隠された心・死を望むあいつ
研究所の中は捜査後らしく、意外と片づいていた。だが、血痕は生々しく残っていて長くはいたくない、そんな場所だった。
「ウィン……俺……、なんか吐きそう……」
「あぁんっ!?ふざけんな。我慢しろ」
「うぅ……ヒドい……」
俺はぐったりしているニコルを無理矢理連れて、奥に進む。
『第三兵器研究室』とかかれたプレートが床に落ちている。この場所がどうやらそのようだ。
「ウィン、あそこ見ろよ」
ニコルの示す方を見ると、メスが散らばっている。よく見てなかったけど、この部屋って手術室っぽくないか?
メスの散らばっている位置の手前には黒ずんだ染みがあった。
「あ、これ血だ。しかも、まだ新しいぜ。」
この部屋の先にはまだ何かあるようだ。『精密兵器保存室』と書かれたプレートが引っかかっていた。
「もう少し奥にいるかもしれない。行こうぜ」
「うっ……お、おう……」
ニコルはだいぶ気分が悪そうだ。なんかだんだん俺まで気分悪くなってきたし……
彼はメスを手首に当てたまま、固まっていた。
(……怖い……。でも……)
自分のしたことを振り返る。確かに自分は大きな罪を犯した。だが、それは自分の意志ではない。しかし、自分の意志ではないからといって、責任が問われないかというとそうではない。
(俺は、死ぬしかないんだ……!)
手首からメスを離す。そして首に移動させた。
刃を強く押しつける。メスは皮膚に食い込んだ。だが……
「あっ!ウィン!いたぞ!」
気分の悪さがニコルから俺に移ってきたらしい。ヤツはすごくぴんぴんしている。だが、ヤツのその言葉を聞いた俺はぐったりしてる場合じゃなくなった。
「なんだとっ!?」
ぱっとその部屋の中を見ると、アイツ……マサヤが立っていた。首にメスを押しつけている。
「お前!やめろよ!死ぬ必要なんかないだろ!」
ニコルはその場で叫ぶ。
「そんなこと言われても……」
マサヤはメスを持った手を下ろす。首からは血が一筋流れていた。
「俺は死ぬ勇気すらない臆病者なんですよ……」
マサヤは自嘲気味につぶやいた。
「先生……俺を殺してくれませんか……?」
……なんで、何でコイツは人の手を借りてまで死にたがるんだ……。やっぱり警察の推測は当たってんのか?……でも、いいことを考えついた。
「そっそんなこと……」
俺はニコルを遮り、言う。
「俺は拳銃を持ってる。だけど、すごく殺傷力の低いヤツだ。もし、これで死ねるのならお前は本当に生きている必要のない人間だったってことだ。……それでも、やるか」
前に言ったとおりこれは麻酔銃だ。死ぬはずがない。
「はい」
アイツは強い意志のこもった目をしていた。怪我の様子からして、こんなとこまで来たら体力が保たないだろうにそれでも、アイツは立っている。
俺は胸に照準を合わせ、引き金を引いた。