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目覚めた公爵令嬢は、悪事を許しません  作者: トモブー
あなたを愛するのに疲れました
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王妃様との決戦4

出ると直ぐに靴を脱ぎ、両手に持ち、急いでその場を離れホール奥の出入口に向かった。

「クルリ、ついてきてる?」

「勿論です、お嬢様!」

任せといてください、と言わんばかりに声を張り上げた。

「しっ!声が大きいわよ」

「すみません・・・お嬢様・・・」

しゅんとなりながら、神経を張りつめるように真剣な面持ちの顔で私の跡をついてきた。

宜しい。

靴を脱いだおかげで足音もせず早く走れる。

わざわざ、ドレスの中で最も軽くて動きやすいのを選び、

わざわざ、ヒールが高くよく音のする靴を履いてきたのだ。

王妃様は、誰かに操られている。

確信した時点で私の動きは変わった。

これまでの陰険で陰湿な王妃様が、グリニッジ伯爵様と王妃様の考えなら、何処までも追い詰めるつもりだった。

正直、それが長期戦になると思っていたが、こんなに単純な答えが導き出されるとは思っていなかった。

誰かに操られている人間は、その誰かに指示がなければ動けない。

敷かれたレールが、急に消えたらどうなる?

これまで、何の問題もなくレールが存在し、そのレールを走るだけで上手くいけば行くほど、何の疑いもなく、只、走るだけ。

その当たり前の安心感しか知らない王妃様が歩いてきた、

レールが、

消える。

それも、暗黒の手探り状態になり、

静寂という、底知れぬ不安が自分を引き摺り込んだ時、

人はどうなる?

決まってる!

そいつに縋りに行く!

「1人でいいわ!!ついてくるな!!」

王妃様の苛立つ声が聞こえ、足を止め角に隠れた。

そっと見ると、ホール奥の出入り口から出てきたのだろう機嫌の悪い王妃様が、廊下を歩く後ろ姿が見えた。そのまわりにメイド達が王妃様の機嫌を伺うようにおどおどとついている。

「離れなさい、と言っているでしょ!!1人になりたいの!!」

「ですが、ご心配でございます。せめてお茶で」

「うるさい!!私の言う事が聞けないの!?あなた達も紹介状燃やすわよ!!」

ヒステリックに叫ぶ内容が、私の二番煎じなんて笑わせる。

結局喚き散らす王妃様に逆らえる訳がなく、メイド達は下がって行った。

「お嬢様、こっちに来なくて良かったですね」

クルリがほっとしように言ったのに頷いた。

「そうね」

自分の取り巻きが居なくなったから余計に、腹立っているのだろう。

1人になり、荒い足音を廊下に響かせながら歩く王妃様は、跡をつけやすい。

王宮は、私の王妃派の断罪に大騒ぎで、召使いも兵も手薄になっているおかげで、すれ違う人もいない。

さあて、誰に会いに行くのかしらね。

この方向は、王妃様の部屋の方向、ということは、王妃様の部屋で待っているのか。

いずれは分かるだろうが、尻尾を出さないように、貴族が待機する部屋は使わなかったのか。

もし使用するなら、使用許可を貰うために身分証を提出する事になる。勿論王宮に入る時に身分証は必要だが、書類の提出など些細な用事なら、部屋を使用する事などない為存外甘い上に、毎日何かしらで何百人もの人間が王宮に出入りする。

恐らく、今日は、何かを察しあえて部屋を借りなかったのだろう。

ついて行くと、やはり王妃様の謁見室のひと部屋の場所だ。

「あの娘、言う事聞かなくなったわよ!お前の言う通り今までやってきたのにどういう事だ!?」

扉を開ける音と同時に、部屋の中に大声を出していた。

誰?誰がいるの?

見えないわ!

「お嬢様!」

ぐっと腕を掴まれた。

「そんなに前に出ては見つかります!」

小声ながらもクルリに言われ、自分が結構前に出ていた事に気づき、下がった。

いけない、いけない。

「私が勝手に動いた!?何を言う!全てお前の言う通りにしてきたのに、この無様はどういうことだ!!あの娘がおかしくなってきた、と言うからお前の言うようにまたガナッシュに優しくするようにしたでは無いか!それなのに全く効かない!それどころか、私を排除してきた!!」

殿下に優しくするようにした?

「階段から落とすように言ったのに、上手くいかない!」

あれはこの誰かの指示だったのか。

「洗脳は上手くいくのではなかったのか!?」

せ・・・ん・・・のう・・・?

私・・・が・・・?

「何!?ここには誰もいないわ!!誰もが、あの娘の小細工に嵌ってしまった!!クラウスももう居ない!!何だ、何をする!!」

もう少し聞きたかったのに、どうやら部屋に入れられたようで、扉の閉まる音がした。

「お嬢様、大丈夫・・・ですか?」

心配そうに覗き込むクルリに、くっと唇を上げ、自分でもわかる、鮮やかな微笑みを見せた。

「大丈夫よ。さあ、ここを去りましょう」

「どうしてですか?今王妃様の部屋へ入れば誰だかわかりますよ」

「必要ないわ。直ぐに炙り出されるわ。さあ、ここを離れましょう」

私の断言に、不思議そうにしながらも落ち込んでいない様子に、ほっとしていた。

「それにね、今相談しているという事はこれから何か動きがあるわ。私が入っていったら、上手く隠して逃げられる可能性がある」

「泳がすのですね」

「そうよ」

靴を履き、その場を離れながら、大声で笑いたいくらいに満足だった。

ホールでの断罪。

そうして、今の洗脳、という言葉。

色々腑に落ちる場面が多過ぎたパズルが、

今、

全て揃った。

何故、殿下は変わってしまったのだろう。

そんな疑問にずっと囚われ、昔の殿下に戻ってくれるように願い、

必死に尽くしていた。

それが、

全部、

作られた世界だった。

殿下は変わってしまった、

のでない。

これが、

本当の殿下なのだ。

私への愛は、言わされた、言葉。

私への優しさは、指図された、行動。

得心いくわ。

つまり、極限まで私を貶め虐めた王妃様に対し、殿下が愛を囁く。

ああ、そうね殿下。あなたの心には常にレインだけだものね

ふん。良かったわ、

レインに階段から落とされる前に、昔の殿下に戻ってくれた、と思ったけれどその言葉にのらなくて、本当に良かったわ。


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