距離をとり、様子を見る。すると、あたりにいた20体ほどのナイトたちが一斉に群がり始めたので、幻術はしっかりかかったようだ。
これを背後からたたく。
<静寂の暗殺用短剣>を取り出し、一匹ずつ確実に落としていく。不意打ち状態に入ったので、クリティカルの威力が上がり、先程の【蒼槍炎舞】のダメージと火傷の継続ダメージを合わせて、順調に倒していくことができた。
【連花】の効果時間に間に合わずに2体ほど残ってしまったが、それならば問題なく倒すことができた。
クイーンの方を見れば、もう残りは1割も残っていなかった。
流石はゲーマー妹とその友人。俺なんかとは格が違った。
「コハク、最後はどうぞ!」
「了解です」
<火鬼の大剣>を取り出し、CTの明けた【蒼槍炎舞】を発動。
蒼炎を噴き出す大剣を叩き付けた。
ハニークイーンビーはポリゴンに分解され消え去った。
「誰に落ちてる?」
すぐさまストレージを確認して、ロイヤルハニーを探す。お……
「極上のロイヤルハニーなら」
「さっすが」
「スーパーレアドロップが安定するってどうなの……?」
そんな突っ込みはジャスミンさん。しかし、俺もアリサも何も言わない。
無視されて、ジャスミンさんは悲しそうだ。
「じゃあ、塗るから準備はいい?」
その辺りで適当に狩りをさせていたサクヤも呼び戻す。
ハニークイーンビーを相手どるには、サクヤは過剰戦力だと言われ、自由に解き放っておいた。
実は俺のストレージの中にはサクヤがとってきた、極上のロイヤルハニーがもう一つあったりする。
これは秘密だ。もし、バーサクベアーを倒しても、アリサの望みの物がドロップしなければ提出するつもりではあるが、もう必要がないとなれば俺の懐に入れてしまおう。売るかアシュリーさんのところに持っていくかはまだ決めていない。
アリサがロイヤルハニーを大木に塗った。
その大木から離れて待つこと、3分。
地面が揺れるどの地響きが轟き、それは大木に体当たりするかのようにロイヤルハニーに突っ込んだ。
「来た!」
「コハク、よろしく!」
「了解です」
【鑑定】
<バーサクベアー> LV.25
――【勧善懲悪】特攻対象です。
おっし、うれしい誤算だ。悪特攻が乗るとは思わなかった。
バーサクベアーの背後に忍び寄り、
【飛閃・鴉】鎧通し<頸椎>
ギャギャギャと黒い刃が首元で回転し、エフェクトを散らす。
倒れて、そのまま動かないバーサクベアーに遠距離から跳んできた白い光線が突き刺さる。サクヤだ。
サクヤの魔法でガリガリとHPが削れていき、一気に8割にまで食い込んだ。
倒れ伏したバーサクベアーにアリサとジャスミンさんが畳みかける。
アリサの拳は雷のエフェクトを纏う。
攻撃力が馬鹿みたいに高い。自前のATK上昇系のスキルと、おそらくジャスミンさんにもバフをかけてもらってる。パーティ全体のATKが上昇するスキルのようだが俺には効果がない。上がるATKがないのだ。
おまけに俺のクリティカル発生率のUPと威力上昇までかかってるものだから、一撃の重さがすさまじい。5撃ほどで5割に到達した。
「うっわー、気持ちいいくらいにクリティカルが入る。やっぱり、コハクちゃんがいると楽だなー」
「攻撃特化系の支援職とかうちにピッタリすぎるんですけど」
戦闘中に軽口を叩けるくらいには、楽勝な空気が流れていた。
だが、それは吹き飛ばされる。
初めに気付いたのはサクヤだ。高感度の索敵でそれの接近を感知した。
続けて俺たちも異変を感知する。
「な、何!?」
「もう一体、大きいのが来る!?」
バーサクベアーへの攻撃の手を緩め、あたりの警戒に入る。
そして、そいつは現れた。
バーサクベアーよりも、一回りは大きい。
金色に光りを反射する毛皮。
出現スピードからも分かるように、バーサクベアーよりも速い!
明らかに格が違う。
【鑑定】
<北天の大熊:カリスト> LV.30
うっわ、名前の書かれ方が、ハティと同じなんだけど。
どうしてこんな奴が……うん、心当たりがありすぎる。
犯人は極上のロイヤルハニーだ! あのレアドロップが呼び寄せたに違いない。あいつが悪いんだ。俺は悪くない!
カリストの咆哮が響き渡る。
はて、ハティは北欧神話の月を食べてしまう狼だということは知っている。きっとそれがネタ元だ。
では、カリストはなんだろう。ただ、北天の大熊と言われればなんとなく察しはする。
星座の話だろう。おおぐま座。北斗七星を含むやつだ。
だとすれば、だ。このあたりは熊のモンスターが出てくるのが主流のようだし。もう一つ悪い予感がないわけではない。
「一つ言ってもいいですか?」
「フラグが立たないようなことならね!」
「北天の子熊……とか、出てきそうですね」
「だから、言わないでって、コハクのバカ!」
いやでも、出てこないと思って出て来られるよりも、出てくると思って出てこない方がいいじゃない。
おおぐま座が出てくれば、こぐま座も出てきそうなもんだ。北極星が尻尾のやつ。だって、親子だし。
そんな馬鹿話をしている場合ではなかった。
もう逃げられそうにない。
「ジャスミンとコハクちゃんで、バーサクベアーをお願い。私とサクヤで、あいつを押さえとくから」
アリサがそういうのなら、それがいいだろう。
その指示通りに、俺たちは散開した。




