第三十七話:王国の重要課題! 管理者の館と結ぶ新しい貿易ルート
王国との友好関係を築くため、エリスが提示した奇策は「貿易ルートの中継地」になること!
アヴァロン王国との交易路を確保し、壊滅したアルカディアに代わる経済的絆を結ぶという壮大な計画。
お金の概念が薄かった奏多にとって、館の価値が新たな形で開花する!
ヴィオラのあまりの熱弁ぶりに、館の広間は一瞬の静寂に包まれた。彼女の眼には、すでに館の改造図や飼育ケージの設計図が浮かんでいるようだったが、ルミナが冷静にその勢いを遮った。
「あの……ヴィオラさん? 興奮しているところを水を差すようで申し訳ありませんけれど、そんな急に言われましても、向こう側――王国の上層部も困惑しますよ? 館の防衛や飼育環境を整えるにしても、根回しが必要ですわ」
かつて一国の姫として宮廷の運営を学んだルミナの視点は、非常に現実的だった。エリスもまた、兜を脱いで深く溜息をつきながら同意する。
「確かに、ルミナ様の言う通りだ。ヴィオラ、ここは冷静になれ。ここは独立した領地のようなものだ。王国の指示一つでどうこうできる場所ではないし、何よりこの館の価値を正しく理解しなければ、王国側も動けない」
ヴィオラは不満げにペンを握りしめていたが、ルミナがさらに核心を突く問いを重ねる。
「それに……仮にそのための施設を作るにしても、莫大な資金が必要です。魔獣学の研究とはいえ、そんな予算はどこから捻出するおつもりですか? まさか……王国の経費で落とすつもりじゃありませんよね?」
その言葉に、俺は思わず立ち止まった。
「資金……か。言われてみれば、俺たちは召喚されてからずっと、この庭と森の恵みだけで自給自足していたからなぁ。金貨とか、この世界で何に使うのかすら深く考えていなかったよ」
「えっ……!?」
エリスが驚愕で目を見開き、口を大きく開けた。
「そうなのか!? お金もなしに、ずっとこのデンジャラスフォレストで自給自足の生活を……!? 貴殿ら、この森でどれほどの価値ある素材を日々消費し、あるいは放置していると思っているのだ! 庭にある薬草一つ、魔物の素材一つとっても、王国では貴族の邸宅が買えるほどの価値があるものも存在するぞ!」
ルミナが少し恥ずかしそうに頷く。
「は、はい……! 庭の果樹や野菜を育てて、レオたちが時折獲ってくる魔物の魔石や素材は、整理して地下の倉庫に積み上がっているだけですし……。一応、この館の倉庫には、粉末状態の『コーヒー豆』や、見たこともない保存食など、売り物になりそうなものも幾つか見つかりましたので……」
俺たちが何気なく積み上げていたそれらは、王国では喉から手が出るほど欲しい希少な交易品ばかりだったのだ。
エリスはその瞬間、脳裏で稲妻のような閃きを得たのか、拳をポンと叩いた。
「……なるほど。ならば、良いことを思いついた! ここを貿易ルートの中間拠点、かつ商人たちの『安全拠点』にするのはどうだ?」
ヴィオラが驚いて顔を上げる。「えっ!?」
「ルミナ姫様もご存知の通り、あなたの故郷であるアルカディア王国は数週間前に壊滅した。我が国、エリュシオン王国にとっては軍事的にも、貿易相手としても強固な同盟国だったのだ。だがそれがなくなり、我が国は経済的にも苦境に立たされている。ただでさえ魔王の脅威に怯えているのに、科学と機械の技術に特化した帝国からの経済封鎖という境地に晒されているんだ」
エリスは広間のテーブルに地図を広げ、指先で森の奥をなぞった。
「エリュシオン王国にとって、アルカディア王国以外で唯一安全な貿易相手がいるのは、エリュシオン王国の反対側……この『デンジャラスフォレスト』のさらに先にある、水の都『アヴァロン王国』だ。しかし、この森の過酷な環境のせいで、アヴァロンまでの交易路は絶たれ、商人たちは遠回りを強いられている。ここで盗賊や魔物に襲われ、多くの財が失われているんだ」
『アヴァロン王国』。かつて理想郷の伝説に名が出るほど、水と調和の技術が発達し、平和を謳歌する神秘の国。
「この館は、アヴァロンへと続く最短ルートのど真ん中に位置している。キングやグリズのような『真の捕食者』が警備し、伝説の結界に守られたこの館を『安全な中継所』として認定すれば、商人たちはこぞってこの道を使いたがるだろう。その通行料と、ここで採れる希少素材の輸出……これだけで、奏多殿は莫大な富を得られるだけでなく、王国との正式な経済同盟を結べる!」
ヴィオラも目を輝かせる。
「それよ! 貿易のための資金があれば、私の飼育環境改革の予算も組み放題! 館を守るための防衛システムにも最先端の魔道具を導入できるわ!」
金が目的ではない。だが、ルミナを守り、レオたちと平和に暮らすためには、王国との対等な立場が必要だ。そのためには「経済」という武器は無視できない。
「なるほどな……。俺たちが守る森を、平和な道に変える……。面白そうだ。王国と、アヴァロン。その橋渡し、管理者の名にかけて引き受けよう。俺たちにとっての平和は、この森の平和と共にあるのだから」
館の重苦しかった審問の空気は、前向きな「貿易計画」の熱気に塗り替えられていった。静寂の聖域が、世界を繋ぐ希望の要所へと変わる。それは、俺たちの平穏を守るための、最も賢明な選択だった。
第三十七話、いかがでしたでしょうか。
ただの館から、国家間の経済を左右する重要拠点へ……! 奏多の影響力がどんどん大きくなっていきますね。
次回は、この貿易ルートを実際に動かすための「試験的なキャラバン」が館に到着します!
次回:
「最初の来訪者! アヴァロンの商人、館の驚異を目の当たりにする」
お楽しみに!




