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第百三十七話:聖域の日常と絆! アルト、人生で初めてのゾウの背中に揺られて!

世界の均衡が静かに、しかし確実に崩れ去ろうとしていた。

帝国という巨大な権力の中心で、佐藤蓮という名の英雄が「魔神」と禁断の契約を交わしたとき、その余波は聖域の結界をも震わせる。しかし、そんな世界の悲劇など露知らず、聖域の日常は変わらず穏やかな陽光に包まれていた。

奏多の館では、アルトたちが生き物との絆を深め、新たな生命との出会いを果たそうとしている。光の精霊として隠遁する魔神マーリドが感じ取った、遠き地での「同族の目覚め」。

運命は二手に分かれた。権力を貪る者と、命を慈しむ者。物語は今、聖域という箱庭から、歴史の激流へと足を踏み入れようとしている。

帝国の玉座の間。重厚な扉の向こう側から、影のように現れた幹部が深く跪いていた。

幹部は、勇者の佐藤蓮一派に潜伏中の10人の新入りという名の工作員達からの定期的な報告を受けていた。

「陛下、ご報告申し上げます! 勇者・佐藤蓮の一味、ダンジョン『業火の淵』にて火の魔神イフリートの封印を解放。魔神との間で、魂を代償とする禁断の契約が結ばれたとの確かな報告が入りました!」

独裁皇帝は玉座に深く腰掛け、愉悦に満ちた冷酷な笑みを浮かべる。

「……そうか。ならばそのまま泳がせておけ。我が国は現在、帝国軍の強化期間中だ。今はまだ動かぬ。……過去にも魔神との契約を結び、歴史の影で蠢いた者たちがいたな。数百年前に水の魔神マーリドと契約した錬金術師……『水の錬金術師』と呼ばれたその男は、世界を震撼させたが、いつの間にか歴史の闇に葬られた。そのマーリドという魔神もまた、どこで何をしているか不明な世界最大の謎。……だが、そんな過去の亡霊などどうでもいい」

皇帝は冷徹な眼差しで、部屋の隅に控える幹部を鋭く睨む。

「とにかく、佐藤蓮率いる勇者一派を徹底監視しろ。その動向を逐一報告せよ。……それ以外の勇者共は無視だ。何度も言ったはずだ、あのデンジャラスフォレストにだけは絶対に近づくな。あそこに関わるのは時間の無駄、いや、帝国の軍事損失だ。よいな?」

「ハッ!!」

その頃、聖域ではマーリドが突如として光の粒子を激しく明滅させた。

『!? ……これは……』

テラスでくつろいでいた俺は、マーリドのただならぬ気配に気づき、視線を向ける。

「どうした、マーリド? 何かを感じたか?」

『感じるぞ……奏多。遥か彼方の地で、同族の封印が解かれた。我と同じ、魔神の強大な波動だ……』

「……誰だ?」

『火の魔神、イフリート。……凶悪かつ貪欲な魔神として知られている。すべてを焼き尽くす飢えを抱えた災厄の化身だ。ふん、我が相手にはならんがな』

マーリドの声には、同族への蔑みと、わずかな警戒心が混じっていた。イフリートの目覚めは、何らかの災厄の始まりに他ならない。俺は遠くの空を見上げ、深く溜息をつく。

そんな緊迫した空気とは裏腹に、庭園では平和な風景が広がっていた。

アルトたちは、数日間の修行の成果を存分に発揮していた。彼らは動物たちの些細な仕草から、その感情を読み取れるようになっていたのだ。

「アルト、パオが君のことを呼んでいるみたいだよ。鼻を鳴らして、君のそばに行きたがってる」

僧侶のミアが指差した先には、巨体でありながらどこか優しげな瞳をしたアジアゾウのパオが立っていた。パオはゆっくりとアルトの方へ歩み寄ると、鼻をアルトの肩に優しく添えた。

「……えっ? 僕を乗せてくれるのかい? パオ?」

アルトは信じられないといった様子で目を丸くする。パオは鼻を大きく持ち上げ、自身の背中を指し示すように、その広々とした背中を低くした。

「すごい……! アルト、乗ってみなよ!」

魔法使いのリナが目を輝かせて後押しする。

アルトは恐る恐る、パオの温かな背中へ跨った。

ゾウの背は広く、驚くほど安定していた。パオがゆっくりと歩き出すと、目線が一気に高くなり、聖域の全景が見渡せるようになる。

「わあ……! なんて景色なんだ! 見えるよ、森の向こうまで!」

アルトの人生で初めて体験する「ゾウの背中」の揺れ。それは、力でねじ伏せる勇者の視点ではなく、命と歩調を合わせる者にしか見えない、優しい世界だった。

パオの歩調に合わせて揺れるアルトの表情には、佐藤蓮たちのような傲慢さは欠片もない。

帝国の謀略が世界を焼こうとしても、ここ聖域には、命の温もりを信じる者たちの絆がある。俺はコーヒーカップを片手に、その光景を静かに見守っていた。

……さて、この平和な日常がいつまで続くか。遠い空でイフリートが笑っている気がした。

第百三十七話、いかがでしたでしょうか。

魔神マーリドの察知した「同族の目覚め」と、聖域で芽生えた温かな絆。

佐藤蓮の破滅へのカウントダウンが始まる中、アルトたちは聖域で真の勇者としての心を育てています。

次回予告:

「魂の対話! アルト、禁断の召喚獣エンシェントグリフォンとの真の絆を結べ!」

お楽しみに!

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