決戦の週末(土曜日)がつんとやってやります。王宮入口1
「武勇伝聞きましたよ」
テスターが、目を煌めかせ小声ながらも、とても楽しそうな顔で近寄ってきた。
王宮の階段下でそんなことを言われて少し恥ずかしかった。
武勇伝、
お兄様の一悶着、よりはいい響きだわ。
でも、武勇伝とは、どの事を聞いているのだろう?
色々ありすぎて困っちゃうわね。
昨夜お父様にがつん、とやってきます、と言い、朝、意気揚々に屋敷を出てきた。
頑張ってきなさい、と皆が軽く言ってくれたけど、
もし、内容を知ってれば、
絶対止めてきたよねぇ、
と、心の中でほくそ笑んでいた。
「それは、フィー皇子様とカレン皇女様が居られたからよ。もし、私1人だったら変わっていなかったわ」
私の後ろにいるフィーとカレンをテスターは目を細め、一礼をした。
このお2人に出会わなかったら、私はまだ殿下を愛していた。それが全てであり、誰の声も私の心に響くことは無かった。
全てが、
全てでは、
なくなった。
でも、
私の全てになった。
それがこれ程までに、
短い時間の間に、色々あった。
全部、2人がいたから強くなれた。
私が変われた。
「テスター、2人がおられるのは、あえて伝えないで欲しいの」
「宜しいですよ。そんな楽しそうなお顔久しぶりですね。幼い頃の悪戯を楽しんでいるようですよ」
「そうかもね。だって、とてもわくわくしているもの。じゃあ行くわ。どうせ王妃様がお呼びなのでしょう?」
「おっしゃる通りです」
「わかったわ」
テスターは一礼し、側を離れていった。
カツカツと、階段を上がる。
王宮に使える兵士や、召使い達が、頭を下げる者、軽く見るだけで足も止めず立ち去る者。
本当におかしな事だけど、よく教育されているわね。
「無視するヤツらが王妃派か?」
「御明答。必要な人間だけを覚えさせているのでしょうね。つまり、公爵派の主要人物、とくに私を無視するようにしているのでしょうね。フィーとカレンの顔を知っている人はある意味限られてるわ。2人が参加するパーティーにはそれ相応の対応ができる召使いが配置されるもの」
「逆に面白いわね」
「わかりやすいでしょ?」
「だね」
階段を登り上がりると、不意に背後から声がした。
「おや、スティング様ではありませんか?定例のお茶会ですか?」
この声は。
「タンシィバ子爵様、ご機嫌」
振り向くと、3段下まで上がっておられ、すぐに私の横にきた。
「これは、これは帝国皇子フィー様、帝国皇女カレン様。正式な場所でなく、このような場所で申し訳ありません。タンシィバ・ラッセル、と申します」
ゆったりと話をしながら、綺麗な発音で微笑み頭を下げた。
いつもの薄い紅色の服がふわりと揺れる。
「恐れ入りますが、おふたりのご挨拶は御遠慮させて頂きます。私が勝手にご挨拶したまでの事。身勝手ながら、覚えを望んでもおりません。私は、静かに余生を貧しいもの達と過ごしたいだけでございます」
フィーとカレンが背筋を伸ばし挨拶しようとしたのを、優雅にとめ首を振った。
慈愛に満ちたその物言いから、嫌味でなく、本心だとわかる。
「フィー皇子様、カレン皇女様、私からもタンシィバ子爵様の御無礼をお許し願いたいと思います。先に説明したように、慈善活動に全てを注いでおられます。慈善活動とは聞こえはいいのですが、民の中には、その言い方を、ほどこし、だと言い厭う者もいると聞きます。その為、タンシィバ子爵様は上級貴族の方との接点を望まれません」
「スティング様、御説明痛み入ります」
深々と頭を下げるタンシィバ子爵様の気持ちを少しでも理解したい、と言う甘い考えはもうない。
七夕祭りで出会ったあの子供達の未来を変えたい。
その手助けが、私にはまだない。
それなら、少しでもタンシィバ子爵様の助けになれば、と思う。
「分かりました。では、見た事ある貴族、と言う程度に留めておきます」
フィーは渋々承服した、と言うため息混じりの言い方だったが、そういう風にしてくれたんだ、と、わかった。
「お心の広さに有難く存じます。では、私はこれにて失礼致します」
「でも、何処かで顔みたら挨拶はしなさいよ」
カレンの冷たく威圧ある言葉に、タンシィバ子爵様はそれさえも優しく受け止め微笑んだ。
「勿論でございます」
静かに言うと、頭を下げ側を離れようとしたが、質問した。
「タンシィバ子爵様、今日はどの様なご要件で参られたのですか?」
「実は、寄付のお願いにまいりました」
「では、私がお出ししますよ」
「それは大変嬉しい限りでごすが、私の求めるのは、全貴族からの平等な寄付、です」
「全貴族からの平等な寄付?」
「はい。求める金額が集まればいいのではありません。どの貴族も、貧富の差を真摯に認め感じなければなりません。残念ながら、貴族の方々には寄付の金額にあまりに差があります。それは、現実を知らない結果です。私はそれをなくしたい。今日も、セクト、ああ、申し訳ありません。上級貴族と線を引く、と言いながら国王陛下を呼び捨てしてはなりませんね」
「ふふっお2人が親友なのは誰もが知ってます。それくらい良いではありませんか?」
「ありがとうございます。しかし、スティング様はそのように笑われるようになったのは、きっとお2人のお陰なのでしょうね。先日の喫茶店でのご様子からして、とても楽しそうでした」
「ありがとう。ほら、さっさと行きなさいよ。ここで話をしてたら私達と仲がいいと思われるわよ」
カレンがしっし、と手を振った。
「そうでした。御心遣いありがとうございます。では、失礼致します」
タンシィバ子爵様は、微笑むと去っていった。
「何だか、絵に書いたような人間ね」
「神殿にいるヤツらみたいだな」
「そう?素敵な考えを持ってる方よ。聞いたでしょ?貴族からの平等な寄付を求めていて、その寄付の額は貧富の差をどれだけ知っているか、ですって。確かに、と納得したわ」
「やっぱり神殿にいるヤツだな」
「だねぇ。結局口ばっかりでなーんにもしない、役に立たずか、腹黒さを隠した悪人か、どっちかよ」
「貴族と線を引く、とか言いながら爵位返上しないんだろ?」
「まあ、ね。でも、奥様が元王女だもん。そんな簡単にできないよ」
「そうか?爵位返上して全部寄付すればいいんじゃないか?」
確かに。
「そうね、自分で教会でも建てて、神父にでもなればいいんじゃないの?」
確かに。
「貴族、と言う立場があった方がいい、とか言うが、無くてもそいつの行いが納得すれば誰も邪険に扱わないだろ?」
確かに。
「要は、貴族、と言う名目を捨てたくないのよ」
確かに。
こくこく頷いてしまった。
「成程ねえ。私、まだまだ考えが狭いわね。そういう斜目線から色々見ないといけないな」
「おお!?私達の考え役に立った?」
「うん、たったわ。さ、中へ入りましょう。首をながーくして王妃様がお待ちよ」
「待たせといたら」
「待たせときゃいい」
「そうね。いつも待ってるらしいからね」
「いつも?」
「そんなに早く来なきゃダメだったのか?」
「さあね」
くすくすと笑いながら私は歩き出した。




