兵士の肉声
「ちゃんと撮影できてるかな?」
操縦士がもっていた記憶装置。
それには、彼の最後の瞬間が撮影されていた。
「まあ、普通なら冷凍睡眠か、遊んで過ごすんだろうけど。
それじゃ芸が無いと思って」
まだこの瞬間の彼は正気だった。
少なくとも狂気に陥ってはいない。
もっとも、その心の中はどうだったのか。
「せっかくだから、死ぬまでの瞬間をこうして撮影しようと思った。
特に理由はないけど。
でも、少しでも何かの足しになればと思って」
そう言って始まった記録は、生命維持装置が機能を停止するまで続いた。
最初の頃はまだ元気だった。
状況が状況だから落ち着いてるとは言えなかったが。
だんだんとそれが表れていく。
泣いて、叫んで、落ち込んで。
それらが何度も繰り返される。
そして唐突に考えや思いを口にしていく。
下手くそな哲学表現のように。
そんな事をくり返したその最後。
生命維持装置の限界が近い事を察したのか、落ち着いた調子で喋り始める。
「できる限りバカをやってみたけど、なかなか難しい。
やるのも結構疲れる。
でもまあ、最後はやっぱり言いたい事を言っておきたい。
たぶん、無視されるけど」
そう言って彼は本音を語り始める。
「なんでこんな所で死ななきゃなんないんだよ。
戦って生き残ったのに」
そこから彼の本音が始まった。
「生き残ったのに死ぬしか無い。
ふざけんな。
何のために必死に戦ったんだ」
その通りだろう。
助からない状況に陥るために生き残ったのではない。
「これなら適当に戦ってれば良かった。
そうすりゃ、楽に死ねたからな」
なまじ考える余裕があるから、余計な事を考える。
いっそ戦闘中に死んでしまえば、迷いも悩みもなく死ねただろう。
「なんで生き残ったのにこうなるんだ」
戦って生き残って、そして死ぬしかない。
そうなれば誰だってそう言うだろう。
「こんな事の為に戦ったのかよ」
彼にはそう言う資格と権利がある。
「まあ、もう終わった事だ。
もうどうにもなんねえ。
俺は死ぬ。
死ぬしかない」
実際そうなった。
彼が発見されたのは死後だ。
「だから言っておくよ」
「ふざけんな!
戦うだけ戦わせて、それで終わりかよ!
生き残っても死ぬしかねえ。
こんなクソッタレな事あるかよ!」
そこからは溜まった憤りがぶちまけられていった。
「こんな戦争させる軍部も。
お偉いさんも。
全員くたばれ!」
まともな戦争が出来てないのはたしかだった。
少なくとも、場当たり的に戦力を当てている。
計画性も何もあったものではない。
例えそれが、戦線を維持する為だとしてもだ。
そもそも、その戦線に意味があるのかどうかすらも考えてない。
「切り取った場所を守るためだけに、こんな所に放りこみやがって!
この場所が必要ねえくらい俺たちにだって分かってるぞ。
それなのに無駄に戦力を投入しやがって」
整理縮小が戦線もある。
必要ないのに奪った場所もある。
そうした理由は一つしかない。
「てめえら上層部の派閥争いで、こんな意味の無い戦いをさせるな!」
それが理由だ。
戦果をあげるために、やる必要の無い戦いが行われていた。
そして、取る必要の無い場所を確保し続けるために戦力が投入される。
その兵力を別の場所に集中させれば、戦争はもっと有利に進むのに。
「さっさと負けちまえ。
負けてお前らが敵に殺されろ。
こんな国、潰れた方がマシだ」
実際、潰れた方がいいだろう。
勝つためではなく、幹部の利益のために行われてる戦争なのだ。
そんな戦争をしてる上層部はさっさと死ぬべきである。
「どうせ、この記録を見てるお前も、これを握りつぶすだろう。
無かった事にするだろう。
なら、それでかまわねえ。
反省もしないでそのまま負けに突っ走れ」
せめてこの声を少しでもすくい上げる気があるなら、やり直す機会もあるかもしれない。
だが、そんな事は決してない。
反省とは無縁なのが上層部なのだから。
「あの世があるならそこから見てるぞ。
お前らが敵に潰されるのを。
万歳、ルジャール共和国!」
それは戦ってる敵国である。
その敵を彼は称えていた。
そして最後に彼は叫ぶ。
あらゆる感情をこめて。
心からの本音を。
「くたばれ、日本国!」
この後、操縦士は動きを止めた。
生命維持装置の限界が来たのだろう。
最後はせめて苦しまないように死ねるよう、生命維持装置を調整してあったようだ。
操縦士はそのまま眠るように動かなくなっていった。
遺書とも言えるこの映像は、操縦士の言うとおりに握りつぶされた。
どこにも報告されることなく、誰にも公開される事無く消された。
当然、そんな日本国がまともな戦争をする事などあるわけもなく。
かつての第二次世界大戦の時と同じように、自らの愚行によって潰れていった。
宇宙の彼方からやってきた敵、ルジャール帝国はそんな日本に何の同情もしなかった。
存続させて利用する事もなかった。
日本が手にしていた領土の星を全て奪い、その資源を我が物としていった。
本国から多数の入植者を移住させて。
こうして日本という国は、その存在を消していった。
地球本国に残るわずかな者達を残して。
宇宙の領土を失った日本が衰退していったのは言うまでもない。
この侵略者に対して、地球各国は当然事ながら対抗。
何とかその侵略を阻んだ。
だが、無理に無茶を重ねて敗北し、敵に付けいる隙を与えた日本への糾弾は激しくなった。
馬鹿げた戦い方をしなければ、もう少し有利に戦えたのにと。
そんな日本に手を差し伸べる者はどこにもいない。
戦後の日本はそれ以前よりも更に厳しい状況に置かれた。
世界最下層の最貧国に落ちぶれ、僅かな人口だけを養うだけの国になった。
全ては自業自得としか言いようがない。
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