お部屋で2人きり
3人の囚われの少女達を、職員に引き渡してサラに導かれるまま、お部屋について行く。お部屋の中で2人きり。
なにかを期待して部屋に入った愚かな彼は、後悔する。さっきまでの甘い雰囲気は、無い。
通されたのは、応接室。
長い4人掛けのソファーが向かい合って2つあり、その中央には、低いテーブル。
部屋に入って、ソファーに向かい合って座った。先程までの甘い空気が無い真剣な顔に変わったサラの質問に対し、手紙と鍵を受け取った経緯を話す。
『そう。見つけたのね。届けてくれてありがとう。きっとダグラスも悔いは無いわ』
「後悔?」
鎮痛な重い空気になる。
回答の代わりに、その場を支配するのは、受付嬢サラのカサカサと手紙のページを捲る音だけ。
受付嬢にとって冒険者という観客のいないこの場所は、言うなれば、演劇の舞台裏。主演女優は、余裕という化粧を落とし、目の前には、自然体の弱さを見せる彼女がいる。そこにいるのは、年相応の女性。悲痛な顔が、ただただ、美しい。視線を手紙から外さず、静かに語りだす。
『新しい自分になるという高額な偽薬の噂は、知っている?』
「いえ、」
『カレには妹さんがいたの。少し身体の弱い。血も繋がってないし、もう結婚しちゃえっていうぐらい可愛いがってた娘さん。魔がさす事ってあるじゃない?使っちゃったの、その娘、それを』
「どう、なったんですか?」
『化け物になって死んだわ。カレは、許せなかったの。この薬は、莫大なお金が動いてる。だからきっと裏には勇者がいる。覚悟は出来ていたはずよ』
「覚悟?」
『鍵は、多分。ぼくへの運賃ね。手紙にないから。念のため全てが終わるまでは預からせてちょうだい。』
答え辛いのか、会話を変えてきた。
重苦しく静かな時間が流れる。
ゴンゴン
と、荒く応接室をノックする音、
『どうぞ、』
ギルドマスターのエッケンハイムが、怒りに燃えた顔で入ってきた。入るやいなや、
『ダグラスが殺されたぞ!』
「え!?」
『そう。早かったわね。』
驚くハヤトと違い、まるで知っていたという反応のサラ。
『カレは仕事を成したわ。』
サラの健康的な手から、手紙を受け取り、ぐっと拳を握りしめるギルドマスター
『そうか、責任をもって焼き尽くしてやる!その炎を手向けとする。』
『ところで、君は何でそこにいるんだ?』
「?」
ハヤトに気付いて、困惑するギルマス。
ギルマスの頼りになる決意表明に、普段の余裕を取り戻した彼女は、やれやれと言った態度で、こう言った。
『ヘマしたの。お馬鹿さんだから』
『あー、ギルドで匿うか?』
『手紙を知らずに運んだだけだから、見逃して貰えるかも。まだ様子見ね。』
『ダグラスにしては、抜けてたな。まぁ、いい。怪しい影を見たら、ギルドで匿うから遠慮せず、来い。』
「あ、はい。」
『お姉さんの部屋も空いてるわよ。ぼくぅ?』
「か、考えておきます。」
((雌狐が!))
ローズも調子が出てきたようだ。抜けていたのは、ダグラスではなく、このヒョロい青年ハヤト。
応接室を出て、戻ると
3人組の少女達と、付き添いの人達がいた。皆、一様に感謝の目でこちらを見てくる。その瞳には尊敬の気持ちが混じる。英雄、まるで絵本の勇者を見るような憧憬の瞳。
『あっ出てきた。』『もう帰る』『キャハハ』
親子さんと一緒に待っていてくれたらしい。
「良かったね。お母さんに会えて」
『ほんと、この度は、娘がどうもお世話になり、ありがとうございます。是非、宜しければ食事でも』×3
『来て来て』『約束ー』『絶対だよ』
「では、お言葉に甘えて」
これで飯代が浮く。いや他にも目的があるし、これは有り難い提案だった。
約束をして、見送る。
『バイバイ』『またね』『キャハハ』
あぁ良かった。
終わった。と安堵した。
偽薬の製造工場を焼却破壊するため、ギルドは最優先の忙しい仕事モードへと切り替わる。
なにか出来る事は?と聞いたが、この仕事には、安全のためハヤトは参加を認めないとクギを刺された。
少ししょんぼりした顔で、ギルドを出ようとする青年。
『良くやったなハヤト!』
力強くそして優しく、肩を掴まれた。
「あー、ゼオン。」
『しょぼしょぼすんな。代わりに皆で暴れてくるぜ!ダグラスのおっちゃんには昔、世話になったからな』
「頼むよ。」
『それと今回の件で狙われるかもしれない。その時は、頼ってくれ』
「ありがとう。」
拳と拳をガツンと合わせて、帰路につく。
随分と情報の広がり方が早いようだ。ツイッターよろしくお喋りな人がいるらしい。侮れない。
久しぶりの我が家、娘娘亭に帰ってきた。
1階の飯屋から、食欲をそそるいい香りが、ハラを刺激する。




