2 転移
ある日の下校途中、足を滑らせたと思ったら、見知らぬ森の中に倒れていた。
異世界を思わせる風景に戸惑っていたら、どこからかイメージが届いてきた。
「ただの事故…すぐには戻れない…気長に待っていてほしい…。えー…」
誰かに召喚されたわけでもなく、空間の歪みが発生して転移しただけらしい。
嘆いてばかりもいられず、転移した森から歩いて最寄りの街にたどり着いた。
門番に身元確認できるものがないと言ったら、記録のための名前を聞かれた。
「…『シル』でいいか。昔RPGで使っていた名前で馴染みもあるし」
なぜか言葉には不自由せず、本名よりも呼びやすいだろう、と思い浮かんだ。
その後、記録手数料として銅貨1枚を請求された。五百円玉は通用しなかった。
「じゃあ、森で薬草を採取してきてくれないか。これが見本だ」
既に森で見かけていたこともあり、引き返してから1時間程度で採取できた。
薬草を渡すと町役場での住民登録を勧められた。手数料が不要になるようだ。
しばらく住むことになるかと思い、早速町役場に行って手続きをお願いした。
「これは…?えっと、申し訳ありませんが、冒険者ギルドに同行して下さい」
窓口で石板のようなものを操作していた人に、そう言われて連れ出された。
『鑑定』を担当したギルド職員にびっくりされた。そして、酷く同情された。
誰にもあるはずの魔法スキルの固有パターンが全く検出できなかったからだ。
「とりあえず、これを。古い魔道具ですが、登録代わりに使えるでしょう」
ギルドで渡されたのは、わずかな魔力が付与されたネックレスだった。
なお、言葉が通じたのは、異邦人の僕に誰もが翻訳魔法を使ったからだ。
魔法の存在には感激したが、言語チートすらなかったことにがっかりした。
パターンが検出できないことから、魔法スキルが皆無なのは間違いない。
あまりに気の毒に思われたのか、逆に見下されることがなかったのは幸いか。
とは言え、生活のため、稼ぎの少ない薬草採取を続けることになった。




