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中学最後の大会⑥

 次の日は今までより早く学校に行った。

 七時ちょうどに学校に着いたので、さすがに一等賞だと思って、音楽室に上がる前に職員室によって鍵を取ろうと思ったら、もうすでに鍵は取られていて、持ち出し票を確認すると江角君の名前が記入してあった。持ち出し時間は六時四十五分。

 先週のページを捲ってみても持ち出し者は必ず江角君で、その時間も必ず六時台だった。

 私より十五分も前に着いているのに音楽室からは楽器の音がしていない。

 恐る恐る音楽室の扉を開けると、誰も居ない教室で江角君は何枚もの譜面を広げてみていた。

「おはよぉー……」

 おどかさないように、小さな声で挨拶をした。

「おはよう。いいよ、遠慮しなくて、別に驚きはしないから」

「何しているんですか?」

 楽器の準備をしながら聞いた。

「譜面のチェック。どこで誰が間違えたのか、何故間違えるのか考えている」

 江角君は、じっと譜面を睨み付けながら返事だけを返した。

 私は楽器を取り出して新しいリードを付けて練習を初めた。

 朝の会では各パートリーダーが集められ、江角君が用意していた譜面が配られた。

 そして今日の予定は午前中の全部の時間がパート練習。

 午後からも殆どがパート練習で、最後に1回だけ全体練習が入る。

 予定を聞いて皆緊張した。

 つまり最後の全体練習にミスしないように、パートごとに練習を繰り返すわけだ。

 休憩時間も惜しんで皆が一所懸命練習を繰り返したパート練習は完璧になった。

 それでも全体練習ではミスが出てしまった。

 しかも私の担当する木管の一年生。

 演奏が一旦止まりかけたとき江角君が「止めるな!」と大声を出して続けさせた。

 いつもの江角君なら真っ先に演奏を止めてしまうのに……。

 終わりの会で、江角君が言った。

 どんなに練習しても100パーセントにはならないときもあるし練習し過ぎて逆にミスをすることもある。

 だから、今日みたいに誰かがミスをしたときに躊躇うのではなく、そのミスを周りがカバーするように打ち消してしまえば良い。

 コンクールには一人一人の努力も大切だけど、50人が一つにならないと意味がないと、照れもせず真面目な顔で最後まで言うと、女子の中には泣き出す子もいた。

 話を聞き終わって、私もそう思ったし感動もした。

 そして思い当たることもあった。

 それは、先週のソフトボールの試合。

 確かに里沙ちゃんは県下でも名の知れた好投手だったけど、試合に出ている九人が一つになっていたとは言えない。

 里沙ちゃんは打たれまいとして一人で頑張っていて、他の人もそれが当たり前のようにしていた。

 寧ろ相手チームのほうが九人の役割をキチンと分担して、ひとつになっていたように思う。

 江角君の言葉はまるであの試合を見てきたようにさえ思えた。


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