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1♡まさかの妊娠(episode有桜)

「はぁ。」と重いため息を漏らす。







トイレの中で何度も確認するが、何度もみても2本の赤い線がくっきりと入っているのが分かる。







この妊娠検査薬は三本目である。







この現実を突きつけられ途方にくれている。







私は佐藤有桜さとうあお24歳、有坂ホールディングスで社長秘書として働いている。







「有桜さーん。社長が呼んでますよ!」






トイレにずっといる訳にいかず、返事をして出ていく。









「有桜さん、顔色悪いですけど、大丈夫ですか?!」






同じ秘書課の後輩の加藤真子かとうまこ23歳が心配そうな顔で私をみてくる。






「大丈夫だよ。真子ちゃんありがとう」青白い顔に無理やり笑顔を貼り付ける。






「しんどいなら私が代わりに社長の部屋に持っていきましょか?」






「ううん。大丈夫。でもそれが終わったら早退してもいいかな?」






「わかりました。」






深い深呼吸をし、社長室のドアを叩く。中から低い声が聞こえる。





「どうぞ」





大きな机が見える。そこに座って積み上げられた書類を処理している彫刻の様に美しい男性、この有坂ホールディングスの社長、有坂圭吾ありさかけいご26歳がこちらを、見ている。





冷や汗がおでこからじんわりでる。





コツコツと近づいていき、机に先程入れたコーヒーをおく。それを一口飲んで彼が言う。





「ああ。君のいれてくれたコーヒーが一番美味いよ」





彫刻の美しい口角が少し上がり笑顔が見える。






「社長、頼まれていた資料です。」





「さすが佐藤さん、仕事が早いね。そして見やすくていいよ」





「ありがとうございます。社長すみませんが午後からお休み頂いてもよろしいでしょうか?」





「どうしたんだ?」顔をじっと見られてから「確かに顔色が悪いな、出張もあったから疲れが出たのかな?薬は飲んだのか?」





「いいえ。病院へ行って処方してもらいます。よろしいでしょうか?」





「ああ、しっかり診てもらって休みなさい。明日も休んだらいい、近藤くんに伝えておく、









「ありがとうございます。では明日もお休みさせていただきます。」





2回ほど相槌を打たれ、社長室を後にする。





「近藤部長。すみません。体調が悪いので午後からと明日も1日お休み頂きます。社長には先程報告済みです。」






彫刻まではいかないがそれでも社内で人気の秘書課の部長の近藤誉こんどうほまれに報告する。





「佐藤さん。了解だよ。いつも専属秘書として社長に常に同行してるから疲れたんじゃないか?ゆっくり休んで月曜日からまたよろしくね」





さわやかに、微笑んで肩をたたかれる。





さすが、人気が高いだけある。この笑顔に何人の女性社員がやられたことか。





「ありがとうございます。近藤部長。それでは失礼します。」





会社を後にしてバスと地下鉄に乗って病院へ行く。呼ばれるまで心臓がドクドク早く鳴る。「159番の方1番へどうぞ」





診察室ては優しい女医がこちらを見て言う。





「妊娠11週目ですね。来年の6月10日が予定日ですね。うちで出産希望でしたら早めに予約の方お願いします。」





呆然とする私を見て女医は言う。もし中絶を希望される場合はこちらの書類にご記入後1週間以内に再診をお願いします。





「わかりました」堕胎申請書を持つ手が震える。





お腹に宿った命。予期せぬ妊娠ではあったが胎児の心拍を聞いた時に嬉しい気持ちになったのも本当である。





支払いを済ませて地下鉄に乗り家に帰る。






「おかえりなさいませ。奥様」





家政婦の江原さんが笑顔で迎えてくれる。





「ただいま。江原さん」笑顔で答える私を見てさらに心配そうに「奥様、お顔が真っ青じゃないですか!早く着替えてお休みになって下さい」





「ありがとうございます。少し休ませて貰います」





「はい。ではまたお夕飯前にお声かけさせていただきます。」





「はい。ありがとうございます」そう言って2階へいく。2階の主寝室へ入りゆったりとした部屋着を持って部屋に隣接ている浴槽室へ行く。私が帰って休むと言ったのでお風呂の湯は適温で沸かしてあった。疲れを癒す薬草も入れてあり心地よい温度に寝そうになりながら湯船に浸かり一休みする。





「妊娠かぁ。どうしよう。産みたいけど、多分彼がダメって言うよね。どうしたらいいんだろ」涙が出てくる。お風呂の湯で洗い流し途方にくれる。ゆっくり浸かった後、ふかふかのベットに入りまた悩む。いつの間にか寝てしまっていた。






19時すぎに車が玄関前に停まる。





「おかえりなさいませ。旦那様」執事の高屋さんが出迎える。





「ただいま。有桜はどうしている?」





「奥様はお部屋で寝ておられます」





「食事は食べたのか?」





「いえ、江原さんがお部屋の前でお呼びしましたが気づいておられませんでした」





「そうか。」





「お夕食は先に召し上がられますか?」





「いや、有桜に声掛けてから一緒に頂こう」





「承知しました」





2階に上がり2人の主寝室へ入ってくる。心地よい柑橘系の匂いが部屋の中に入ってくる。





目が覚めて軽く伸びる。





「起こしてしまったか?体調はどうだ?病院へは行ったのか?」優しいトーンの声が心地よく響く。





「ご心配おかけしてすみません。病院へ行ってきて帰って休んでいました。」大きな温かい手が私の頬をなでる。「午前中より顔色は良さそうだな?夕飯は食べれそうか?」





「はい。大丈夫です。」





「では一緒に食べようか」





手を引いて起き上がらせてくれる。





「はい、では行きましょう」





彼に手をひかれてダイニングルームへ入ると美味しい匂いがする。





体調が悪い時はお粥を食べていたので私の前にはお粥がおいてある。一口食べて「いつもありがとう」と笑顔で料理長へ言う。「いえいえ。奥様に喜んでいただけて良かったです。」料理長は旦那様にも食事の説明をし、給仕係りへ後は任せて下がって行った。





「今日もおいしい。」旦那様も答える。そして私の方を向いて言う。「何の病気だったんだ?」心配そうにこちらを見て言う。





「疲れみたいです。」





「そうか、3ヶ月間出張や会議で忙しかったから疲れが出たのかもな。ゆっくり休んでる月曜日からもよろしく。専属秘書様。」笑顔で言う顔に申し訳ない気持ちになる。





「はい。有坂社長」





「もう。旦那様、ここでは仕事の事はなしですよ。」江原さんが言う。





「そうですよ。旦那様、奥様のお疲れが取れないですよ。」高屋さんも笑いながら言う。





「わかった。わかった。ごめんね。有桜」





「いえいえ、大丈夫です。圭吾さん。」そう、有坂圭吾は私の勤めている会社の社長、そして私は社長専属秘書兼奥様そして3年間の契約を結んでいる契約妻である。





「ゆっくり食べて」





「はい。」





食事の時間はゆっくり過ぎていく。私は心の中でこの子をどうしたらいいのか、彼にはどう伝えたらいいのか悩んでいた。だって彼とは3年の契約だったから。契約期間が終わったら離婚するのにどうしたらいいのか。でも彼の子供を殺せるのかな?大好きな彼の子供を殺せる?自問自答する。





彼にとっては契約上の妻、この優しさもただ夫としての義務を果たしてくれているだけ、愛がある訳じゃない、それでも私は彼がどうしようもなく好きなんだ。


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