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星空のメロディー⑤

「お手とか、お替りとか、お座りを覚えさせるの大変だった?」

 私も犬を飼うのはロンだけだから偉そうには言えないけれど、この辺りはどこの子だって普通にできるので「簡単に覚えると思う」って答えた。

「そうなんだ……」

『あー。失敗した。また話が切れる』

 どうして里沙ちゃんや他の友達だと話が続くのに、江角君相手だと会話を切ってしまうような話し方になってしまうのだろうと後悔していた。

「飼い主じゃなくて、俺の言うことも聞くの?」

 切れたと思った会話を江角君が繋いだ。

「ロンが認めていれば、聞くと思うわ。たとえば……そう『マテ』とか」

「まて?」

 待てって言ったらロンは止まるのよ。

「言ってみてもいい?」

 なんだか好奇心旺盛な子供みたいな言い方に可笑しくって笑いながら了解した。

 江角君は恐る恐る「まて」と言った。

 ロンは、しらんぷりして進んでいる。

「合図の声はシッカリとした声じゃないと、聞かないわよ」

 私がアドバイスすると、江角君は深呼吸してから「マテ!」と言った。

 前を歩いていたロンは声に反応して止まり、振り返ってお座りして合図を出した江角君を見た。

 江角君は自分の合図をチャンと聞いたロンに感動して、腰をかがめて姿勢を正しているロンに抱きつかんばかりに近づいて頭や首周りを揉みくちゃにするように撫でまわして「賢い!賢い!」と何度も褒めた。

 江角君に褒められているロンは、私の顔を見上げて「僕って凄いでしょ!」と言わんばかり。

 私もそんな賢いロンが可愛くて江角君と一緒にナデナデして褒めてあげた。

「江角君、犬、好きなんだね」

 江角君は珍しく照れながら、幼稚園の頃に人んちの犬に噛まれそうになって以来、犬が怖くて嫌いだったことを教えてくれた。

「今は?」と私が聞くと

「今?今はまだ分からないけれど、とりあえず“鮎沢ロン”は大好きになった」

 と答えた。

「鮎沢ロン?」

 私がビックリして言い返すと。

「だって、家族なんだろ!」

 って言われ、私は嬉しくて「うん!」と答えた。

 途切れることのない話をしながら歩いいていると、いつの間にか木立を抜けて丘の上に出ていた。

「わあっ!」

 江角君が感嘆の声を上げて夜空を見上げた。

 私も遅れて見上げると、昼間思い描いていた以上の星空がそこにあった。


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