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ロストメモリー  作者: 島山 平
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成田賢太郎の日記(13) 六月二十二日 (火)

 ようやく、自分の存在意義を理解してきた。ボクは、有紀子さんを幸せにするために生まれてきたんだ。

 その方法は、当初の予定とは変わった。彼女と共に過ごすことで幸せにするのではなく、サポート係に徹する役目だったんだ。有紀子さんの人生が良い方向へ進むように、ボクは一歩か二歩下がって、彼女を見守る。それがボクの運命だった。第一線に立とうだなんて、おこがましかったんだ。

 でも、こうして日記を書きながら、諦め切れない気持ちもある。有紀子さんを愛しているのだから、自分が隣にいたいと思うのは当然だ。ただ、その感情を理解しつつ、影に徹する生き方があることも納得できるようになってきた。

 誰もが欲しいものを手に入れられるとは限らない。ボクの場合は、一度は有紀子さんと恋人になり、将来が見えたからこそ悔しいわけだけれど、最初から恋愛が上手くいかなかったと思えば、今の状況と同じだったはず。美味しい味を知ってしまったからそれが欲しくなってしまうだけで、二度と食べられないのは変わりがない。


 前に頭に浮かんだ、姉妹の物語。妹は欲求のまま欲し、姉は我慢していたのに結局は崩壊した。どちらにしてもうまくいかない。でも、言い換えれば、どっちでも成功したかもしれないんだ。手に入れようとしてボクがもがいても(・・・・・)有紀子さんが幸せになるとは限らないけれど、幸せになるかもしれない。我慢していたら有紀子さんは幸せになるかもしれないし、ボクと一緒にならなかったことで不幸になってしまうかもしれない。そんなことを考えていたら、何も始まらない。だからといって、手に入らないからといて壊してしまったら、それこそ全員が不幸になる。だからボクは、手に入れたいけれど諦めて、有紀子さんが幸せになることを望む。彼女が幸せになることが、ボクの幸せでもあるから。


 そう思えば、有紀子さんと中村課長の恋愛も、応援できそうな気がしてきた。今はまだ、二人が話しているのを見ると奥歯を噛み締めてしまうし、すぐに目を逸らしてしまう。

 でも、それは当然だし、いつかは、二人の姿を見て安心できるのかもしれない。だいぶ早いけれど、父親になったような気分だ。有紀子さんがボクの娘で、中村課長がその旦那さん。世界中のお父さんはそれを経験するのだから、ボクにだってできるはずだ。いつか、自分が本当の父親になったときの練習みたいなものと思えばいい。有紀子さん以外の女性と結婚するなんて、今は考えられないけれど。

 運の良いことに、ボクたちは同じアピタで働いている。二人の姿は毎日目にすることができるし、いざとなれば接触もできる。有紀子さんが悩んでいたら、彼女の知らないところでそれをフォローしてあげればいい。守護霊みたいなものだ。まだ生きているものの、この人生を有紀子さんに捧げる覚悟がある。


 今はまだ泣いてしまいそうだし、心から二人の幸せを願えるのはまだまだ先かもしれない。でも、その日はきっとやってくる。有紀子さんが幸せになって、ボクも幸せになる。一方通行の愛でも構わないじゃないか。自分の努力や愛情が、誰かの目にとまらなくちゃいけないだなんて、それは心の貧しい考えだ。そういう人たちは、愛しているのは自分だけなんだろう。

 有紀子さんを幸せにするためなら、ボクはなんだってする。そうやって自分に言い聞かせて、彼女の幸せをサポートしよう。

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