第百四十七話:聖域を後にして! アルト、賢者エルドラドの手紙を求めていざ旅路へ!
聖域を覆っていた灼熱の煉獄は、マーリドの放った慈雨によって完全に洗い流された。
魔王軍幹部『煉獄の破壊者』バルバドスとの激闘の果て。アルトたちの絆が生み出した奇跡は、絶対的な力をも凌駕する結果をもたらした。魔王軍の幹部を打ち倒すという快挙は、世界に「覚醒せし勇者」の存在を強く刻み込むことになるだろう。
戦いの爪痕を洗い流し、聖域には再び穏やかな日常が戻ってきた。しかし、勇者たちの旅立ちはもう目の前だ。彼らは聖域という揺り籠を卒業し、賢者エルドラドの手紙を求める、過酷かつ真実を辿る冒険の道へと踏み出す準備を進めていた。
第百四十七話、聖域を後にして! アルト、賢者エルドラドの手紙を求めていざ旅路へ!
荒れ果てた館の敷地内の広い庭の中央で、バルバドスはその禍々しい異形の姿から、徐々に元の人間としての肉体へと戻りつつあった。しかし、その身体は今や枯れ木のように痩せ細り、魔王から授かった生命の火は、風前の灯火のように消えかけていた。
「はぁ……はぁ……まさか、本気の俺を……この俺を打ち倒すとはな……。勇者というのも、そう捨てたもんじゃねぇか」
アルトは血の滲む拳を握り直し、警戒を解かずに立ち上がる。その呼吸は乱れ、聖剣を支える腕も限界に達していた。
「まだ生きていたのか!」
バルバドスは自嘲気味に笑い、口端から黒い血を吐き出した。
「言ったろう……俺はそう簡単に倒れねーってな。……だが、真の姿を解放したのが最大の誤算だった。己の力の奔流に、この脆い肉体が耐えきれなかったんだ。もう……指一本動かす体力も、魔力を練り上げる気力も残っちゃいねぇよ」
アルトは剣を構えるが、肩が大きく震えている。
「くっ……僕もだ。全力を出しすぎて、膝が……トドメを刺すだけの力が……!」
「アルト様!?」
リナとミアが血相を変えて駆け寄る。彼女たちの表情には、戦い終えた安堵と、アルトを気遣う深い愛情が入り混じっていた。ルミナもまた、光り輝く杖を手に近づいてきた。
「大丈夫ですか!? 私が持てる限りの回復魔法を……!」
「ありがとうございます……でも、まずはバルバドスを……」
ヴィオラが周囲を見渡し、驚きの声を上げる。
「見て! バルバドスの力が弱まったからか、アイギスや他の動物たちも動けるようになったわ!」
聖域に緊張が走る。バルバドスをこのまま生かしておくべきか。その時、空中に浮遊していた光の精霊マーリドが、絶対的な威厳を持って告げた。
『手出し無用』
その場にいた全員が固まる。マーリドは光の精霊としての眩い輝きを強め、空に向けて小さな光の弾を放った。それは空高くで音もなく弾け、たちまち聖域全体を包み込む慈雨となって降り注ぐ。
『トドメに浄化して、ただの水に変えてやろう。……これが、魔王の尖兵としての最期だ』
バルバドスはその雨を受け入れ、曇り空を見上げた。
「そういうことか……浄化の雨、か。まさか……この俺がここで負けるとはな。ヴォルグ・ザードやゼノス・カルナ……アイツらと同じ末路を辿るとは、無様なことよ……」
雨がバルバドスの身体を包み込み、黒い瘴気を洗い流していく。彼の肉体は音もなく消え去り、そこにはただ、清らかな水たまりだけが残された。
数日後。
聖域の門の前には、見慣れた景色が広がっていた。しかし、そこに漂う空気は以前とは全く異なる。アルト、リナ、ミアの背には、旅の装備が整えられている。
俺は館の出口に立ち、彼らの出発を見送っていた。
「本当に行くのか。……バルバドスを倒したことで、魔王軍はさらに激しくお前たちを追ってくるはずだぞ」
アルトは迷いのない瞳で俺を見据えた。
「はい。でも、今の僕たちは一人じゃない。この聖域で学んだこと、そして守るべき命の重みを知りました。……僕たちは、賢者エルドラドの最後の手紙を見つけ出し、必ずやこの世界を正しい方向へ導いてみせます」
リナとミアも力強く頷く。
「風間さん、私たちのことは心配しないで。……ここでの日々は、私たちの魂に深く刻まれていますから」
俺は彼らの肩を力強く叩き、別れを告げた。
「ああ。……何かあったら、いつでも戻ってこい。この聖域は、お前たちの帰る場所だ」
アルトは深く一礼し、門を通り抜ける。
その背中は、一ヶ月前の迷える勇者とは比較にならないほど頼もしい。門の外に広がるエリュシオン王国への険しき道。しかし、アルトたちはもう、暗闇に怯えることはない。彼らの絆は、どんな暗雲をも切り裂く黄金の光となっているのだから。
第百四十七話、いかがでしたでしょうか。
バルバドスの消滅、そして聖域を巣立つ勇者たち。アルトたちの物語は、ここから「世界の真実」に迫る第二章へと突入します。
次回予告:
「再び訪れた平和! 聖域の動物たちが巻き起こす『食欲の秋』という名の暴走劇!」
お楽しみに!




