私の手駒になりなさい2
「・・・見返りは何ですか?何故我々を選んだのですか?」
テレリナ子爵様が諦める声で破った。
「父上!?オレは、誰かに頼りたくない!!だから、こんな事になったのでしょう!?」
悲痛な言葉の相手は、王妃様の事を指しているのだろう。助けてもらうために、傘に入った筈が、簡単に傘は消え、ずぶ濡れのまま捨てられた。
だが、傘に入らなければ、どちらも潰れている。
当主として、
父としては、
辛い立場だろう。
だが、私は断らせない。
「コリュ、それは違う。私が・・・頼る相手を間違ってしまったのだ。誰かに頼るのは間違いではない。公爵令嬢様の言う通りだ。頼る相手さえ間違わなければ、その見返りは、何の後ろめたさもなく受け取るべきなのだ」
コリュ様の肩を叩き、諭すように微笑み私を見た。
「見返りは、何でしょう?」
「テレリナ子爵様のお造りになるワインをガーフィー公爵様にお渡しし、その味に見合う商人をご紹介致しましょう」
「ガーフィー公爵様に!?」
「はい。あの方の舌が肥えているのは、周知の事実。その為、多彩な商人を独自で持っておられる。ただ商人を紹介しても先はありません。それは、もう身に染みてお分かりでしょう?」
「全てをご存知なのですね」
自嘲気味に笑うテレリナ子爵、可哀想と思ったが、表に出さずグッと我慢した。
「ガーフィー公爵様を通して、また、私の名を共に出せば、業者も下手な事は出来ません。つまり、私達が認めた、相手となる。それなら如何ですか?不安がありますか?」
「いや・・・それは、願ったり叶ったりでございます。そのような強い後ろ盾を頂けるなら、葡萄園を売却しなくてもいいです」
「それはよろしい事ですね。では、紹介する私に恥をかかせないよう、素敵なワインをお造り下さい」
「その、クレスの家は・・・どうなるのですか?」
あら、コリュ様、顔が緩んできましたね。
「クレス様の家、レテル子爵様は野菜や果物を作られておりましたね。それは、我が家が、ヴェンツェル公爵家が後ろ盾となりましょう。ご存知のようにお父様は、先の飢饉から食物の加工品に力を入れております。その為、多彩な野菜、果物を常に必要としております。そこに、レテル子爵様の品物を入れさて頂きます」
一気にコリュ様の頬が赤くなり、今までの暗く悲痛な瞳と違い、輝いてきた。
少し、虐めすぎたかしら?
「それと、直近のお金が必要となるでしょう。お幾ら程必要ですか?」
聞くと、少し躊躇いながらも金額を言ってくれた。
「クルリ、どう?」
私は正直金銭感覚が無いから分からない。
「問題ないです。お嬢様の持つ資産で十分です。私が上手く引き出し、お渡しできます」
「この金額を!?」
「はい、問題ございません」
驚くおふたりに、冷静に澄ました顔で答えるクルリに、安心する。
こういう場のクルリは、肝が座り、それでいて威厳を見せ、一部の隙もない。
「では、後はレテル子爵様は、お2人の報告次第とします」
「それは、ありがとうございます」
「いいえ、これくらい当然です。クレス様を人質にとっておりますからね。それに、私の納得する結果次第、という事でございますよ」
「・・・公爵令嬢様は意外に意地悪な方ですね」
コリュ様が苦虫を噛み潰したような顔でため息を吐くと、お茶を入れ替えてくれた。
それを見て、この方は本当にクレス様を離したくないのだな、
と、
羨ましく思う反面、
よし、上手くいったわ!
とほっとしたが、勿論そんな素振りは見せず、いれたてのお茶が飲んだ。
喉がカラカラだったからとても美味しかった。
「それでは、これからの事を説明します」
「・・・急ですね。というより、私達に拒否権は無く、初めら仲間に入れるつもりで来られたのですね」
「あら、テレリナ子爵様、私、初めからそう言いましたよね?」
呆気に取られるお2人に、微笑み、片手をあげると、クルリが机に3つの箱を置いた。
「そう、ですが・・・しかし、あまりのお変わりように驚いてばかりですよ」
戸惑いを隠さず、ただ、クルリ動きを呆然と見ていた。
「ふふっ。褒め言葉ですね。では、手短に説明致します。あまり長くヴェンツェル公爵家の馬車が滞在すると怪しまれますのでね」
「分かりました」
「テレリナ子爵様、あとお2人、私の手駒となる王妃派でも、そうでなくても結構ですが、貴族を紹介してください。人選はお任せします」
「2人、ですか?」
「はい。それ以上はいりません。そのお2人にこの箱をお渡し下さい。この中にはその方にやって頂く仕事内容と、私への報告用の手紙に押す印を入れております。テレリナ子爵様には、この箱です」
すっとクルリが指を指した。
「つまり、それぞれの封をする印が違うのですね」
「仰る通りです。その為名前を書かずとも、印で私が判断致します。誰かに見られても直ぐに判明しませんし、印を押してあるので、開封されたかもすぐにわかります」
「分かりました。では、急いで信頼出来る者を探します」
「お願い致します。あと、文の受け渡しは全て、コリュ様からクレス様にお渡し下さい。その後は公爵派の誰かが、私に渡してくれます」
「分かりました」
テレリナ子爵様が返事をしながら、確認するようにコリュ様を見た。
当主でありながらも、親だ。
自分の決断に本当に従ってくれるのか、と不安が見えた。
だがコリュ様には、もう微塵の迷いもなく、真剣に箱を見つめていた。
先程の話で、俺、父さん、という普段の言葉が出ていた。
こうやってじっくり見ると、薄い緑の髪に薄い赤の瞳の活発そうな顔だ。フィーには負けるけど、悪くない顔だ。
私が変わった、と言うならコリュ様も全く違う。お互い、本当の自分とかけ離れた自分を演じていたのだろうな。
コリュ様は、
愛によって目覚めたのだ。
「御婚約おめでとうございます」
ふっと、
言葉が浮かび口にした。
心からのお祝いだと分かってくれたようで、
コリュ様は、
私の言葉にはっとしながら、
まるで涙を堪えるかのように、泣きそうな顔で笑って無言で頷かれた。
その微笑みが清々しかった。
誰かの幸せを心からお祝い出来る自分を、
褒めたかった。
私の心は、
とても広くなった。
暖かい気持ちになった。




