第八話
長らくお待たせしました!
今回は珍しくシリアスっぽくなってます。無理やり感が半端じゃないですが。
まぁこれっきりにするつもりなので許してください。
それではどうぞ
『日常』
いい言葉だと思う。変わりない、当たり障りない、何も無い、いつも通りの生活を指す言葉だ。
変化を求める人の方が多いのだろうけど、僕は変化のない生活が一番素晴らしいと思う。
確かに、普段の生活に刺激がある方が良いのかも知れない。その方が楽しいことも大いに賛成できる。
が、ここは非常識が常識な幻想郷。刺激なら十分足りている。
例えば、吸血鬼の姉妹が遊びに来るだとか。
例えば、博麗の巫女が飯をたかりに来るだとか。
例えば、白黒魔法使いが障子をぶち破って突入して来るだとか。
…思い出したら腹が立ってきたな。
まぁ、そんなことが日常的に起こるのが此処だ。
そんな、刺激的な日々なのだからこれ以上を求めるような奴は性癖に問題が…いや、何でもない。
何が言いたいかと言うと、
「ごめんなさい…こんな…ご飯まで頂いてしまって…」
「ああ、いいよ、いいよ。気にしないで。」
…まさか、女の子が落ちて来るとは思わなんだ。
その日はちょうど、農薬を作ろうとしていた。某アイドル達が使っていた『無農薬農薬』と言う奴だ。
普段からお世話になっている。て言うかコレ特許取るべきだね。すげぇ便利。
しかし昨日、虫の駆除をしていたらきれてしまい、ストック分も使い切っていたので補充することにしたのだ。
こんな時の為に様々なとこからお茶殼を譲っておいてもらった。
他に使う物は焼酎、牛乳、ニラ、生姜、鷹の爪、ニンニク等とにかく匂いのキツくて、辛いもの。
今回は前使ったブート・ジョロキアも残ってるので一緒に入れてしまおう。
除虫剤じゃなくて除妖剤になりそうだけど。今度人里で売ってみようかな。
部屋の中で作ったら大変な事になるので、外で作る。材料を細かく刻み、茶殻を入れ、牛乳と少しの水で煮込む。
グツグツ煮込むと、もの凄い匂いが漂ってきたので火を止めて、少し冷まして焼酎を入れる。後は布で濾したら容器に入れて終わり。
間違って飲んでも死ぬことはない農薬の完成だ。死にたいと思うぐらい苦しむけど。
材料が違ったり、作業行程が違うかもしれないがうろ覚えの記憶で始めた事だから許してほしい。
効果はちゃんとあるしね。
「あ〜、手が臭い。早く洗わないと。」
手洗い用に用意しといたバケツで手を洗う。
そういえば、宴会で見つけたあの黒い毛玉はどうなったんだろう。紫さんが心当たりがあるっていってたけど。
「きゃっ!」
後ろでドスンっと音と悲鳴がした。また、紫さんがイタズラでもしたのかな、と思って振り向くと金髪の女の子が腰のあたりを触りながら悶えていた。
紫さ…ん、じゃないな。
「大丈夫?」
「イタタ…あ、はい。大丈夫です。……あの、此処はどこでしょうか?」
女の子はキョロキョロと周りを見渡す。顔が紫さんにそっくりだ。胡散臭さは全くないけど。
外来人っぽいし、一旦家にあげちゃおうか。
「此処は幻想郷。立ち話もなんだし、ウチで休まない?」
「いえ…そんな、悪いでs (ギュールル)…。」
「…一応、お店やってるんだけど、なんか作ろうか?」
女の子は顔を真っ赤にしながらコクリと頷いた。
いや、待てよ。初対面の人を家の中に誘うってアウトじゃね?ってなると…縁側で待っててもらうか。今日は天気も良いし。
「よし、じゃ付いてきて。」
「はぁ〜、不思議な場所ですね。」
パパッと作った鮭のホイル焼きを美味しそうに完食した後、縁側でお茶を飲みながら幻想郷について大雑把に説明した。この子、凄く礼儀正しい。自分に娘が出来るのならこんな子が良い。結婚する予定も相手も無いけど。
「まぁ、信じられないかもしれないけど。どうする?帰ろうと思えば帰れるけど。」
もし帰るとしたら、記憶は残らない。紫さん曰く、本人の中では夢だった事になるとか。
「帰れるんですか!?」
「知り合いの巫女に頼めば直ぐに帰れるよ。一応残るって選択もあるけどね。」
少し、悩んだような顔をした後、女の子ははっきりと言った。
「帰りたいです。元の場所には友達も家族もいますから。」
「よし、じゃぁ「あ!店長さん。その前に一つだけ。」何?」
「さっきの鮭の作り方、教えて貰えますか?美味しかったので、帰ってから作りたいんです。」
「……。」
紫さんの言葉を信じるなら、此処での記憶はなかった事になる。あんな風に美味しく食べてもらったし、個人的には教えてあげたい。
けど、結局記憶に残らないんじゃぁ教えても意味がない。だけど…
だけど、カタチに残るものなら持って帰る事が出来るはずだ。それなら記憶になくても大丈夫だし、それぐらいなら幻想郷の管理者である紫さんも目をつぶってくれるだろう。多分…恐らく…きっと。
「良いよ。レシピ、メモにして渡すからちょっと待って。」
「!…ありがとうございます!」
メモ用紙を取りに一度、店の中に戻る。
そこにはいつのまにか紫さんが来て、カウンター席に座っていた。
「あの毛玉について、分かったから教えに来たのだけど。取り込み中だったみたいね。」
「いつから来てたんですか?」
「あの子が、此処についた時…ぐらいかしら?」
「最初からじゃないですか…。」
扇子で口元を隠しながらクスクスと笑う紫さん。相変わらずな人だなぁ。
「それより、急いだ方がいいと思うわ。」
「…へ?」
「彼女。もうすぐ元の場所に帰っちゃうから。」
「え!?…え?え?」
「説明は後で詳しくするから、今は急ぐ事をお勧めするわね。」
なんだかよく分からないが、紫さんがそう言うのならそうなのだろう。
とにかく急いで、鮭のホイル焼きのレシピを書き、走って縁側まで戻る。
すると、例の女の子は体から粒子の様なものを出しながら、少しずつ薄くなっていた。
「あの!店長さん!これは…」
「僕も詳しくは知らないけど、君は帰るしか選択肢がないみたいだ。ハイ、これ。」
「あ、ありがとうございます…。」
戸惑った顔をしながら、メモを受け取り、ポケットの中にしまう。
良かった、間に合ったみたいだ。
女の子の体はどんどん薄くなっていく。最後の別れの言葉でも言おうと思って、口を開けた時。
「あの!」
彼女は僕の目をまっすぐ見て言った。
「短い間でしたけど、ありがとうございました!もし、また会うことができたら、料理を教えてください!」
今時、こんな真っ直ぐにお礼を言える子も珍しい。驚いてしまって、少し固まってしまった。
こんな事思うなんて、もうだいぶおっさんに近づいたかな。そんな自分に苦笑しながら口を開く。
「勿論。今度はちゃんとした料理もご馳走するよ。」
僕の言葉に何か返そうとしたのだろうけど、その時には女の子は完全に消えていた。
そう言えば、お互い名前を聞いていなかった。双子と言われても違和感がない程、紫さんと似ていたから、もしかして八雲さんとかだったのだろうか。
ブワンっと、隣でスキマが開いて紫さんが出てくる。
「さっきの子、紫さんの親戚か何かですか?」
「違うわ。妖怪に親戚なんているわけないでしょう。けど、それに近い存在ね。まぁ、ほぼ私だと言っても良いでしょう。」
「…?どういうことです?」
「彼女はいわゆる、平行世界での私。妖怪として生まれなかった場合の私よ。勿論、名前も違うわけだけど。一応私である事は間違いないわ。」
「平行世界?なんでまたそんな所から…?」
「実は今、博麗大結界のあちこちが痛んできていてね。なるべく早く見つけて直してはいるのだけど、どうしても間に合わないとこがあるの。更に、大結界はこの場所を隔離する為にこの世界から此処を少しだけずらしている。つまり此処は世界から少しだけ外れた場所にあるの。その結果、綻びた所が別の世界。いわゆるパラレルワールドに繋がって近くに居た物や人を連れて来ちゃうの。」
「今回はそれが、たまたまあの子だったと。」
「そう、今回はマシな方よ。もう少し穴が大きければ別世界の幻想郷の住人が迷い込んでくる可能性もあるのだから。」
「そうなると…博麗が二人になるとか…白黒が二人いるとか。…大パニックですね。」
「それだけじゃないわ。強力な能力者が迷い込んで来て、最悪ここが消滅。なんて事もあり得るんだから。けど困った事に結界が痛んでいる原因が分からないのよねぇ。後数百年は持つはずなのだけど…」
珍しく、非常に珍しく、紫さんが困った様な顔をしながら溜息を吐いた。
随分と規模の大きい話になってきたなぁ。
「まぁそれはコッチでなんとかする話だから葉月君は気にしなくて良いわ。」
流石は、管理者。頼もしい事を言ってくれる。これで藍さんに仕事を押し付けなければ、なお良いんだけどなぁ。
毎回愚痴聞くのは僕なんだけど。
ハァと大きく溜息を吐く。此処はほんとに日々の刺激に事欠かない、飽きない場所である。
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「それで、紫さん。本題は?」
「そうそう、喜びなさい葉月君。戦力アップよ。」
「ほえ?」
「調べて分かったのだけど…」
「…嘘やん。」




