表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/820

花火の夜に⑤

 あの男たちが仕返しに帰ってきた!

 今度は私がロンを守る番! 

 私はどうなっても、ロンを守らなければ……。

 あいつらの目当ては私?

 もしもロンに仕返しするのが目的なら、リードを離す?

 いや。

 私が殴られても絶対にリードは離さない。

 必ずロンを守ってみせる。

 武器になるものは……。

 あった。

 さっき里沙ちゃんが食べていたバーベキューの串!

 短剣を持つように私は串を手に持ち、ロンの首輪を押さえて背中に隠す。

 迫って来る二つの影をキッと大きく見開いた眼で見据えて、眉を精悍に立て、口は真一文字にきつく閉め、さながら映画に出てくる女忍者のような出立で身構えていた。

 ……。

 それなのに、何故かロンは私の肩に前足を掛けてポニーテールに結んだ頭の上に、自分の頭を乗せている。

 頭の上に違う頭。

 これだとまるでトーテムポール。

 誰がどう見ても、間抜けな女忍者にしか見えないじゃないのよ!

 気迫で相手を蹴散らすことは、こんなことがなくても土台無理なのは分かっていたけれど、少しだけは期待していたのでガッカリしたが、気持ちを確りしなくてはと気を引き締め直す。

 そして暗闇の中、二人の足音が近づいて来る。

 二人の影が近づいて来る程に増す私の緊張感。

 それとは正反対に、頭の上に乗っているロンは喜んでいるみたいに私の背中を足で蹴ったり、もっと身を乗り出そうとしたり、挙句によだれを零したり。

 いったい、この緊張感の欠如は何なのだ!

 いよいよ、相手の影が私たちの前で立ち止まり、私は持っている武器が相手に良く分かるように顔の前に持ち上げた。

 心臓の鼓動が早鐘を打ち、肩には雨だれのようなロンのよだれの滴……。

 次の瞬間、目の前の影が言葉を発した。

「千春!」

 思いがけず名前を呼ばれた私は身構えていた剣(焼き鳥の串だけど)を下げて影の正体を覗いて驚いた

「兄ちゃん?!」

 そして兄の横には、兄と同じ年くらいの、私なんかよりもズットズットズ~ット綺麗な女性。

 しかも浴衣姿が色っぽい。

「どうした!?」

 兄が私に聞いたが問われる意味が分からない。

「な・なにが?」

「さっき、ロンが吠えていただろ!」

 兄は、大学のサークルの彼女と一緒に花火を見に来ていてロンの声に気が付き、何かあったと思い、走って来てくれた。

 私が事情を話すと、兄が私の持っていた串を指さして「それで串か」と言って笑った。

 それで私が膨れていると、兄の横に居た女の人が「千春ちゃん可愛いから夜中に一人じゃ危ないわ」と言ってくれたので私は少し機嫌を直したけど、そのあと「あなたが千春ちゃんを守ってあげたんだね「エライエライ」と彼女さんはロンを撫でた。

 撫でられたロンはデレデレして女の人の白くて細い手に頭を押し付けていた。

『このエロ犬!』私がイライラするのもお構いなし。

 兄と、彼女さんは里沙ちゃんたちが帰ってくるまで私の傍にいてくれて、その間ロンは彼女さんにデレデレしていた。

『さっき私を助けてくれたことなんか忘れてやるんだから……。』

 花火が終わって、家に帰って、お風呂から上がるとロンは私と向き合うようにキチンとお座りをしていた。

 それはまるで『千春を守ってあげたエライ犬です』と褒めて欲しいのが、まるわかりだ。

「兄ちゃんの彼女さんに褒めてもらえば良いじゃない」

 私は、そうつれなく言って勉強を始めると、ロンはガッカリしたような戸惑った顔をしていた。

 勉強が一段落して振り向くと、シュンと上目遣いに伏せをして私を見ていた。

「たかがロン相手に、やきもちなんて焼いていないよ~だ!」

 私は、そう言って伏せをしているロンをクシャクシャに撫でまわすと、ロンはすくっと立ち上がった。

 ロンのフカフカの首を抱き

「今日は助けてくれてありがとう。マイダーリン!」

 と言ってロンの鼻先にキスをした。

 ふいに両肩に重さを感じたかと思うと、次の瞬間私の体は仰向けに寝ていて目の前にはロンの顔。

「あっ!」

 声を上げる間もなくロンが顔を舐めてくる。

 それでも今日助けてくれたことを想うと愛おしくなり『久しぶりね。おかえりなさい』私は愛情をこめてロンの頭に手を回し撫でた。

『ロンが、もういいって言うまで彼女でいてあげるね』

 ……でも、結局ロンの舐め舐めに息が途絶えて足をバタバタさせて助けを呼ぶ私だった。

 母が直ぐに助けに来てくれた。

 ん!兄は?

 ……その夜、兄は夜中の12時に帰ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ