決戦の週末(金曜日)がつんとやってやります
「お父様、私、とても口では言えない事を週末やってきます」
金曜日の夜、夕食後、皆で寛ぐ中、
「・・・お前、王妃様を襲う気か!?」
お父様が声を震わせ立ち上がった。
はい?
「とうとうやるのか!?」
何をよ、お兄様?
「スティング!?落ち着くのよ!!」
いや、お母様が落ち着いてよ。
「私も行く!」
どこによカレン。
「俺もついて行く!」
いや、だからどこによフィー。
「スティング様!私は何を手伝ったらいいですか?後ろから羽交い締め?」
いや、違うしクルリ。
「待ってよ、全然違うわよ!そんな襲ったりしないわ。正々堂々と真正面から、がつん、とやってやるわ」
まあまあ落ち着いて、と目配せしお茶を飲んだ。
「だが、口では言えない事、となると危ない事だろう?」
お父様が不安気に言いながら、座った。
「そんな事ないわ、お父様。うーん、明日殿下のお茶会でしょ。だから、フィーとカレンに着いてきてもらって、いつものように上手く脅そうとするだけよ」
その言葉にカレンは、まるで餌を貰った犬のように目を大きく見開き、待ってました!とにこにこ笑いだした。
意外にフィーも満更ではなさそうで、嬉しそうに私を見てきた。
「それで、上手く行けば日曜日にそれなりに動こうと思うの。だから、もしかしたら王妃様や他の人が屋敷に乗り込んでくるかもしれないけど、適当にあしらって欲しいの」
「それは構わんよ。逆に乗り込んで来るくらいまでやってくれるなら、面白いがな」
うーん。乗り込んで来るだけで済めばいいけどなあ、とはあえて言わないでおこう。
「何をするのか教えてくれないのか?」セインお兄様。
「内緒。だって、内通者がいるかもしれないのに、漏れたらつまんないじゃない」
「まあ、良いじゃないか。スティングがやっと王妃様や殿下に、そのがつん、とやらをやるのだからお手並み拝見といこうじゃないか」
「スティング、あまり無理しないのよ。話では殿下に冷たくしたようだけど、あなたは元々大人しい性格なのだから頑張ったのでしょう?」
うん?
そう、かな?結構素で言ったけどな。
案の定、フィーとカレン、クルリが笑いを堪えていた。
余計な事言わないでよ。
「何かあっても直ぐに助けてやるから、思いっきりやってくればいい」
「でも、無理はしないのよ」
「お前がやる、がつん、なんて可愛いもんだろうが上手くやってこいよ」
「ありがとう。失敗しないように細心の注意を払うわね」
私の意気込んだ態度に、まるで子供をあやす様な顔つきで、お父様達は笑っていた。
でも、この感じだと私とテレリナ子爵様の話は漏れていない、と安心した。
「それとね、フィーとカレンからお願いがあるんだって」
私の言葉が終わるとザンが手紙をお父様に渡した。
静かに読み、お母様に渡した。
「宜しいのですか?」
「勿論です」
「勿論よ」
お父様の言葉に2人の即答に、お父様は私を見た。
「お前もそれでいいのか?」
「勿論よ。どうせ、殿下とレインは週明けには避暑地に向かうはずよ。私はいつものように誘われていないから、それなら好きなようにしてもいいでしょ?」
「そうだな。では、申し訳ありませんが、娘をよろしくお願い致します」
「はい」
「はい」
またまた2人の即答に、和やかな会話が始まった。
手紙はフィーとカレンのお母様、つまりは皇后様から帝国への招待状だった。
直筆で、この夏休みを帝国で過ごされてはどうか、という内容だった。前にカレンが夏休みは、一緒に、と言ってくれていたが、まさか本当に手紙を出していると思わなかった。
立場と関係なく、友達、として私を見てくれる2人に本当に嬉しい気持ちと、何か企んでいるのかも、という不安もある。
フィーが私の為にこの国に来た、と言うなら、皇帝も皇后も、私の存在は知っている。
邪魔、と思っているから招待されたのかもしれない。
フィーを諦めろ、とかね。
本当に皇帝や皇后からそう言われたら、私はどうするのだろう?
フィーは嫌いじゃない。
でも、殿下ほどの愛はまだない。
ちらりとフィーを見ると、目が合った。
フィーは私をよく見つめている。
それが心地よくて、側に寄りたいと思う。
こんなに穏やかな気持ちから、
愛になるのだろうか?




