プロローグ
「パーティから出て行きなさい」
大きな街の王女さまたちが泊っている高級な宿の最上級の部屋に呼び出されて言われた第一声がこれ。俺はこの街から何日も離れた山でギルドの依頼をこなして戻ってきて、宿に入ったところで受付にいた宿の従業員から王女さまたちの伝言を受け取った。命懸けの依頼を終えて帰って来たばかりの人間にいう言葉じゃない。伝言に従ってすぐには行かず、部屋(使用人用の大部屋だ)に荷物を置きに行った後にしても、ひどい冗談だ。
勇者に選ばれた俺に最後通牒を突き付けてきたのは、豪華な金髪がクルクルと縦に巻かれている王女さま。見るからにスプーンより軽いものしか持ったことがない華奢な少女だが、凄腕の魔法使いだ。
そんな王女さまと共に、世界各地の神殿が選んだ聖女さまたち(背の高いストレート赤毛の少女と巻き毛の黒髪の少女と小柄な緩い金髪の少女だ)が立っている。
彼女たちも王女さまと同じ意見なんだろうか?
「あんたらも同じか?」
「そうです」
「もう、愛想が尽きました。勇者に選ばれたというのに、特別な力もなかったら、強くもないなんて、ノースリーフの神官の勘違いだわ」
「そんなのに付き合わされたこっちの身にもなってよ」
聖女さまたちから次から次へと出てくる不平不満。
俺だって、やりたくて勇者をやったわけじゃない。うちの村に立ち寄った神官のおっさんに勇者だって抱き付かれたんだ。翌日には近隣の町に広がって、国から呼び出しを食らったから勇者になるしかなかった。
だって、村で一番力があるわけじゃないし、頭がいいわけでもなかったんだぞ。
それがいきなり兵士に連れて行かれたら、勇者になるしかないだろう?
そんな力も頭も魔力も一般人(村人Aだしな)が勇者になって、特別な能力もなかったら、仲間に愛想を尽かされるのも時間の問題だった。
これが当然の結果だ。
俺の顔面偏差値だって村人Aだから、魔法の天才である王女さまやそれぞれ特別な能力のある聖女さまたちが役立たずな勇者を見限ってもおかしくない。おかしくないんだ。
だけど、旅立った頃からの仲間たちの裏切りに俺は打ちひしがれそうだ。
たとえ、能力無しだと気付かれて馬鹿にされていても、それでも何ヶ月も一緒に旅をしてきた仲間で、俺が食事係や面倒な雑用や力仕事以外役に立たなかったとしても、それでも仲間なわけで。たとえ、王女さまたちの宿代の為に命懸けの依頼を受け続けなくてはいけなくても、それは自分が弱いから命懸けってだけで。
王女さまの目にも、聖女さまたちの目にも、仲間に対する情が欠片もなくても、俺は勇者で――
言いたいことは山のようにあるが、俺は村人A。勇者じゃなかったら、王女さまや聖女さまたちとは話すことすらできない身の上。勇者だって言われても、村人根性のままだから言い出せない。
「あなたは勇者と言っても、その名にふさわしくないから、わたくしたちは本当の勇者さまと一緒に行きますわ」
そう言って王女さまが招いたのは、聖女さまたちがノースリーフに来る時に神殿が付けた護衛の一人で十人中十人がイケメンだと認めるフィリップだ。悔しいが奴のほうが俺より確かに勇者らしい。外見も実力も。
「そうよ。フィルのほうが勇者にふさわしいわ」
「強いし、カッコいいし」
「勇者を選んだ神官は間違っていたのよ。ホントの勇者はフィルなんだから」
聖女さまたちは口々に言った。
俺だって勇者って柄じゃないから、村から出たくなかった。フィリップでいいなら、奴が勇者になったらよかったんだ。
「俺だって、そう思ってたよ。だけど、俺が選ばれたんだよ。王女さまたちがフィリップが勇者だって思うなら、フィリップに付いていったらいいじゃないか」
思いきってそう言ったら、王女さまは当然とばかりの顔をした。
「勿論、そのつもりですわ」
そんな王女さまの言葉を応援するように聖女さまたちも言う。
「あなたはお払い箱よ」
「偽の勇者はわたしたちにいらないの」
「勇者は二人もいらないし」
聖女さまたちの取り付く島のない意見を聞かせて味方がいないことを思い知らせたのか、王女さまが宣告する。
「わかったのなら、出て行きなさい。他の者には説明しておいて上げますから、この部屋を出てそのままこの街から姿を消して。ああ、それと二度と勇者を名乗ってはいけなくてよ。勇者はフィリップさまだもの。勇者の偽者には厳しい罰が下るのですから、見逃して貰えるだけありがたく思いなさい」
俺が勇者だってのに、偽者ってどういうことだよ?!
うちの村に来た神官以外にも、ノースリーフの大きな街や都、他の国の神殿で何度も勇者かどうか確かめられて勇者だと認められたのに。
確かにフィリップのほうがどう見ても俺より勇者に見える。金髪だし、凄腕の冒険者だし、イケメンだし。
だけどな、勇者に選ばれたのは俺なんだよ。
村人Aにすぎない俺だったんだよ。
薬草とホーンラビットみたいな小型の毒もない食用の魔物を取って来るのがせいぜいできるくらいの村人Aなんだよ。
王女さまはフィリップに腕を絡ませて、フィリップの顔を見上げる。フィリップも王女さまのほうに顔を向けて、二人は仲睦まじそうだ。
俺たちがギルドの依頼を受けて出かけている間に王女さまたちは護衛として残っていたフィリップとそれは親しくなったようだ。
王女さまは一国の王女さまだし、聖女さまたちも神殿で大切に育てられた方々だ。
尊いのはわかる。
王女さまたちは大きな街の高級な宿か高位貴族の館にしか泊まらない。
魔王討伐の旅以外の戦闘はする必要がないと、王女さまたちは言った。魔王を倒せば魔王が放った多くの魔物が消えるから、早く魔王を倒せばいいだけだと。
天才魔法使いである王女さま。神殿で育てられた聖女さまたち。
実力があるのもわかる。
それに吊り合わないのが村人Aだった勇者の俺。
弱い俺の存在が魔王討伐の旅の足を引っ張っているからと、ギルドの魔物討伐依頼を引き受けて、少しでも魔物の被害を減らすのも命懸けになるしかなかった。
でも、それすら、無駄なことだったと言われた。
俺の今までの努力はなんだったんだよ?




