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第八十七話:聖域の庭でピクニック! 最高の季節を、仲間たちと

歴史の闇に触れた奏多。

しかし、そんな重い考えを吹き飛ばすように、聖域には最高の夏が訪れる!

仲間たちと共に楽しむピクニック。心温まるひとときをお届けします!

翌朝、カーテンの隙間から差し込む眩しい陽光に、俺は目を覚ました。昨夜は結局、賢者エルドラドの手記を抱きしめたまま、うとうとと浅い眠りについたようだ。

寝室のテーブルには、俺が持ち込んだあの日本語で書かれた本が置かれている。昨夜、眠気と戦いながら読み進めたページには、遠い過去と未来が交錯するような記述が溢れていた。

「……賢者が残した『足跡』を追う冒険。それが転生者としての、この世界における定めだってのか?」

俺は天井を見つめ、溜息をついた。だが、現実には厳然たるルールがある。俺はこの館の敷地から一歩も外に出られないという呪縛だ。

「俺に何ができる。この館の管理者として、外の世界の真実を知りながら、何もできずにここに留まるだけなんて……」

「モシカシテ、マジントノケイヤク?」

小さな声が聞こえた。見ると、容器から抜け出したプシューケーが、俺の枕元で虹色のはねをゆっくりと動かしている。

「マーリドとの契約のことか。この館に住む管理者になるための、絶対的な代償だよ」

俺がそう呟くと、影の中からふわりと現れた光の粒子が、いつものマーリドの姿を形作った。

『言っただろう? お前はまだそれを知るには早すぎる。来るべき時が来るまで……今は知ってはならん。そうやって陰鬱な顔で考えても、今の環境ではできることなど何もない。時が来るのを静かに待つのだ』

「マーリド……相変わらず、お前は何か知っているようだな。俺が知るべき『時』ってやつについて」

『さぁな。俺はただの観測者に過ぎん。過去の遺物に縛られ、今を見失うのは愚策というものだ』

マーリドはそっけなく答えると、テラスの扉を指差した。

『それよりも、その考え事のせいで、外で待っている連中を待たせるつもりか? 切り替えたらどうだ? そろそろ、森の季節が巡る頃だ』

「季節? 春、夏、秋、冬のことか?」

『その通り。見よ』

マーリドが指差した先――テラスの向こう側に広がる広大な庭園。そこには、数日前までの肌寒さが嘘のように、生命力に満ち溢れた力強い夏の息吹が満ちていた。

木々は青々と深緑を増し、花壇には色とりどりの花が咲き乱れている。聖域の空気はどこまでも澄み渡り、吹き抜ける風には、遠くの湖から運ばれてきた爽やかな湿り気が混じっていた。

「……そうだな。考えるのは後回しだ!」

俺は立ち上がり、大きく伸びをした。

「もう全部忘れて、ピクニックでもしようぜ! 今日は最高の天気だ!」

数時間後、聖域の庭はかつてないほどの賑わいを見せていた。

館のキッチンから総出で運び出された料理の数々。シルヴィアが腕を振るったサンドイッチに、エリスが選りすぐった新鮮な果物、そしてアヴァロン王国から届けられたばかりの最高級茶葉を使った冷たいアイスティー。

「わぁ! 奏多様、今日のオムレツはすごく綺麗に焼けました! 卵の火加減を工夫してみたんです」

ルミナがエプロン姿で嬉しそうに駆け寄ってくる。

「奏多、さっさと準備を手伝わないか! このサラダの盛り付け、ヴィオラが『古代生物の化石の配置より難しい』とか言って動かなくなっているぞ」

エリスが軍を指揮するように声を上げる。その横では、ヴィオラがサラダボウルを前に、真剣な眼差しでトマトの位置をミリ単位で調整していた。

レオやミケ、クロなどの動物たちの面々も、今日はピクニックの雰囲気を察したのか、庭の指定席で大人しくしている。トラのキングが日向ぼっこをし、グリズが大きな木陰で昼寝をし、オウギが広げたシートの端を優雅に歩いている。

特にビー率いるミツバチ達とバチ率いるオオスズメバチ達も、流石に休戦中のようで、アシカのケータとカワウソのコツメも仲良くリラックスしている。

「ふふ、奏多。悩みごとは忘れて、今日は楽しみましょう?」

シルヴィアがグラスを掲げた。彼女の瞳からは、昨晩の憂いは消え去り、ただ穏やかな時間が流れていた。俺たちは、この聖域という限られた場所で、今の俺たちにできる精一杯の「日常」を謳歌していた。

「見てください奏多様、この空の青さ! まるで絵画のようですわ!」

ルミナが指差す先、見渡す限りの青空が広がっている。かつて帝国に空を支配されていた恐怖など、今の俺たちには無縁だ。俺たちがこの庭で笑い合っている間、地下の要塞では防衛回路が静かに鼓動を刻み、この平穏を守り抜いている。

「……まあ、今はこれでいいか。賢者の足跡を追うのも大切だが、俺たちが守りたいのは、こういう何気ない時間なんだから」

俺はサンドイッチを口に運び、心地よい夏の風を感じた。

遠くで、ゴングが楽しそうにゴリラの群れと追いかけっこをしている。ハトのポポたちがパンくずを求めて集まってくる。

この、ささやかで、何物にも代えがたい日常。これこそが、俺が管理者として守りたかったものなのだと、改めて実感した。

「さあ、みんな! 今日はとことん楽しもうぜ!」

俺たちの声が聖域の木々に木霊する。賢者の物語は続いていくが、今日という日は、俺たちだけの物語として、確かに刻まれたのだ。

第八十七話、いかがでしたでしょうか。

物語の緊張感が続く中での、束の間の休息回でした。ピクニックでの穏やかなやり取り、キャラクターたちの楽しげな様子、少しは伝わったでしょうか?

次回、平和な日常の裏で、森の奥から聞こえてきた音色が聖域を揺るがす……?

次回:

「聖域に響く不思議な音色! 森の奥から聞こえてきた旋律の正体とは?」

お楽しみに!

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