私の手駒になりなさい3
「私が何故お2人を選んだか、という質問でしたね。私が選んだ理由はコリュ様がクレス様と御婚約したからです」
「俺が、ですか?」
まさか自分とは思っていなかったようで、驚かれた。
「はい。先日お2人が婚約をされたのを人づてでは有りますが耳にしました。そうして、それが、甘い未来でないにも関わらずご決断されたのも知りました。他人事でございますので、どれだけ私が知り得ているかなど、憚かられますが、クレス様とお茶をした時のあの平民に対する厭う気持は並々ならぬものがありました」
特に悲痛に叫ぶお母様の顔が鮮明に思い出される。
「クレスのお祖母様があまり良い育ちではなかったので、クレスよりもおばさんが気にしていていました。だから、俺の家が平民に落ちると正式に決まった時、猛反対されました」
「それを説得させられたのでしょう?」
「どうでしょう?俺達が前々から仲が良かったのは知っていたので、結局は諦めてくれたのかもしれません」
謙遜だわ。
言葉も、その表情からもクレス様のへの想いがありありと滲み出ている。
だからこそ、皆が祝福し、クレス様も受け入れたのだ。
「そのお気持ちが、私の答えです。誰かを愛した時、その誰かも自分を愛した時、立場でも権力でもなく、お金でもなく、只その愛する方の幸せだけを望み、全てを尽くそうとします」
私だけが与えるだけだった、
想いに、
少し悲しくなる。
「クレス様が幸せになるなら、コリュ様は何をしても厭わないとお想いでしょう?何故なら、平民を厭っていたクレス様が自分の為に折れてくた。その気持ちに報う為なら、自らを犠牲にしてまでも護りたいと思っている。それはクレス様も同じ事。お互いがお互いを思いやり、そうして、迷惑をかけぬよう慈しむ」
「分かりました!その・・・追い込むような言い方はやめて下さい」
あら?
私そんなに意地悪な言い方したつもりは無いのだけれど?
本当に心から思っている。
確かに少し睨んでいたけれどね。
「それは、申し訳ありません。私も・・・必死ですのでつい語気が強くなったもしれません。話を戻します。お2人に、平民街、貧民街で探りを入れてください。何でもいい、本当に些細な事で結構です」
私の言葉にコリュ様が少し安心したように頷いた。
「それは大丈夫です。王妃様の力を借りる前の高等部に入りましたが、元々は平民に近い立場だったので、平民の友人は多いです。実際今の学園でも、皆喜んで受け入れてくれました」
「ありがとうございます」
良かった。これは予想外の内容だわ。
クレス様のお祖母様はもう亡くなっていた。だから、その親戚筋等を当たって情報を得て欲しい、とも言うつもりだった必要ないわね。
「ですが、もうお調べになっているのでは無いのですか?」
「それは上辺だけでござます、テレリナ子爵様。何か情報を得ようとする時必ず報酬が出てきます。人は報酬欲しさに、嘘、偽り、を平気で言います。果たしてそれが真実の情報でしょうか?もしかしたら、既に王妃様の手が回され、そう言うように仕向けられていたら?」
「確かに、その通りです」
「本当の情報とは、報酬に関係なく信頼から出て来きます。それはお互い話をすれば、感情から分かります。だから、コリュ様を必要としたのです」
「僕、ですか?」
以外そうに目を見開き声を上げた。
「はい。コリュ様がクレス様と御婚約した、と伺った時、引き込める、と確信しました。平民になりたくないと仰っていたクレス様を、愛で説得力された。それなら、クレス様の為なら何でもするでしょう?それに、平民になられるのであれば、簡単に潜り込めると思ったのです」
にっこりと微笑む私に、しかめっ面になったコリュ様と、してやられた、とテレリナ子爵様は笑い出した。
「足元を見られたな、コリュ。だが、確かにお前なら貧民街にも入れるだろ?」
「まあな。何度が入ったことがあるから、その辺のツテは大丈夫だ」
「簡単に貧民街には入りにくいのですか?」
少し考えながら答えるコリュ様に、素直に質問した。
「難しいですね。あそこは、公爵令嬢様の知らない世界ですよ。内輪の人間しか受け入れず、外の人間は全て敵、もしくは金ズル。俺は、友人の親が貧民街に知り合いがいたので、偶然一緒に入れたんです。そうでなければ、絶対に外部の人間を入れない」
確かに私の知らない世界だわ。
「しかし、何故そこまで気になさるのですか?先程聞きましたが、確かに金で雇われた情報屋なら、報告も不確かなものが多いかもしれませんが、全部が全部嘘ではないでしょう?」
「そうですね。ですが、元々テレリナ子爵家の処罰が平民落ちではなく、国外追放だったのです。何故そこまで王妃様はする必要があったのか、と疑問だったのです」
「国外追放?それはまた、大袈裟な・・・」
真っ青な顔で震える声でテレリナ子爵様は呟いた。
「本当です。そこを帝国皇子フィー様と皇女カレン様が処分が重すぎると見直され、今回の処分となりました。質問ですが、これまでに王妃派から外された貴族がいますか?」
「いえ、聞いた事がありません。ですがどう考えても我々を国外追放する意味は無いと思うのですが」
「私もそう思います。それでは何故か?テレリナ子爵様が秘密を持っているからではなく、秘密のある平民に落としたくなかった、と考えたのです」
この考えが正しいのかは分からないが、先程のコリュ様の話からすれば、正しい情報を公爵派は得ているのは少ないかもしれない。
それが、ここぞという時に逃げられている要因かもしれない。
「公爵令嬢様の意図は分かりました。我々も腹を括ります」
「ありがとうございます。いざと言う時には逃げてください。始めに申したように、私の手駒、であり公爵派ではありません。もし、本当に王妃派を失墜する情報を得た場合、最悪殺されるかも知れません。その時は、私は、あなた方を見捨てます」
自分の言葉は重く、躊躇いを感じながらも、見せないように努力した。
でも、意外にもお2人はあっけらかんとしていた。
「先程の話なら、国外追放を止めて貰わなければ死んでいました。それなら、助けて貰った恩は返さねばなりません」
「その通りです。まあ、どうにかなりますよ」
2人の明るい笑顔に気持ちが救われた。
私は、選ぶ相手を間違ってなかった、
と。
「ありがとうございます。それとお聞きしたいのですが、王妃派にはどうやってなられたのですか?」
大事な内容だ。だってこれは公爵派は調べれていない。先程の話のように、誰も王妃派から離されていない。もしかしたら、知らない所で離されているかもしれないが、脅されているのだろう。全く掴めていなかった。
「ジナール侯爵様のご子息クラウス様が屋敷に訪問されたのです」
王妃様の側近だ!
何時も王妃様の側にいて、お茶のとき邪魔しに来る、
あの最低な男だ。
心臓が爆発するかと思う程々早くなり、身体が震える。
「何処かで事業が悪化しているのを聞き付けたようで、手助けする代わりに、公爵令嬢様を教育し直してくれたらいい、と言われました」
「私の教育?」
「はい。我々は噂でしか公爵令嬢様の事を知りません。噂では悪役非道の礼儀なしの我儘な令嬢だ、と言う噂を聞いていました」
街で聞いた、レインが流した噂だわ。
「ですから、外で見せてる姿は偽物で、本当は噂通りの人間だ。王妃様、殿下と共に、殿下の婚約者としての相応しく育てて欲しい、と言われたのです」
「俺も、学園に入って本当に噂通りなのか?と不思議に思いましたが、周りにいる人達は口を合わせて、あれは演技しているのだ、と言われました」
ふうん。
噂、というのは意外に恐ろしいな。でも、確かに全く接点がなければそう思うだろうし、ましてや、王妃様やクラウス様が言われれば真実と思うだろう。
「ジナール侯爵のご子息は1度訪問された後は、文でのやり取りになりました」
「何故コリュ様が殿下の側につくようになったのですか?」
「それは偶然だと思います。他にも同じ歳の方がおられましたが、爵位が低く、上手く操れる家柄を選んだだけだと思います」
捨て駒、か。
でも、捨てる事もせず、殺さず生かさず、か。王妃様が考えそうなことだわ。
「本当申し訳ありません。俺は・・・間違っていました」
「宜しいですよ。誤解が解けたのですからね。では、私はこれで失礼致します。残念ですが、テレリナ子爵様の屋敷への訪問は、もうございません。次に訪問する時は、王妃様に我々が勝利した時です」
立ち上がるとお2人も立ち上がられた。
「お見送りは、結構です。今日の訪問は、私の謝罪と言う事にしておいて下さい。ただ、私の許しは曖昧なものに終わった、と言う事にして下さい。お互い接点があると見られては困りますから」
「承知しました」
お2人はそれでも私が部屋を出るまで座ること無く、礼儀正しく最後は頭を下げていた。
カツカツと屋敷を出るまで、テレリナ家の召使い、そして奥方とコリュ様のご兄妹が不安で畏怖の顔で私を見つめていた。
お見送りに、
当主も、
嫡男もいない。
私も毅然と無表情で帰れば、訣別したと思ってくれているだろう。
そうね、私は傍若無人の令嬢だものね。
「お嬢様、王妃様やレインが噂を利用するなら」
するなら?
階段をおり終わると、クルリが小さな声で、楽しそうに言ってきた。
「噂通りの令嬢になりましょうか」
噂通り?
階段をおり終わった。
「クルリ?」
意味が分からずクルリを見ると、まるでカレンがそこにいるかのような、恐ろしい笑みをうかべ、1歩私の前にでた。
そうして私の足を止めるように、目で合図してきた。
すう、と深呼吸をしたかと思うと、振り向いた。
「ヴェンツェル公爵令嬢であるスティング様に対して、対して、この程度の見送りしか出来ないのですか!?」
鋭い声がホールに響いた。
一気に空気が恐怖へと変わったのがよくわかった。
少し先に玄関を開けるために2人の召使いが控えていたが、目を見開らき、青ざめ座り込んだ。
「ご当主共々どこまでスティング様を侮辱しようとするのですか!?」
その気丈で、覇気のある声と、
そこに秘められた想いに、
高揚感が身体を覆っていく。
そうね、あなたも我慢してきたものね。
誰よりも、私の為に泣いてくれていた。
「申し訳ありません!すぐに皆を集めろ!公爵令嬢様をお見送りするのだ!」
背後からよく通るテレリナ子爵様の怒鳴り声が聞こえた。
すぐに屋敷にいるもの全員が扉の前に集められ、わざわざ、テレリナ子爵様とコリュ様が扉を開けてくれた。
「お嬢様、参りましょう」
「暗いわ」
扉が開かれ、その先にある階段を見て呟いた。
「灯りを足しなさい!これでは足元が危ないではありませんか!」
「申し訳ありません!すぐにランプを持ってこい!!」
テレリナ子爵様とコリュ様の必死な演技に正直感心した。
騒然とする中、それでも召使い達の動きが無駄がなく、テレリナ子爵様の性格がよくわかった。
良く行き届いている。
確かに裕福な貴族ではないため、召使いはかなり少ないが、少数精鋭、と言うに相応しい動きだ。
差程時間はかからず、灯りを持った召使い達が、私達が乗ってきた馬車まで灯りを持ち、並んだ。
「参りましょう、お嬢様」
「やっと帰れるのね。時間の無駄ばかりだわ」
ただ一点を見つめ睨むように歩いた。
ここから、始まると言っても過言ではない。
私に頭を下げるこの2人を味方にした今から、
本当の戦いが始まる。
「参りましょう」
「はいお嬢様」
灯りが灯される中を悠々と歩き馬車に乗った。




