第九話
お久しぶりです
今回は少し短いと思います(そうでもないかな?)
最近、タイトル詐欺になりつつある気がする…
「迷いの竹林」
『永夜異変』の首謀者が住む『永遠亭』を囲む竹林。
中に入った者を迷わせ、出られなくする。現在、医療施設になっている永遠亭に行くにはこの竹林を通らねばならない。『迷いの竹林』を通り抜ける方法は二つ
一つは〈紅の自警隊〉藤原 妹紅に案内を頼むこと、こちらの方法はお金こそかかるものの一番確実かつ安全な方法である。
もう一つは〈幸運の素兎〉因幡てゐに頼る方法である。こちらは完全に運に頼ることになる。さらに彼女の性格上まともに案内をされない可能性もある為、あまりお勧めはできない。
この竹林がどうして人を迷わせるのかは、ハッキリした事は分かっていない。
一説には何かしらの結界が張られているのではないか。と言われている。
竹林内で時々爆発音がする時がある。そういった時に竹林に近づく事は危険である。何故なら藤原 妹紅と〈永遠のお姫様〉蓬莱山 輝夜が殺し合いをしているからである。
この時には殺傷能力の高い弾幕を使っているため、流れ弾に当たればひとたまりもない。
さらに『迷いの竹林』は人だけではなく妖怪も迷わせることができる。我々人里の住人は気軽に立ち寄れるような場所ではないことをハッキリと明記しておく。
稗田 阿求著『幻想郷縁起』より
「ハァ…ハァ…ハァ…!」
やぁ、皆さん南方 葉月だよ。初っ端から暑苦しくてすまない。今、小脇に幼女を抱えた状態で全力疾走してるもんだから…
へ?誘拐?犯罪?違う違う!全力で逃げてるんだよ。アレから。
「gyaaaaaaaaaaaa!!」
なんか名状しがたき化け物から。
〜数分前〜
久々に筍が食べたくなったので、迷いの竹林に筍狩りに来た。
のは良いが、道に迷った。
流石「迷い」とつくだけある。景色は竹一色で変わらないがさっきから同じところをぐるぐる周っている気がする。
藤原さんに案内を頼んだ方が良かったかなぁ。でもあの人、人里にいつ来るかわかんないしなぁ。
背中の籠いっぱいに筍を収穫できたので、後はここから無事に帰れればそれで良い。
とにかく歩けば何処かに着くだろうとひたすら歩く。
偶々ひらけた場所に出れた。そこでしゃがみながら何かをしている幼女。アレは…イナバか。イナバは籠を横に置いて草むしりをしている。
助かった…イナバは因幡 てゐの部下?仲間?だからこの子に案内を頼めば出られる。
「ねぇねぇ、ちょっと良いかな?」
声をかけると、草むしりを止めてこちらを向く。相変わらず他のイナバと見分けがつかん。前も一度助けてもらったことがあるけどその子かな?
「前に一度会ったことある?」
「…………。」
表情を変えず、顔を横に振る。どうやら別のイナバみたいだ。
「まぁ良いか。実は迷っちゃってさ。外まで案内してくれないかな?」
「…………。」
コクリと一度頷くと、横の籠を背負って立ち上がる。中には、さっき毟っていた草と同じようなものが入っていた。
見たことないけど、薬草の類だろうか。今度調べよう。
そうして、案内してもらおうと後ろについていった時だった。
何やら遠くの方で、バキバキと竹を砕くような音がした。どうも後ろの方から音がするようなので気になって振り向いた。振り向いてしまった。
そして、そいつと目があってしまった。
熊ぐらいの大きさ。本来顔があるべき場所には大きな目玉が一つ。四足歩行で全身が触手で覆われている。しかもその触手が意思を持ってヌルヌル動いている。裂けたような口からは鋭い歯が覗きヨダレが垂れていて、あきらかに腹ペコの猛獣。読んだことはないが話は聞いたことがあるクトゥルフ神話の邪神のような…いや、邪神だった。
SAN値チェックしなきゃ、なんて思う余裕もなく僕は今まで一番、迅速に過去最高に素早く行動した。
本来の目的である筍が詰まった重い籠を捨て、前にいたイナバを脇に抱えて全速力で逃げた。いや、san値チェックするくらい余裕を持った方が良かったのかもしれない。
あまりに焦った僕は、猛獣とあった時の基本を忘れていた。目を逸らさず、ゆっくり後ろに下がることをしなかった。
いや、前言撤回。やっぱり走って正解だった。だって僕が走りだすより一歩早くその化け物は動いていたのだから。
「GuGyaaaaaaaaaaaaaaa!」
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
〜現在〜
「ウはははははっ!ヤッベェ!マジヤッベェ!」
アドレナリン全開だからか、こんな状況なのに笑いが止まらない。
第三者から見たら完全におかしな奴だが、そんなこと気にする余裕もない。あるわけがない。
とにかくどうにかしないと、アレより先に体力が尽きる事は分かりきった事実だ。幸いここは迷いの竹林、どれだけ走り回っても人里に行くことはないだろう。
走っているせいでロクに考えることも出来ない。ていう言うか、考え事しながら走ったら間違いなく死ぬ。
「クッソ!つーかテメェ仮にも妖怪なんだから弾幕とかで応戦出来ないのかよ!?」
小脇で大人しく運ばれているイナバに毒づく。ホントに、頼りになるとしたらコイツしかいない。
表情はいっさい変わらず、しかしもぞもぞと動き始めた。良かった、応戦してくれるなら多少の時間が稼げるだろう。
(ぷぅ〜ぶっ)
「…………。」
「……………。」
「Gaaaaaaaaaaaa!!」
イナバが出したのは弾幕ではなくガス。腸内で発酵し、生理現象としてお尻から出すもの。一般的には屁、おならとも言う。
とりあえず頭にゲンコツを落としておいた。
使えない。もしかしたら僕の能力クラスに使えない。こうなったら奇跡的に永遠亭に辿り着くことを祈るしかない。
そう思って適当に針路を右に変えた直後、突如地面が消えた。
端的に言えば落とし穴に落ちた。
「(コキャッ!)っ〜〜〜〜!!!!」
突然のことに身体がついていかず、着地に失敗した。その所為で、右足から小気味良い音と嫌な感触が走る。
「GaaaaGyoooaaaa………!」
落とし穴にはまったことで化け物から逃げる事はできたようだ。助かった…
かわりに足捻ったけど。
いや、これ折れてるだろ。右足首が右に九十度曲がってるんだけど。まだ痛みは鈍いけどこれアドレナリンの所為でジワジワ痛くなる奴だよ、絶対。
まぁ何はともかく命は助かったわけだ。それで良しとしよう。
後はここで助けが来るのを待てば良い。
…待てばいいんだけど、十中八九誰も通らないだろうなぁ。人里の住人でここに一人で来るような物好きは僕くらいだ。
穴の壁に手をつきながら、どうにか片足で立つ。落とし穴は大体二メートルくらい、手はギリギリ届くけどこの足で登るのは難しい。
イナバを出して、助けを呼んでもらった方が確実だな。
まだ痛むのか、頭を抑えて蹲ったままのイナバに話しかける。
「ごめんね。叩いたことは謝るから、僕の代わりに永遠亭から人を呼んできてくれるかい?後で美味しいものあげるからさ。」
『美味しいもの』と言う単語で痛みが吹っ飛んだのか、イナバは目をキラキラさせながらコクコク頷いた。
ふむ、やはりこの手に限る。
「良し、頼んだぞ。」
穴から出すが早いかイナバは走っていった。
あーあ、結局筍は食えないし、足首は折るし、散々だなぁ…。
今度妖怪の山で厄祓いでもしてもらうべきかな。