ウィンストン、襲われる
「はあ……」
俺は今屋上にいる。休憩時間になったので頭の中を整理する為にここに来たのだった。
ため息をついて空を見る。なんだか、俺の心の中を表すかのようにどんよりと曇っていた。
マサヤの話は……ある程度想像はしていたが、やっぱり重かった。
平然とした顔で聞いていたのは、あいつに不安を与えないためだ。しかし、こんな話信じたくはないが……本当のことなんだろう……。
研究所は、人間を兵器に作り替えようとしていた。マサヤはその研究の実験台……。
「おかしいじゃねえか……?なんで同じ人間が、人を実験に使うんだよっ!?」
俺は最近めっきり吸わなくなったタバコをポケットの中から取りだし、一本くわえて気づいた。
「あ、ライターねえや」
くわえたまま曇った空を見上げ続け、休憩が終わる時間になる頃までぼーっとしていた。
「そろそろ休憩終わるか……」
屋上を出ようとドアノブに手をかける。と、その時感じたことのないような気配を感じた。
とっさに振り向くと、二人の男女が屋上に現れていた。
(なんだ……?今まで、誰もいなかったはずなのに!?)
女の方はまだあどけなさが残っている。少女と言ってもおかしくないだろう。
……だが、その少女の瞳はなにも見ていない。…いや、機械のような目で俺よりも先の何かを見ていた。
「YK01……あいつを消せ」
男は少女に命令を出す。
それはなんと俺の殺害命令だった。
「標的捕捉……戦闘モードに移行します」
少女は機械的な声で呟くと俺めがけて……跳んできた!
危険を感じて俺はしゃがむ。頭すれすれの位置にナイフが突き立った。
しゃがんでなかったらと思うと……ぞっとする。
「お、お前等……何者だ……!?」
「聞いたところで何になると言うのだ?お前には恨みはないが……ここで死んでもらう」
な、何でだ……?俺、何かに巻き込まれてたか?
……今朝早起きできた理由って……もしかして、これか?
少女は俺を殺そうと、頭を狙ってナイフを振りかぶる。そのとき、俺は少女の腕を見てしまった。
(えっ……!?腕と……武器が、合体してる……!?)
注意がそちら側に逸れ、ナイフがかすった。左眉下がぱっくり裂け、目の中に血が入ってくる。
(やばっ……!)
思った以上に出血が多い。この辺は血管が集まってるから少しでも派手に出血してしまうんだ。
あっという間に視界がなくなる。あとは右目を頼るしかない。
(まずい……このままじゃホントに俺、殺されちまう……。なんか……、なんかいい案はないのか?たとえば……)
「YK01、今だ!」
頭に衝撃が走る。どうやら俺は殴られたらしい。
って、いうか……鈍器かよっ!?
少女は俺の頭を二回三回と続けざまに殴る。
俺の意識がブラックアウトする寸前に、なんとか少女の名前らしきものを記憶に刻み込んだ。