交換日記(5) 六月四日 (金)
幸せという言葉は、最近のようなときに使うべきなのかもしれません。
有紀子さんとボクの休憩時間が少しかぶっていたおかげで、日記を渡すタイミングがやってきましたね。いつ渡そうって、昨日話し合ったのがバカみたいです。でも、明日は有紀子さんがお休みなので、午前中に渡せます。午前中だけでも会いたいと言って、受け入れてもらえてよかったです。二人で出掛けるのは二日ぶりなので、また緊張してしまいそうです。ペットショップに行くのはいつ以来なのか、もう思い出せないくらいなんですけれど、動物が好きなので、ペットショップに行くというだけで楽しくなっています。隣に有紀子さんがいれば、どこへ行ったって楽しいに決まってます。
すみません、少しのろけました。
昨日の日記を読ませてもらいました。実は、いきなり交換日記を提案して、迷惑がられないかって不安でした。付き合い出したばかりで断れず、ペンが進まない有紀子さんを想像すると、自分はなんて気遣いのできない人間なんだ、って思ってしまい・・。でも、実際は有紀子さんも日記を書くのが趣味で、あんなに大量に書いてもらえるなんて嬉しいです。 (本当に喜んでいます イヤミじゃないですよ)
有紀子さんがボクに関心を持ってくれたという出来事のことは覚えています。サービスカウンターの清掃に入ったことが、まさかこんな幸せを運んできてくれるなんて。本当に幸運だし、どこで人生が変わるかわからないものですね。
そういえば、有紀子さんの生い立ちを話してもらった (書いてもらった) ので、ボクも簡単に。
中学を卒業するまでは、三重県に住んでいました。尾鷲市っていう、何もないところです。いや、海だけはありました。海の幸だけは豊富です。いつか、食べに行きましょう。中学を卒業して、家族と共に千葉県へ引っ越しました。父親の転勤でした。大学も千葉県内で、工学部に進みました。それほど成績はよくなかったので、運良く入学できただけだと思っています。
大学を卒業して、東京の企業に就職しました。
有紀子さんは、現在パートとして働いていることに引け目を感じているようですけれど、ボクだって同じです。清掃の会社に努めているのは、東京での仕事を続けられなかったからですから。研究職でしたが、ボクにはやっていくだけの能力がありませんでした。元々の頭脳が、必要な水準に達していなかったのでしょう。先程書いた通り、千葉大学へ入学できたのは運がよかっただけなんです。
東京の会社を辞めたのが二十五歳のときで、すぐに愛知県での生活を始めました。東京から逃げるように、こっちで一人暮らしを始めたんです。
清掃員として働き出したのはアピタではなくて、もしかすると、今後も、別の店になるかもしれません。それでも、愛知県から出ていくことはないはずです。だから、有紀子さんとのお付き合いには問題がないと確信しています。(もしそんなことがあれば転職します。学歴だけは武器になるので)
ボクの人生は、これくらいです。他に目立ったところもないし、大きな成果を残してきたわけでもありません。ただ、一つだけ、ボクには秘密があります。これまで、なかなか人には言えずに過ごしてきました。この秘密を知っているのはボクの家族だけです。
でも、有紀子さんには話したいと考えています。少し勇気の要ることなので、タイミングをはからせてください。少なくとも、有紀子さんを傷つけたり、悲しませるような内容ではないので、安心してくださいね。明日は話さないでおきます。明日は二人で出掛けて、恋人になってから初めてのデートを楽しみましょう。それに、有紀子さんがこの日記を読むのは、デートが終わって、ボクが仕事に行っている頃ですしね。
そうだ、そのタイミングに読んでくれると思うので、ここに書いておきます。
有紀子さんの日記にも書いてありましたけれど、よかったら、ボクのこと賢太郎って下の名前で呼んでください。その方が嬉しいです。二人の距離が縮まったような気もしますし。ボクだって有紀子さんって呼んでいるんだから、おかしなことじゃないですよね?笑
よし、有紀子さんから下の名前で呼んでもらえるって思ったら、元気になってきました。実は、少しだけ気になって、悩んでいたことがあるんです。
今日、中村課長にセクハラされていませんでしたか? ボクの勘違いかな? サービスカウンターで、中村課長が有紀子さんと密着するくらい近くにいたから。それだけなら全然問題ないんですけれど、有紀子さんが困ったような顔をしていたから・・。心配してしまっています。本当なら電話とかラインとかで、直接聞けばいいことなんですけれど、簡単に尋ねられることでもないので、ここに書いてみました。勘違いだったら、有紀子さんにも中村課長にも失礼ですしね。(嫉妬深いやつって思わないでください。本当に心配しているだけなんです・・)
前の日記にも書いた通り、ボクの内面は少し引っ込み思案なんです。だから、堂々とすればいいのに、変に気を遣ってしまうところがあります。悪いところだとは自覚しています。なかなか癖は抜けませんね・・。
でも、有紀子さんはそんなボクの内面を好きだと言ってくれました。本当に、本当に嬉しくてたまりません。
これまで、ボクの外見だけに注目して近づいてくる人がいました。そういう人ばかりでした。自慢しているわけじゃないですけれど、ナンパされたことだってあります。逆ナンっていうのかな? (もちろん、誘いには乗りませんでしたよ) そういうのは、心底お断りなんです。
だから、内面を見て好きだと言ってくれた有紀子さんのことを、これから、一生愛し続けていきたいと思っています。これは本心です。死ぬまでボクは有紀子さんの味方でいたいし、味方でいるつもりです。何の取り柄もないボクでも、それだけは神様にも誓えます。誓います!
神様に誓ったところで、そろそろ寝ようと思います。明日の午前中はデートだし、遅刻するなんてありえないですもんね。
今、ラインした通りです。ここにも書いておきます、おやすみなさい。
明日は紳士らしくふるまえますように。がんばれよ! 成田賢太郎!




