31 楽器
歌い終わり、ふと周りを見ると、大勢の人々が立ち止まっていた。
しかし、ヤケに静かだ。元の世界では、歌った後は、こう…。
って、リムさん号泣している!?目を見開いたままは怖いよ!
エルハルトは…呆然としているな。他の人々もそんな感じだ。
とりあえずお辞儀をし、同じく呆然としている吟遊詩人さんから離れる。
「えっと、リムさん?」
「シルさん…あなたは、何者なんですか?」
「え、や、今日判明したように、その、別の世界の…」
うーん、まだちゃんと理解できてなかったのかな?
「ああいや、とても良かったぞ。これが『歌』なんだな」
「うん。まあ、他にもいろんな歌い方があるんだけど」
「なんというか、この世のものとは思えない心地がした。素晴らしかった」
エルハルトも大げさだなあ。楽器の伴奏もないソロ歌唱だったし。
しかしそうか、この世界では本当に歌そのものが未知だったか。
「楽器があればもっと歌いやすいんだけどなあ」
「楽器?あるぞ」
「え、あるの?」
エルハルトは、吟遊詩人さんの近くにあった物を指差した。
あれは…ティッシュ箱に3本の糸を張っただけのような…いや、失礼。
「笛のタイプもあるが、声に合わせて使うのはアレが多いな」
「でも、さっきは使ってなかったけど?」
「いつも使うわけではないらしいな。声と同時は更に難しいようだ」
まあ、ないよりはマシかな。ちょっと使わせてもらおう。
まだ呆けている吟遊詩人さんに一応声をかけ、弦楽器らしきものを触る。
…んー、やっぱり音の幅が狭いか。またエルハルトに作ってもらおうか。
「おい、ちょっと待て。なんだ、今のその音の連なりは」
「連なり…?ああ、『メロディ』の概念もないのか」
「ああ…どうやらその通りのようだな」
もしかして、作ってもらうのにメロディも理解してもらう必要がある?
「シルさん…素敵です…」
「うえ!?」
いや、リムさんに好意をもたれているのは気づいていたけど。
未だ涙を流しながらうっとりされるような反応は本当に怖いから!




