過去に起こったこと
胃の中のものを全部戻しても吐き気は収まらなくて、胃液だけしか出てこない。やっと吐き気が収まった頃には、俺の体力はごっそり持っていかれてしまった。喉が痛い。
はっきり言って、動くのもしんどい……。はぁ……。つら……。
「俺、大丈夫か……?」
鏡の前に立って、自分の顔を見た。げっそりしていて、いかにも「病人」みたいな顔をしている。
「マサヤ!……大丈夫か?」
心配になったらしく、ウィン先生が探しに来てくれた。
「一気にやつれたな。……でも、よく教えてくれたな。ありがとう」
「よかったです……」
「動けるか?」
「はい、それは大丈夫です……」
ずっとトイレにいても仕方ない。
自分の部屋に戻ろう。そしてその勢いで寝てしまえ。睡眠は大切だ。特に今の俺には。
(雅也!由季!急いで逃げて!)
これ小さい頃の記憶か?だとすると、この記憶は今までもやもやして思い出せなかった部分だ。
(お父さんとお母さんは!?一緒に逃げようよ!わたしたちだけじゃ、逃げらんないよ!)
(だめだよユキ!お母さんたちは俺たちを守ってくれるんだ。きっと後から追いついてきてくれるから、いまはいっしょうけんめい逃げよう?)
(……うん)
幼い俺と由季は町の中で繰り広げられている惨劇から逃れるように走っていく。
(君たち!無事なんだね!?)
(おじさん!お母さんたちが来ないの!)
(……大丈夫。僕はご両親に君たちのことを頼まれたんだ。さあ、ここから逃げるんだ!急いで!)
二人は「おじさん」に誘導され、町の外に出ていく。
町の外には二人と同じように逃げていく子どもたちの姿があった。
(おにいちゃん!はやく!)
由季に呼ばれて、俺は走った。
(おにいちゃん、わたしたちどこにいくの……?)
(わかんないよ……でも、逃げなくちゃいけないんだ……)
これはいつ頃の記憶なんだろうか。でも、前に見た記憶よりもさらに幼い感じがする。
そうか、たぶんこれは……事件があった時の記憶だ。七歳の時の俺は、意味が分かっていないながらも由季を守ろうとしてたんだ。
「……にき……兄貴!」
「んん……」
何で俺はまたカイに起こされてるんだろうか……?
カイは起きあがる俺を心配そうに見ている。
「兄貴、大丈夫っすか?」
「……なにが?」
我ながら大ボケ発言をしてしまった。
昨日はあの後すぐ寝て、一回も起きなかったんだった。
「昨日、ずっと寝てたじゃないっすか。俺心配で心配でもうっ」
「ああ、そっか。もう、大丈夫。昨日はちょっとした体調不良だから。で、どうしたんだ?」
「兄貴、暇っすか?」
「ん?うん」
「じゃ、俺たちと一緒にアルバイトしましょう!」
アルバイト?俺たち入院中なんだけど……?
「どうゆうこと?」
「実は託児所が人手不足なんすよ。俺たち、比較的元気でしょう?だから、手伝いにいこうという事になって」
「なるほど……。うん、いいよ」
「では、早速行きましょう!」
俺はカイに連れられ託児所に向かった。




