閑話 安息日 裏
リーシャ視点です。
――さて上手く二人を撒くことができたわけですが……クロエはちゃんと楽しめてますかね?
四人で街に遊びに行くと見せかけて、私の真の目的はルークさんとクロエをデートさせること。
まあ、あの朴念仁は未だに彼女の事に気が付いていないみたいですから、疑似デートといったところですか。
あの娘は普段気を張っているものの、素の方ではヘタレたところがあるから少々心配です。
二人と離れた以上、後は成り行きに任せるしかないですが、もしも彼女を傷つけるような真似をしたら……彼には覚悟してもらいましょう。
そちらの方に関しては夜まで結果待ちです。
そして私の方はと言えば、今回のもう一つの目的を果たさねばなりません。
その目的とはすなわち――
「むぅ、本当に二人を探さなくていいのか?」
このお邪魔虫からルークさんについて情報を得ることです。
「まぁ、別に問題ないでしょう。子供ではないのですし、合流できなければ学院に戻るでしょうし」
「……ふむ」
というか付き合いが長い分、クロエにはこちらの意図を読まれてる可能性が高いんですよね。
夜には私が怒られるパターンも想定されるので、上手くいなして揶揄いたいところです。
「とすると俺たちはどうする? 俺としてはせっかくなので色々と見て回りたいんだが……」
「ええ、構いませんよ。私もダンさんに尋ねたいことがありましたし」
彼に聞きたいことは勿論ルークさんのことです。
なにしろ同室で寝起きする友人ですからね。私では知らないことも知っているでしょう。
さすがに学院生活中の身では得られる情報にも限りがありますからね、こういったところからも情報を得なくては。
「おおっ、それは奇遇だな。俺もリーシャに訊きたいことがあったのだ」
「……私にですか? ……いったい何のことでしょうか?」
少し意外ですね。
勉強の事など以外で、態々このタイミングで質問するようなことがあったでしょうか?
彼の性格上、気になることがあれば人目を気にせず尋ねてきそうなものですが。
「まあ、大したことではないのだがな。お前に訊くのが一番安全な気がするのだ」
「はあ……」
どうにも彼の話は要領を得ません。
無駄に言葉を飾ることなく、真っ直ぐに思ったことを口にすることが彼の美点だったのですが……。
「うむ、では訊くが……クロエはどうして男装などしているのだ?」
――本当に予想外の質問に一瞬思考が停止しました。
◇ ◇ ◇
「うむ! やはり男たるもの肉を食わねばな!」
商業区に建ち並ぶ飲食店の一角。
食欲を刺激する匂いが充満する店内にて、私とダンさんは向き合って椅子に腰かけています。
さすがに道端で話すような内容ではないので、場所を変えました。
私の目の前ではダンさんが大量の焼き肉に齧り付いています。
私の奢りだと言ったら遠慮なく注文してくれました。
……予想外の出費です。女性に気遣いできない男性はモテませんよ?
まあ、彼はそういった事には関心が薄そうですが。
「――それで……どうしてダンさんはクロエの事に気づいたんですか?」
泣く泣く出費を受け入れた理由。それは彼が何処でその情報を知ったのか知るためです。
別に殊更に隠しているわけではありません。女生徒や貴族生徒と付き合いがあれば耳に入る事です。
しかしそのどちらとも付き合いのない彼が知っているのはさすがに見過ごせません。
もしもルークさん経由で聞いたのであれば、クロエのことを気付いていて知らないふりをしているということ。どういった意図があるのか問いただす必要があります。
ダンさんがご自身で気づいたのであれば、彼への評価を上げ口止めする必要があります。
不本意ですがクロエの男装はそれなりの完成度。
いったい彼はどうして彼女の事情を知ったというのですか……!
「ん? そんなものは骨格や筋肉の付き方を見れば一発だろう?」
「……冗談ですよね?」
「冗談?」
意味不明だとでも言うかのように首を傾げるダンさん……どうも本気で言っているみたいです。
これはさすがに予想だにしませんでしたねー。
筋肉馬鹿も極めれば真理に至るということなのでしょうか?
「――わかりました。それでルークさんの方はクロエの事を知っているのでしょうか?」
どうにも受け入れられない筋肉論理ですが、ここは強引にでも自分を納得させます。
本命の質問はこちらですからね。
「ルークか? あいつは全く気付いていないようだったぞ。良い奴だが鈍感なところがあるからな」
「……そうですか」
まさか彼もダンさんに鈍感扱いされているとは思わないでしょうねー。
「……それでそろそろ俺の質問にも答えてほしいのだが」
「……申し訳ありませんがお答えしかねます。彼女のプライバシーに関わることなので。どうしてもと言うなら彼女自身に直接尋ねてください」
こればかりは私の口から言っていいことではありません。
もしもダンさんが無理に訊き出そうとするならば、こちらにも考えがあります。
「……うむ、そういうことなら無理には訊かないでおこう。ルークの奴にも黙っておいた方が良いのか?」
「そうですね。できれば教えないでください」
彼が自然に気づく分には構いませんが、そうでないのなら避けるべきでしょう。
少なくともクロエはそう望んでいますから。
「任せておけ。こう見えても口が堅いことには自信があるからな。……ところでそれとは別に相談があるのだが」
「……相談ですか?」
いったい何でしょう?
普段能天気な男くさい顔を無意味にキリッとさせていますが。
「――焼肉、お代わりしても構わんか?」
「……好きにしてください」
このタイミングでその頼み事って反則じゃないですかね?
◇ ◇ ◇
「ふ……ふふっ。やってくれましたね、ダンさん……!」
時刻は夕刻を過ぎて夜間に近しい頃。
日も落ちて暗くなってきた空を眺めながら私は女子寮へと向かいます。
……すっかり軽くなってしまったお財布を抱えながら。
あの後ダンさんは実に遠慮なく旺盛な食欲を発揮してくれました。
その引き換えに得たルークさんの情報は、正直言って見合うものとは言えません。
せいぜいお姉さんがいて、ちょっとシスコンらしいということくらいですか。
――今回は私の完敗です。ですがこの借りは必ず返します。
そう強く胸に誓って自室の扉を開けた先で私を待っていたのは――
「……へ?」
思ってもみなかった楽園でした。
部屋の片隅に立て掛けている姿見の前には、蒼を基調としたロングスカートのワンピースを着た銀髪の少女が佇んでいました。
落ち着いた服装でありながらも下品にはならない程度に飾りのついたその服は、その少女の魅力を十分に引き出しています。
「あっ! えっと、これはそのっ、違うから!?」
――素晴らしい。
顔を赤くして大慌てする様子が実にチャーミングです。
「ええ、ええ、わかってます。わかってますよー。遂に女の子らしい服を着る気になったんですね!」
「ち、違うってばっ!?」
「大丈夫です、わかってますから。今すぐ私の予備の服を出しますからね!」
「わかってなーい!」
はい、実は全くわかっていません。どんな奇跡が起きてこんな状況になったのか全く謎です。
ですが折角のこの機会を逃すつもりはありません。
覚悟しなさい、クロエ。今夜は寝かせませんよー。
――翌日見事に寝坊した私たちは講義に遅刻しかけ、朝食も抜く羽目になるのでした。
後悔は全くないですけどね!
「28 安息日3」にて買わされた服です。




