フォレストマッシュ
ここは囚われの少女、エドナの村。
フォレストマッシュ。湿度が高く森林のマイナスイオンを全身で感じる。
足元は、苔が生えており、普通の村とは趣きが異なる。
『こっちーこっちー』
手を引かれるまま家に向かう。
離れの一軒家。歴史のある佇まいの家につくと、ノックも何もせず、に扉を開けた。
『ただいまー』
びっくりして固まる老婆がそこにいた。元気なく憔悴しきった顔がある。老婆は、ゆっくりと目を見開き驚愕した顔で震えながら、エドナを見つめる。
『エドナ!エドナなのかい!良かった、良かったねぇ。』
『うん。ばあば。お兄さんが助けてくれたのー』
『おぉ、有難う。有難う。』
その枯れ木のような身体に元気が宿り、最初に見えた悲壮感は無い。そこにあるのは、孫の生還を心から喜び涙する、しわくちゃの笑顔。
『すっごい強いんだよー』
『おや、そうなのかい?まぁヒョロいのに凄いんだねぇ』
元気が出過ぎたのか、失礼な事を言ってくる。
『すっごい強いんだよーっ』
『あぁそうかい。ごめんね。そうだね。』
エドナが代わりに怒ってくれた。
「無事にお連れ出来て良かったです」
『ありがとう。ほんとに何て言ってよいやら、今日はぜひ泊まっていってくだされ』
聞きたい話もあるので、好意に甘える。
「お言葉に甘えて」
『ご飯はもう食べたかい?』
「いえ、」
『たいした物は出せないけど、良かったら』
かなり広めの部屋に通され少女達と、少し待ってると女中さんが、食事を運んできた。それなりに裕福な家のようだ。両親は今日は不在らしい。
運ばれてきた鍋は、とてもいい薫りがし、食欲をそそられる。一緒に来た少女のハラが鳴る。
『はよぉ、遠慮せず、食べなせって』
『はーい』
しかし、この鍋は美味い!肉も入っているが、キノコが格段に美味いのだ。薫りが素晴らしい!松茸とは全然違うが、それと同等の存在感がある薫り。
「しかし美味しいな、このキノコ」
『美味しーでしょ!』
『おや、良かった。お気に召したかい天上の雲茸は』
「ぶほっ!」
探しに来たレア茸を食べていた。美食家が、わざわざ依頼するレア茸を。思わずハヤトは、吹いた。
『大丈夫かい。まだあるから、そんなに慌てて食べなくても』
「ゴホッ、失礼。実は先程まで、この茸を探してたので」
『カンデラ平原に?』
「魔の谷はどうでしょう」
『魔の谷はキノコ1本、生えやしないよ』
老婆の言葉に驚愕する。思い起こせば、魔の谷で1本もキノコは見ていない。レアさを求めるあまりに失策。
「採りに行きたいのですが」
『入山規制が厳しくてねぇ』
どうやら駄目らしい。
まぁ違約金0の理由が分かった。
その日は、濡れたタオルで体を拭き、ふかふかの高級感溢れるお布団で眠りについた。
翌朝、お礼ですと少女達の着替えと達成金とキノコを貰う。
そのキノコの名は、
[天上の雲茸]get!
くれるのかよっ!
この瞬間、天空山には行く理由が無くなった。山を見上げると、空高く雲に覆われたその頂上は、視認できない。
また来ようとハヤトは心に誓う。
「さて、フォルディア王国へ帰ろう。」
『あふっ』『はい』『きゃはは』
早朝の朝霧を抜け、
ドガガッ
と座面を揺らして帰途に着く。
早く、クッションを手に入れたい。
何故か分からないが、お尻にスキル無効のダメージが入るこの魔浪の馬車が、ハヤトは嫌いだ。
フォルディア王国の前にはカンデラ平原がある。つまり通過点な訳であるが、そのカンデラ平原にうずくまる影。
そこに顔色の悪い男がいた。
男の名前はダグラス。
1週間前に、[偽薬の生産地調査]という絶対に受けてはいけない赤札な仕事を、正義感と復讐心に燃えて受けた。
そしてその場所を特定したが、ヘマをしてしまい犯罪組織に顔を見られて追われている。ついでに言うなら猛毒矢を受けて、もうその命は切れかかっている。
『探セ』『そんなに遠くに逃げてないゾ』『逃がすナ』
鼠族の風貌の悪い犯罪者が、あちこちをウロウロしている。
『くそっ!あと少しなのに。依頼を受ける時に死は覚悟したが。これじゃあんまりだ。』
男は、草むらにうずくまる。
ドガガッ
ハヤトは魔浪の馬車を操る。
「鼠族多くないか?」
((なにか探してるみたいね))
そして、見なくていいものに気付く。
「ん?あの草むら、何か動いような」
((人みたいね。ほっときましょう))
「いや、怪我してるかも」
((はぁ、お人好しね))
「大丈夫ですか?」
びくっと震える顔色の悪い男。ハヤトを見て怯えから安堵の表情に変わる。
「顔色が!」
男は薬を飲んだ。良くなる顔色。受けた猛毒矢は対抗薬が無いので、数分間だけ、力が湧く気付け薬を飲んだ事にハヤトは気付かない。
『ありがとう。薬を飲んだから、問題ない。会ったばかりなんだが、困ってる』
「どうしました?」
『オレはココで用事があるが、急ぎでギルドに届けなきゃいけない手紙がある』
「ついでだから、届けますよ」
手紙と鍵を渡してきたので、受け取る。
『ありがとう、ダグラスだ』
「ハヤトです。良く分からないけど、お大事に」
ドガガッ
と走る去る姿を見つめながら
『その鍵は礼金代わりだ。ハヤトありがとう。冥土に来たら酒を奢るぜ』
男はふらふらと死に場所を探して、歩きだし倒れた。土気色の顔には、僅かな充実感がみえる。
ハヤトは、お人好しゆえに無自覚で、ダメージ0!を手にいれて危機感知が鈍り、危険を回避できなかった。
とっておきの厄ネタを手に入れて、帰還したのだった。




