中学最後の大会⑦
いよいよコンクール当日。
十日前に行われた市の大会を突破した私たちが目指すのは、この大会を突破して全国大会に出場すること。
演奏する楽曲もそのために手が加えられた。
お父さんもお母さんも応援に来るけど、ロンだけ来ない。
茂山さんの好意で留守中、カフェであずかってもらうことになっている。
里沙ちゃんのソフトボールの試合と違ってホールの中なのでロンは連れて行けない。
それでもロンは絶対に応援してくれているよね!
ロンの頭を撫でていたら、いつものようにペロリとキスされて、それだけで心がウキウキして頑張ろうという気になる。
「ありがとうロン!いってきまぁ~す!」
ロンに手を振って玄関を出ると、ロンからも「ワン!」と言う激励の挨拶が帰って来た。
真夏の空は今日も快晴だ!
六時半に学校に着くと、もう何人も来ていて楽譜の確認や、音を出さずに指の練習をしていて、その中には当然江角君の姿もあった。
譜面を睨み付けるようにしている江角君に「おはよう!」と声を掛けると「あっチョット……」と、意味深な呼び止められかたをしたから何か注意されるのだろうと恐る恐る近づくと江角君は譜面から目を離さないまま「やっぱ、いい」と断ってきて、変な感じ。
七時に大型バスが到着した頃には部員も全員揃っていて、楽器の積み込みを始めた。
木管は楽だけど打楽器や大型の金管はケースが大きくて大変。
譜面台の数を数えているときに、見慣れない部員が搬送を手伝っていることに気が付いて見ると里沙ちゃんだった。
里沙ちゃんはドラムの搬送を手伝ってから、私のところに走って来て「おはよー!みんな早いんだね」って言ってきた。
「今来たの?」
「うんチョット遅刻かな?」
「えっ・でも、部員じゃないから遅刻なんてないよ。それに手伝ってくれてありがとう」
「……うん」
なぁ~んか、この前の見学といい今朝のお手伝いといい里沙ちゃんの行動は怪しい。
ひょっとして、お目当てが他に居るのかも……と考えたとき、ハッと閃いた。
里沙ちゃんが以前言っていた片思いの相手。
江角君を私に勧めようとしてきた修学旅行や、その江角君がソフトボールの試合を見に行ったような口ぶりだったこと……。
屹度、里沙ちゃんの片思いの相手は江角君に間違いない!
『ふんふん♪たしかに自由奔放な里沙ちゃんでも、あの江角君には打ち明けにくいよねぇ~』
と思いながら離れたところにいる江角君の様子を窺ってみると、さっきから私たちのほうをたまにチラッと見ている。
『意外と江角君も初々しいところがあるじゃない』
そう思ってみると、今まで目が合わないようにしていた江角君と目が合っても余裕の笑みで返すことができた。
「ねえ千春。なんでニヤニヤしているの?」
「んっ?な、なんでもない」
どうやら私の今の顔はニヤニヤしているらしい。
「里沙。今日応援に来てくれる!?」
「あったりまえでしょ!」
里沙ちゃんは顧問の先生にあらかじめことわって、雑用を手伝う代わりに一緒にチームと同行する約束を取り付けたらしい。
さすが積極的な里沙ちゃん!そのまま江角君にアタック!?
そして里沙ちゃんを乗せてバスは会場へと出発した。





