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ロストメモリー  作者: 島山 平
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成田賢太郎の日記(16) 六月二十五日 (金)

 冷静になる必要がある。そして、自分にできることを見極める必要が。有紀子さんが壊れてしまわないように、支えてあげなくてはならない。でも、どうしてこうなった? 何が起きているんだ?


 有紀子さんの実家は平凡な団地の中にあった。建物はそれほど大きくないけれど、きちんと手入れされていることがわかる庭と、住んでいる人の誠実さが出ている玄関。お母さんが、毎日掃き掃除をしていたんだと思う。家を眺めただけでも、有紀子さんのお母さんがしっかりした人なのだとすぐにわかった。

 その家の周りを、何台ものパトカーが囲んでいた。野次馬が何人もいて、どこにでもある団地のはずが、ドラマのワンシーンに変貌してしまっていた。その中にはボクもいて、家の中には警察がたくさんいた。有紀子さんと中村課長は病院にいたのか、警察で話をしていたのか。正確なことはわからない。ハッキリと言えることは、そのときすでに、有紀子さんのお母さんはこの世にいなかったということだけ。

 いったい何があったのか、ボクにも把握できていない。野次馬のみなさんから聞こえてきた限りでは、有紀子さんのお母さんは誰かに殺されたらしい。主婦らしき女性が恐ろしさを口にしていたし、亡くなったお母さんについて、勝手に無責任な想像をしている人たちもいた。本当に、ああいったマスコミ的な精神には反吐が出る。いっそのこと、殺してやろうかとすら思った。亡くなった方と、その遺族である有紀子さん、彼女たちの気持ちを考えもせず、見せ物のように扱う。気持ち悪くて、その場にはいられなかった。


 まだほとんど何もわかっていない。わかっているのは、おそらくは殺人事件であり、有紀子さんのお母さんが被害者だということ。事件が起きたのは有紀子さんが中村課長と共に静岡へ行っていた日と重なっているということ。事件の第一発見者が有紀子さん自身であること。これから、彼女が大きな悲しみや喪失感と戦わなくてはならないこと。そして、ボクは彼女のために行動しなければならないこと。

 どうすれば彼女を救れるのか考えるつもりだ。必要であれば、ボクはこの手を犯人の血で染める覚悟だってある。

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