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過ぎた守り

「大丈夫だよ、大丈夫」


「そうよ、エダ妹。これからまだこんなに長い時間があるんだもの。きっと転機が来るわ。目の前の光景に惑わされちゃだめよ」


聖タク暦一七五三年。私はもう一度小さなエダを抱きしめ、静かに慰めた。聖女は盤上の言葉を繰り返している。


「そうかな……。でもやっぱり、アンビティが王をやって」


「どうして」


「わたしを守るって言ったでしょう? 自分のことも守れないのに、どうやって人を守るの」


「……わかった。でも総教会堂にこの棋はあるのか?」


「簡単よ。これは聖タク兵棋の変形版だから、お姉ちゃんが駒に少し細工するだけでいいの」


聖女はそう言いながら指先で一つの駒をすっと撫でた。——瞬間、金色の光がぱっと閃いた。総教会堂には錬金術師が専用のこういう粉末を作っているのだろうか。神術や呪術は信じないが、錬金術にはそれなりに一理あると思っている。


「この駒を王にしましょう、アンビティ弟。ちょうどあなたの身分にぴったりだわ」


「何の身分ですか。僕はただの伯爵の子ですよ、ヴィエルヤお姉ちゃん、変なこと言わないでください」


「アンビティ弟は謙虚ねえ。オスス氏族は聖タク三大名門の一つよ。しかも伯爵という要職を務めているのは、聖タク人はおろか、イミタート人以外のウニス人にもほとんどいない」


「オスス氏族は僕の家だけじゃありません。分家がたくさんあります。それに三大氏族なんて聖タクの王政時代から共和時代の話で、帝国時代にはもうそんな呼び方はなくなっています」


「でも輝きを保ち続けたのはセナトール家だけでしょう? 何世紀もの歳月を経て、大半は平民に没落し、わずかに貴族の地位を維持している者もセナトール家には遠く及ばない」


「それでも金色の光は僭越が過ぎます」


「ここは総教会堂よ。誰にもわからないわ。ねえ、エダ妹」


「金色の光がずっと続くなら、だけど」エダは直接答えなかった。意味のわからない言葉を呟いたが、頷いて同意を示した。


「わかりました。じゃあ、どう並べるんだ」


「わたしがやる」


エダが小さな手を伸ばし、ゆっくりと駒を配置していった。並べ終わった盤面を眺める。攻撃側はじっくり見るまでもなく、数の優勢で盤の外縁をぐるりと占拠している。注目すべきは私が演じる防御側だ。王が中央に佇み、護衛たちが取り囲んで隙間なく守っている。——だが同時に、王の動ける空間も塞いでいた。


「過ぎた守りは、足枷にもなるな」


「え?」


「アンビティ弟は自由が好きで、縛られるのが嫌いだって言ってるのよ、エダ妹。ちゃんと覚えておいてね」


「それも勉強の一つなの? 覚えておく」


「でたらめ言わないでくださいよ、ヴィエルヤお姉ちゃん。開局の局面分析をしただけです」


「別の目的で言った言葉でも、潜在意識を映してることはあるのよ」


聖女がそう言いながら、また頬を揉み始めた。私はもう答えず、盤面に集中した。小さなエダは先ほどの教訓を吸収したらしく、焦って攻め込まず、複数の方面から駒を動かして前後で連携させ、陣形を固めていった。突破を担う側の私は、兵力の大半を一点に集中させ、少数だけを後衛として周囲の護りに残した。


「守らずに自分から突破するの?」


「ゲームのルール上は防御が最善かもしれない。でも現実的に考えれば、孤立無援で援軍も来ない状況で籠城するのは、死を待つだけだろう。それに防御に徹するのは、ちょっとずるい」


「名誉心のあるアンビティ弟を今のうちに噛みしめておいた方がいいわ。戦場ではそんなものは通用しないから」


「ヴィエルヤお姉ちゃんまた訳のわからないことを。もう相手にしません」


一日を共に過ごし、聖女が——聖女であるにもかかわらず——度を越した少女っぽさを晒し続けたおかげで、私の警戒心は徐々に弛んでいた。聖女の意味不明な発言に苛立ちを見せるほどには。エダはその間、沈思していた。余った兵力で他の薄い箇所を攻めるべきか、私の突破を迎え撃つべきか。だが会話が途切れた瞬間に決断を下し、駒を動かして迎撃を選んだ。私は当然、集中済みの兵力で鋭い一点突破を仕掛けた。


「兵力が少ないのに、こんなに強い攻撃ができるの?」


「父に軍事は散々叩き込まれたからな」


「今度はアンビティ弟の番ね。得意になって注意が逸れて、本来の目的を忘れるのは、よくないことよ」


「ヴィエルヤお姉ちゃんまたでたらめを。どの角度から見ても僕が有利でしょう。さっきのエダは見かけ上優勢だっただけで、実際に推算すれば不利だった」


「盤面ではそうかもしれない。でもアンビティ弟も言ったでしょう? "現実的に考えれば"って。ゲームのルールじゃなくて」


「何ですか、勝ちは勝ちです」


局面が進むにつれ、局所的な優勢から突破に成功した。だが聖女の言葉通り——勝利の手応えに酔い、本来の目的を忘れてしまった。戦術が突破から殲滅へと逸れていった。確かに、後から振り返っても、あの会話の時点では依然として優位だった。だがそれは突破を前提とした場合の話だ。正しい判断を下していればの話。局所的な優位の勢いのまま攻撃を続け、エダの駒を次々と削っていったが、後衛が壊滅し、エダの増援が到着するにつれ、後続のない私はじりじりと追い詰められた。最後に敗北した。——最初に自分で言ったのと同じ結末。ただし原因が防御ではなく、攻撃にのめり込んだことだった。


「そんな……どうしてこうなるんだ」


敗北を好む人間はいない。ましてや勝ち負けにこだわる子どもにとっては。悔しさに頭を垂れ、不甘の眼差しが盤面に落ちた。——もし攻撃に没頭して駒を取ることに執着せず、早く突破していれば。


「たかがゲームで一回負けただけじゃない。わたしを守るって言ったんでしょう? 嘘つきはだめだよ」


エダがさっきの私の仕草を真似て、卓を離れて歩み寄り、抱きしめてくれた。——そうだ。この子はたった今、家族の惨劇を経験したばかりなのだ。私はただゲームに負けただけ。それだけのことで、こんな情けない姿をさらすなんて。


「ごめん。悲しむべきは君の方なのに。本当に、こんなみっともない姿を見せてしまって」


私もエダをきつく抱き返した。


「また抱き合ってる。お姉ちゃん、ちょっと妬いちゃうなあ。ねえ、新しい棋をやらない? お姉ちゃんのところに、昔オリエンス人が礼節として聖タク皇帝ルドゥスに贈った棋があるの。帝国滅亡後に総教会堂に渡ったのよ」


「新しい? もしかして骰子を使う遊び方のやつですか? でも教会は骰子を賭博だと——」


「違うわよ。これも軍陣式の棋。東方の兵種がたくさん出てくるの。しかも象牙の彫り物よ。遊んでおけば、いつか東方の兵と戦う時に役立つかもしれないわよ」


聖女がまたどこからともなく取り出した。——宝石と黄金が嵌め込まれ、象牙で磨き上げられた精緻な棋盤と駒。

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