14♤気持ち(episode圭吾)
「もしもし。社長すみません。あの件で……」
朝、営業部長から電話が入る。大口取引先との契約についての連絡だった。
「マーケティング部と連携して進めて、決まったらメールしてください。」
「承知しました」
1ヶ月の休暇をとっているが、仕事は山積みで処理しないといけない案件も沢山ある。1週間経ち、有桜の体調も良くなってきた。今日は林医師からも良くなっていると報告うける。
その時に今後の事、主に妊娠についての話を聞くことにした。
「林先生、今後の妊活について色々聞きたいんですが。よろしいか?」
「はい。旦那様はどのようにお考えですか?」
「俺としては3人は欲しいと思っている。この間、排卵していたら問題ないと聞いたが、どのタイミングなら確実に妊娠するのか教えて欲しい。」
「そうですね。今回奥様は自然に妊娠されましたので、タイミング法で大丈夫だと思います。基礎体温を毎朝同じ時間に測っていきます。それで大体の排卵日が分かります。その日に性行為をすれば妊娠しやすくなります」
「回数はどれくらいしたらいいんだろか?やはり毎日ですか?」
「毎日逆によくありません。間隔を開ける方がいいです」
「分かった。この間、斎藤医師に着床しやすくなる薬を処方してもらったがこの1ヶ月後に飲ませて大丈夫か?」
「今回は流産の後ですが体が大丈夫なら問題ありません。ただ何よりも奥様の心が大事です。流産のショックもあると思いますので奥様のお気持ちを聞かれてからでも遅くはないと思います。私からは妊娠しやすくなるように漢方薬をお出ししておきます。」
「分かった。よろしくお願いします。」
子供の事について有桜と一度話し合おうと思う。そして有桜がいいならこの契約婚を破棄して本物の夫婦になりたい。
ふと窓の外を見ると有桜が日傘をさして出てくるのが見えた。
もう散歩ならしてもいいと林医師が言っていたのを思い出した。
この庭園は父方のおばあ様が育てた花が咲き誇っている。おばあ様が昔から言っていた言葉がある。
「圭吾。この庭園はいつかあなたの愛する大切な奥さんにプレゼントするわ。でも気に入ってくれるかしら」
「おばあちゃま。こんなに綺麗なお庭を嫌いになる人なんていないよ。僕の好きになる人がおばあちゃまの庭園を気に入らない訳ないよ。大好きおばあちゃま。」
「まぁ。ありがとう。圭吾。おばあちゃまもだいすきよ。」
子供時代から俺はおばあ様が大好きだった。
いつも優しく俺を凄く可愛がってくれた。
俺が結婚するのを楽しみにしていたので、有桜と結婚した時は凄く喜んでくれた。母も有桜の事を気に入ってるがおばあ様はそれ以上に気に入っている。
この屋敷はおばあ様から結婚祝いだった。婚約時代に二人で挨拶に行った時におばあ様からこの屋敷を潰して新しく建てようと思うから2人の意見を聞かせてほしいと言われた。
その時に有桜が「ありがとうございます。でもこんなに美しいお屋敷は残した方がいいです。おばあ様達の思い出もつまってますし、このまま残しましょう。カーテンとカーペットと壁紙だけ替えてもいいでしょうか?」と申し訳なさそうにいう有桜を見ておばあ様は笑っていた。
そして俺の子供時代の話をしていた。
「圭吾。有桜ちゃんは本当にいい子ね。大事にしなさい」と言われた。
志帆と付き合っていた時にもおばあ様のこの屋敷に連れてきた事がある。その時もおばあ様は将来この屋敷を未来の俺のお嫁さんにという話をしていた。
「ありがとうございます」と志帆は言っていたが帰る時に「あのお屋敷を潰して新しい家を建てましょうよ。そして庭には薔薇を沢山植えたいわ」と言っていた。俺にとってこの屋敷は子供時代の思い出がいっぱい詰まった所だった。実は、その一言に嫌悪感を感じていた。おばあ様はその事を聞いてなかったが、母もおばあ様も志帆の事をあまり好いてなかった。俺を救ってくれた恩人への感謝の気持ちはあるが、ただそれだけだった。
ここは俺にとっても子供時代の沢山楽しい思い出の詰まった屋敷だった。
「とても良いお屋敷ですね。お庭も凄く綺麗で住めると思うだけでウキウキします。でもカーテンとか変更するって我儘言ってしまってすみません。」有桜は申し訳なさそうに言った。
「大丈夫だよ。おばあ様も言ってただろ君の好きにしていいって」
「分かりました。でも私だけじゃ不安なんで有坂社長も一緒に見て下さい。」
「分かった。有桜、有坂社長じゃないだろ?」
「すみません。圭吾さん。」
緊張してるけど少しはにかんだ可愛い笑顔だった。
思い出に浸っていたが目線を横にずらすと有桜が見たことない男と楽しそうに話している。
少し砕けた……俺にはあまりみせた事のない言葉遣い……
花壇を指さして男の顔を見ている角度がキスをしている様だった。有桜がそんな事をしない事は分かっているが、自分の気持ちに気づいた今はもう嫉妬が止まらなかった。
気づいたら外に出てその男と有桜に話しかけていた。俺の雰囲気がいつもと違っていたからか有桜は不思議な顔で俺を見ていた。
庭師のたかじぃの孫らしい。
日向というその男を有桜が「日向くん」と名前で言っていた。それだけで体中に黒いドロドロした物が巡る様だった。
有桜の口から男の名前なんて聞きたくない。
その口からは俺の名前だけ呼んで欲しい。そんな子供っぽい事を考えてしまい。恥ずかしさが込み上げてきた。有桜に少し話をして屋敷の中に入っていく。こんな感情初めての事でどう処理したらいいか分からなかった。
でも落ち着こう。そうだ仕事の書類でも読もうと書斎に座り仕事に没頭する。
「旦那様お食事の時間です。」気づくと12時になっていた。ダイニングへ行き、有桜がくるのを待つ。有桜は少し遅れて来た。あの可愛い笑顔を向けてきた。あまりの可愛さに凄く恥ずかしくなってきてつい目線をそらしてしまう。【あの可愛さは反則だろ】
お腹が空いていたのか有桜はよく食べていた。まるでリスのようだなと思い俺はふと笑ってしまった。
有桜もつられて笑った。使用人に達も笑っている。有桜が暖かさは皆を幸せにしてくれる。いつもの食事がもっと幸せな時間に変わっていく。そんな気分だった。




