決戦の週末(土曜日)がつんとやってやります王宮入口2
階段を登り、宮殿ホールに入ると、パタパタと近付く足音がした。
「またあ、何でそんなに邪魔するんですかあ?はあ、いちいち人の前に来る嫌がらせを考える暇があれば、違うこと考えればいいんじゃあないですか?」
私の目の前で、リットが箒を慌ただしく動かすが、その箒の先が私のドレスの裾に当たった。
パン!
いい音がホールに響き、リットの手から箒が落ちた。
リットは何か起こったの分からず惚けていた。
「あなた、今、何をした?」
私の言葉にやっと、自分の手を扇子で叩かれたと理解出来たようで、ぎっ、と睨んできた。
「何するんですか!?ぶちましたね!皆聞いてください、この方私に暴力を奮ったんです!!」
見て見て、と大袈裟なくらいに悲しそうに声を出し、叩かれた手の甲を上げて見せた。
ザワザワと声がし、人が集まってきた。
「だから、何かしら?」
ずいと、顔を近づけ、扇子をリットの頬を当てた。
私の様子がおかしいとやっと理解してくれたようで、不安そうにキョロキョロ周りを見だした。
リットの思惑では、自分の声で王妃派の召使い達が面白がって集まり、リットを虐めている私を責める、と言う流れを求めているのだ。
昔、何度もその状況になった。
だが、残念ながらもうその状況には、ならない。
残念ね。助けを求める合図を送っても、誰も来ないわ。
「リット、あなたはこれから王妃様と殿下にお会いするためのドレスを汚したのよ。私が誰だかわかっているの?」
「・・・スティング様ですよ。知ってますよ!そんな事よ」
バン!
今度は肩を思い切り叩いた。
ひっ、と悲鳴が、リットと周りから声が聞こえてきた。
「そんな事?私はヴェンツェル公爵家の息女であり、殿下の婚約者です。その私に対してその態度は何?あなたの方が何様なの?」
「こ、こんなことしていいと思っているんですか!?」
「誰に、告げ口するつもり?」
また、傘、ね。
「自分がした事を気付かず、私から指摘されるなんて、残念ね。それと、私が何と噂されているか知っているわ」
「噂?」
「私が我儘で傍若無人な令嬢だと言われているのでしょう?」
「そ、そんな事・・・噂・・・ですよね?」
ほら、あなたも知っている顔ね。
「だから、その通りになるつもりよ。私だけでなく、私の後ろにおられる方にもあなたは挨拶も、礼儀もなっていなかった」
ようやく気づき、急いで土下座した。
「も、申し訳ありません!!」
ガタガタと震えるリットが助けを求めるように私を見上げたが、私を見るなり青ざめた。
「どうしたの?何を謝罪しているの?私?帝国皇子様?帝国皇女様?それとも王妃様?ああ違うわね。今更そんな事で謝らないわね。クルリ!」
「はい、お嬢様」
がちゃんとリットが使っていたバケツを持って側にきた。
「リットは掃除よりも汚す事を好んでいるのよ。だから、わざわざ私のドレスを汚してきた。望み通りにしてあげて!」
「はい、お嬢様!」
返事と共に、クルリは思いっきりバケツを持ち上げ、
え!?
リットの全身にバケツの中身をぶちまけた!
ちょっと、やりすぎ!
足元に、と私は言って、クルリは分かりました、と言った。
それなのに、まさか全身にかけるなんて約束してないわよ!
クルリはクルリでやってやりましたよ!
得意顔で、さあ、どうぞ、と1歩下がった。
・・・鬱憤が溜まっていたのは分かるけど、予想外よ!
頭痛くなりそうだった。
「良かったわね。その汚い場所が落ち着くでしょう?元々あなたの掃除はあまりに酷いやり方だったものね。では、フィー皇子様、カレン皇女様、参りましょう」
その言葉が終わるや否や、
ガン!
とカレンがリットを蹴った。
ええ!!!!!
うう、とリットは蹲り、それでも必死に土下座をしていた。
「躾のなってない召使いはこれくらいするべきよ。帝国要人に対してこれで済むなら、ありがたいと思いなさい」
「も・・・うし訳あり・・・ません」
怖いよ!
「さあ、行こうかスティング様」
「お嬢様、こちらをお歩き下さい」
3人のあまりの陽気さについて行けず、急いでその場を離れた。
「やりすぎよ、2人とも!」
「何でよ!あれでも手加減したんだよ!」
「いつもあんなこと言われていたのか!??」
「そうです。もう1人いますよ」
「どいつだ!」
「どこにいるの!」
「もう!待ってよ!そこはそこで考えているから、余計な事しないでよ。予定が狂うわ!」
あまりに苛ついてしまって、振り向き睨んだ。
「・・・ごめん」
「・・・すまない」
「・・・申し訳ありません」
しゅんとなる、と言うよりも怯える3人に少し言い過ぎたかな?
と思っていると、
「ほら、やっぱり怒らせるとこわいよ」
「そうだな」
「お嬢様、人が変わりましたね」
どういう意味よ!
もう!
むっとしたが、また何か言って変な事を言われたくないからぐっと我慢して、歩き出した。




