まさかの人物
俺はしばらくその場に立ち尽くし、考えていた。と、後ろの方から足音が聞こえる。
「雅也」
名前を呼ばれた。振り向くと、今朝夢に出てきた「斉藤俊貴」がいた。
思わず黙ったまま、まじまじと見つめてしまう。
「俺のこと、覚えてないか……。そうだよな、お前も……完全洗脳だったもんな」
ん?そういえば、資料によるとこいつは洗脳されてない!と、言うことは……
「お前は俺のこととか、事件が起こったときのこととか、覚えてるのか?」
「ああ。お前は杉崎雅也。俺より二歳年下だ。事件が起こったのは今から十年前、お前が七歳、俺が九歳の時だ」
……俊貴にはきちんとした記憶がある。やっぱり、俊貴が言ったように洗脳されることで記憶を失ってしまうのか?
「雅也、いいこと教えてやるよ」
「……なんだ?」
「そんな警戒するなって。ま、悠長なこと言ってらんないんだけどな」
俊貴は勝手に話を進めていく。
「俺の推測だと、多分お前が気にしてるのは記憶がないって事なんじゃねえかな?」
「え?……ああ」
「お、合ってた。で、お前の記憶が完全じゃないのは、うまく洗脳できなかったかららしい」
「そんなことあるのか?」
「ああ、洗脳って言うのは心の隙を狙うんだ。でも、頑固だったり、自信があったりするとその隙はなかなか生まれない。そんなヤツをうまく洗脳するには記憶を少しずつ奪っていくんだ。そうしないと、洗脳が長続きしないらしい。ま、お前の場合、その方法を使っても全然続かなかったみたいだけどな」
「へえ……。そうだったのか。でも何でお前、今ここでそんな話するんだ?俺はお前を味方だと思っていいのか?」
「うーん……それが微妙なんだ。俺たちには時間がない。残された時間は……約十分だな。その間、俺はお前の足止めをして一緒に死ぬって事になってる。まあ、さっきの話は餞別がわりってとこか」
俊貴は部屋に残されていた紙とペンで乱暴になにか書き殴り、俺に見せた。
【俺はお前をここから逃がそうと思ってる】
【この話はあいつらに筒抜けだ】
【俺たちに埋め込まれてるICチップに盗聴器が仕込まれてる】
そうか。だから、今、言葉では差し障りの無いことしか言わないんだ。
あいつは俺を逃がしてくれるらしい。でも、だとしたらあいつはどうなるんだ?
「……お前はどうなるんだ?」
「なんの話だ?お前はしばらく俺とおしゃべりしてればいいよ」
そういいながら俊貴はペンを動かす。
【俺の事なんて気にすんな。お前は素直に頷いとけ】
「そんなの無理だよ!せっかく、俺のことを知ってるヤツを見つけたんだ。お前も一緒に……!」
「それは無理なんだよ」
俊貴は低めの威圧感のある声で、俺の言葉を一蹴した。
「……!!」
そして、俺が黙っているのを確認すると、ペンを動かし始めた。
【気持ちは嬉しい。でも、俺が使う方法はお前もうまく逃げ切れるかわからない。下手したら死ぬ。でも、だからこそお前に俺の知っていることを託す】
俺は頷くしかなかった。あいつは自分を犠牲に俺が生きる望みを託したんだ。……とても重い。でも、俺はそれを預からないといけない。
「……納得したか?」
「……うん」
「じゃあ、おしゃべりの続きだ。なんで俺がそんなこと知ってるのかと言うと、洗脳されてないからだ。それは何となく察してただろ?」
「うん」
「ちなみに改造手術もほぼされてない。だから、俺はお前の小さかった頃のことも覚えてるし、今日までに起こった出来事はだいたい記憶してる」
「じゃあ、警察が知らないようなことも知ってるのか?」
俊貴はしゃべりながらも器用にペンを動かして、俺に何かを伝えようとする。
「多分な」
【俺は来るべき時に備えてあいつらに従順なふりをしながら情報を少しずつ盗み出してた】
「兵器の型とかもか?」
「もしかして、それが気になってたのか?」
気になっていなかったと言ったら嘘になる。
俺が兵器状態の由季を見て、口走った言葉が気になってしょうがない。
「……ああ」
「とりあえず、オーソドックスなのが「一部強化型」と、「一部変化型」かな。あ、お前はオーソドックスじゃなかった」
【あいつらはまだナハネ族の子供を探してるみたいだ】
「えっ?」
「あ!やばい!もう3分しかない!悪い、ほとんど何も教えられなかった……」
どこからか爆発音がした。部屋全体ががたがた揺れ始める。
「……まさか、建物崩壊するんじゃ……!?」
「……残念ながら、正解だ」
逃げ場なんてどこにもない。
「雅也!質問だ!俺に殴り殺されるのと、このまま建物と一緒に崩壊するの、どっちがいい?」
あいつはいきなり大きな声でそう言った。
えぇっ!!?それって超究極の選択じゃん!




