序章・第7話『英雄屠り(ヒーロー・ディフィーター)肆』
骨格標本「やっとか」
人体模型「やったな」
骨格標本「で、何が?」
人体模型「……はぁ」
ちみっ球①『マッタクダナ』
ちみっ球②『ダナー』
骨標・人模「「!?」」
ちみっ球①・②『『www』』
瞳に映る、一振りの刃。
眼前に映るそれは、光を失っているものの、尚禍々しさと猛々しさを兼ね揃えた究極の両手剣だった。
「お前さん、この剣を知っているのか?」
「知っているも何も……トリード家一族の宝剣にして『戦女神流天剣術』継承者に託される剣…そして今、俺が最も必要としている生前の“愛剣”だ!」
「“愛剣”じゃと!? トリード家の呪われた宝剣だとは聞かされていただけだが…お主よ…蓋を開けてみれば実はとんでもない奴じゃったとは…」
彼女としては驚愕の事実である。
「おいこら、人をビックリ箱かミミックだと思いやがって」
「…御免なさい…………あう…」
『ホネー、カワイコチャンガオビエテルゾー』
『ナカスナンテ…オマ、オンナノテキ!』
「おいこらちみっ球、そこになおれ! シバき倒してやる!」
『キャー、ヨウセイイジメー! オニ! アクマー!』
「『ポイント・ジョグレッサー』」
右腕を肘から向こうを切り離し、近くに居たちみっ球をむんずと掴む。
『イヤン、GMこーるモトム』
何をふざけた事を…等と思っていたが、これ以上は時間の無駄だと、掴んでいたちみっ球をぼいっと投げて大地に深々と刺さった剣の前に立つ。
……待たせたな、相棒。
そして俺は…目の前にある獲物を迷う事無く、ためらく事もせずに勢いよく引き抜いた。
『汝ガ所有者、ソノ資格ヲ改メテ見セヨ』
すると、低く唸る様な声が響いたかと思うと、金属?で出来た人型の巨大モンスターが俺の前に立ちはだかった。
「人型守護鉄人。 しかも聖魔鉄鋼と聖魔銀鋼の混合鋼…更に青生生魂で造られた魔導心臓まで備えておる」
「おいおい…前に受けた時は聖魔鉄鋼だけだった筈だが…参ったな、昔よりグレードアップしてやがる」
(また面倒な…)
怨むぜ、御子孫さんよ。
『受ける舞台は既に整った。 汝が命により、試練を快く受け入れよう』
何時も、とは違う妙に神聖さを纏った声が、俺の口から共鳴するかのように、雷鳴の如く轟き響いた。
『汝ガ“未来”ヲ証明セヨ!』
そう言い終わらない内に魔改造され、グレードアップした鉄巨人…もとい人型守護鉄人の拳が地面に突き刺さった。
「いきなり拳は無いだろうが」
『“証明ノ儀”ハ既ニ始マッテイル』
ただの鉄塊風情が、御託を並べるなってぇの!
既に鉄巨人の股下まで移動し、走りながら剣を構える。
「戦女神流・基の型…さ――――」
『龍撃槍…迎撃準備』
「…は?」
言い切る前に、鉄巨人の両大腿部から無数の、鋭く尖ったどでかい針の様な凶器が、現れた。
ぞわり。
「や…べぇ!!」
『一斉発射』
咄嗟に霊子結界を張ったお陰で、何とか受け流せたものの、正直マズい状況だ。
――――少しでも気を抜いたら、殺される。
理性でさえも、警鐘を鳴らす。
対応が“速”すぎる。
例えるなら…そう、『早さも真っ青』な程に。
(チキショーめ…“氣力”が全く使い物にならねぇ!!)
悪態を吐きながら、対策を練る。
(抗魔力に聖魔鉄鋼に聖魔銀鋼の合成鋼は解る。 けどなんで“氣力”が使えねぇんだ!?)
その原因が今一度理解できない。
何故だ、何故!?
前回とは大幅に変更された鉄巨人の攻撃を避け、受け止め、流す。
正直キツい。
何とか霊力で対抗出来ているが、それも何時切れるかもわからない。
(あれが現れた途端、感じた違和感…)
焦る中、一瞬幼女の済ました顔と共に台詞がフラッシュバックする。
(闘う前…あいつは何て言った…?)
『人型守護鉄人。 しかも聖魔鉄鋼と聖魔銀鋼の混合鋼…更に――――――――――――まで備えておる』
「何て言った…? ア…ア…ア……」
「青生生魂じゃ」
ああ、そうだ。
そう言えばそんな事を言っていた様な気が……気が…?
「何を呆けておる。 攻撃を受け流さんかい」
「『霊子結界』!」
斜めに展開された結界の薄い壁に龍撃槍とかいうトンデモ凶器が、阻まれて地面に次々と突き刺さっていく。
肩に何かが乗っかっている感触が、今になって感じてきたので、感じた方…左肩に視線を向けると、掌サイズ且つ可愛らしくPOPにマスコット化された生前の自分の姿があった。
「んな!?」
「お前…」
「ほれ、よそ見するでない」
「へ? って、うおぉい!?」
鉄巨人に視線を戻すと、巨大な拳がまさに目前に迫っていた。
咄嗟に避けられたお陰で直撃を免れたが、衝撃波で吹き飛び、岩壁に直撃する。
「げほっ…ああ、クソ」
「来るぞ」
妙ちくりんな奴の指示で上空へと逃げる。
小規模の霊子結界を足場代わりに展開し移動する。
「霊子の流れに乗って移動せい」
「だあぁ! わーった、もうこうなりゃヤケクソだ」
昔、魔力の流れを視覚化する修行を余儀なくされた光景を思い出し、同じ様に霊力を肉体全体に循環させて隅々まで行き渡らせる。
(流れ…流れ…激流の波)
「“霊流歩行術”…ふぎゃ!?」
確かに視えたんだが、直後落ちてた龍撃槍を踏ん付け情みっともなく、びたーんというコミカルな音を立てて顔面からずっこけた。
「あ痛たたた…」
幸い額と鼻に直撃コースお陰で、初めてを死守出来たのは良かった良かった。
『ガトリング・フィスト…GOoooooooooooooooooooooaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』
「え…ちょ…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
が、そんな様子を悠長に待ってる鉄巨人ではない。
追撃とばかりに拳の凶悪な雨を、隕石の如く降らせてきたのだ。
魔法の弾幕を喰らうよりも凄まじい勢いで、だ。
勿論、喰らう訳にはいかない。
霊子の流れに乗りながら、滑走して不器用に避ける。
「ふむ…不器用な癖に、意外と器用な事をするのぅ」
「おいこら。 何を人の肩でまったりしてんだ! 鬱陶しい! 消えろっ、今すぐにだぁぁ!」
「お喋りしている暇があるなら、避けるのに専念した方が良いぞ? ほれ、左側面からの追撃が来るぞい」
「う・る・せ・ぇ!!」
言われるがまま、俺はスピードを落とさずに横にずれて器用に直角に避ける。
あああああああ、ド畜生が。
解決策が思い付かない。
一体どうすりゃ良いんだよ!?
●●●
「えっと…大丈夫、なんですか?」
「ん? 何をじゃ?」
「え…だから助けなくて…その、大丈夫…なんですか?」
私はアイアンゴーレム・ガーディ?とかいうモンスターとリティさんの戦いを、セルジオールさんと一緒に観ていた。
でも、その内容は酷くて、とてもではないけども見ているのが辛い…というのが正直な気持ちです。
「…心配して、今のお主に何が出来るとでも?」
「うう…それは…」
「……あ奴は一度試練を突破しあの剣を手にしておるのじゃ、それに見てみぃ」
そう言われて再びリティさんへと視線を戻しました。
「あ奴はあれの強さに戸惑っておるだけ……正直、あれ等羽虫程度に過ぎん」
「でも、変です」
そう、恐い位に変な違和感を感じる。
「ほぅ?」
「何か…こう…力強さみたいなものが感じられない…ていうか…ううん、何でもありません! ありませんから!!」
駄目…確信とか無いのに…。
「こりゃまた…僅かながら、“あれ”を感じるのか」
“あれ”…て、何?
「多分あれに仕込まれた『魔導心臓』のせいじゃろな」
「は、はぁ…?」
『魔導心臓』ですか?
「さっきも言った通り、あの『魔導心臓』は精製青生生魂を使用しておる。 精製された青生生魂には“氣力”を阻害する働きがある故、あ奴は充分に動き回る事が出来ないのじゃ」
青生生魂……駄目、頭が追い付かない。
後でマスターに訊かなきゃ。
「一応、対抗策はある」
「魔法も駄目、その氣力っていうのも駄目…じゃあ何があるっていうんですか!?」
「実際、あ奴が使っておる力じゃ」
リティさんが使う力?
どういう、事?
「あ奴が使い力は我々聖霊と同じ――――――――霊力じゃ」
どうやら、私の周りには非常識しか存在しない事が解った。
●●●
いやはや、慣れというものはげに恐ろしきものだ。
霊子の流れを掴んだ辺りからか、あのでかい鉄塊への対応出来るくらいには体を動かせるようになっていた。
というか、冷静に考えてみれば俺はああいった戦いには昔っから大体慣れっこだった筈だ。
無茶苦茶な力押しと、勢いだけで何度も潜り抜けてきた。
今更ながら、自分の馬鹿さ加減に改めて気付いた俺は鉄塊野郎に馬鹿正直に向けて対峙する。
(でかい…が、それだけだ)
魔力の枷はとうの昔に外れている、氣力は上手く錬れないが、代わりに霊力は有り余っている。
「対抗策が無いって事は無い、な」
『実践厨は戦いの中で成長する』と昔の偉い人は言っていたが、無論俺もその中の一人だろう…長い目で見なくても。
剣を構え、互いに向き合う。
『彗星拳』
拳が振り降ろされる。
「悪いが、利用させて貰うぜ」
ぎりぎりまで鉄塊の攻撃を引き寄せ、軽く跳躍すると、振り降ろした方の腕に降り立ち、滑るようにまっすぐに駆け上がった。
「これで、終い、だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
胸部中央に早苗付けられた核らしきもの…青生生魂で出来た魔導心臓の高さまで飛び上がると、背から霊力を一点集中で放出させる。
簡易的に生み出された推進力で発生したGがキツいが、無視して剣先を勢いよく突き刺した。
『汝ガ剣、確カニ未来ヲ勝チ取ッタ。 来タルベキ戦イニ備え、今ハ暫シ眠リニ就クトシヨウ…“すきゃばーどもーど”』
鉄巨人はそう言うと、ひとつの鞘へと変形した。
最終的に形を変えた巨大な鞘は、小さくなり剣の刃一振りを覆える程の大きさへと納まった。
同時に自分を含む『氣力』の流れが良くなるのを感じた。
「流石、トリード家の者じゃな」
「全く…怨むぞ、子孫様よぅ…」
溜息を吐きながら、両手で鞘に収められた聖剣を手に取って見る。
やけに先進機能満載の鞘を眺める程さっきまでの戦いが随分と間抜けに思えて来た。
数秒感傷に浸った後「さて」…と両手に持ったそれを背負おうとした時、
「リティさぁぁぁぁぁあああん!」
「へ…おぶあっ!? ぐえ!?」
無事だったのが余程嬉しかったのか、迫撃砲の弾丸と化した嬢ちゃんがと付け帰して来たのだ。
「もぉー、死んじゃうのかと思いましたよぉーーーー!!」
「わ、解った! 解ったから離れろ! 泣くな!突撃するな、痛い! そして重い!!」
『オマ、シツレイダゾー』
『ジョシニオモトカ、きゃーサイテー』
「そうじゃそうじゃ。 謝らんかい主殿」
「う る せ ぇ ぇ ぇ ぇ! そしてお前! ちみっ球に便乗するな、鬱陶しい!」
さっきまで空気だったちみっ球の癖にここぞとばかりに現れて何を抜かすか!
「ふぉっふぉっふぉっ…意外とモテモテじゃのう、お主」
「見てないで助けてくれ…いや助けて下さい!」
この状況から抜け出すべく、情けなく幼女様に懇願する。
「駄目じゃ。 これはお主が蒔いたフラグじゃ、早々に諦めるんじゃな♪」
等と、ケラケラと笑いながらこの状況を楽しんでやがる。
こンの性悪合法幼女め、後で覚えてろよ。
「何か妙な台詞を吐かれた気がするが…まぁ良い。 小娘もそこまでにしておけ」
「ええっ、あああああーーーー!? ごごごごごごごめんなさぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃ!!」
「ああ…くそ。 要らんダメージ喰らっちまった…」
しかも、こいつ抱き着く力が強いせいで危うく窒息死する所だったぞ。
たわわに実りやがって…ある意味嬉し…げふんげふん、雄の理性が吹き飛ばずに済んで良かっ…。
「…あ」
「へ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「……御馳走様でした」
「あ…きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ぶへぇあ!?」
本日二度目の、要らないダメージを喰らってしまった。
おまけに勢い良く吹っ飛ぶ始末。
しかし、敢えて言おう…。
ボタンが外れてはだけた服から覗いた桃源郷が、いけないんだ!
●●●
「何か言う事は有りませんか?」
「…御免なさい」
あれから約三十分後、紅葉の入手と共に土下座をする破目となった。
「今度からしないと誓いますか?」
「しないも何も…あれは単なる不可抗力――――いえ、何でも有りません。 もう見ません」
恐っ!?
笑顔なのに目が据わって無い…。
「おーおー、尻に敷かれておるのー…お主が本当に女なのか、怪しいわい」
一応、生物学的には人間の雌です…多分。
「今回は特別に許します。 しかし、また同じ様な事があれば――――――――(社会的に)殺しますよ?」
恐ぇぇぇぇ!?
しかも聴こえてはならない副音声まで感じるとか。
しかも怒りの笑顔…駄目だ…詰んだ。
「英雄色を好むと云うが、天下の英霊様もこうなっては方無しじゃのー」
畜生、正論過ぎて何も言えねぇ…。
「まぁ、弄るのもここまでにしておこうかの。 何時までも此処に居るのもあれじゃ、今日の所は儂の家に泊っていくが良い」
「どうした、主殿? 顔が真っ青じゃぞ」
「…にやついた顔で見てるんじゃねぇ」
「ほほぅ、儂がそんな顔をしてるとは心外じゃのぅ」
くそぅ…ラッキースケベな台詞が無かったら今頃土下座しなくて良い物を。
反省はしている、だが後悔はしていない。
嬢ちゃんがエロいのがいけないんだ。
「む…不謹慎な台詞を吐かれた様な気がしたが、まァ良い」
「私は良くないですっ」
「小娘、お主もお主じゃ。 不用意にあの様な行動を起こすでない。 こ奴は女といえやりたいもりの思春期の男子と同じなのじゃぞ?」
正論過ぎて何も言えねぇ…。
「しかし…よく対処できたの。 あれに使用されている魔導心臓の精製された青生生魂は氣力を阻害する力を持ておったのじゃが」
何だと?
……成程、だから氣力が上手く錬れなかったのか。
「しかも倒さず、鞘になるとは」
「そっちは問題無い、あれは元からああいう仕様だ」
『とらんすふぉーむ!』
『ふぁいなるふゅー…――――』
「取り敢えず黙れや、ちみっ球」
それ以上は危険と判断したため、ちみっ球共を睨み付け殺気をぶつける。
ちみっ球が再び蒼く変色した所で、デフォルメチビ俺に視線を送った。
「しかし、お前は何者だ?」
「漸く儂の事を認識したか」
こいつが装備している鎧は、いかにも戦女神に相応しい、蒼・金・白の色で構成された鎧だった。
というかまんま、“覚醒時”の俺の姿だった。
今出来るかどうか解らないが、多分出来るだろう。
いや、強敵が現れればするが、それ以外で使う必要は無い。
あれは最終手段として使用するのが望ましい。
だからと言って、出し惜しみするのはいけないが。
「儂はバルムンクに宿りし九十九神が精霊に昇華した存在じゃ」
「九十九神は一種の妖精……それが昇華した?」
「お主の霊力と氣力の影響じゃな。 『ただの意思の無い、想いの塊』がお主の僅かに体外に放出させたそれらが意思と形を持った」
「姿は剣にとって最も印象が深い、主殿が選ばれておるのじゃ♪」
有るのか無いのか、その微妙な胸を張るな。
デフォルメチビキャラだから無いに等しい気もするのが現状なんだがな。
その前に尊厳もへったくれも無い気がする。
『ロリ、ナカーマ?』
『おー、ナカーマ?』
『ペタン、ナカーマ?』
「人型のメスを嘗める出ないわ!」
いや、そもそも言う程無いだろ?
「そういうお主はどうなのじゃ?!」
「男装女子にはぺたん胸は美味しいです」
実際、上半身素っ裸になっても男だと勘違いしてくれた時は非常に嬉しかった。
「この人、開き直ってる!?」
「主殿を見ていると普通に男子と勘違いするから余計じゃな」
「よせやい、照れるじゃないか」
「褒めてない。 この女誑しが」
異性にモテるのは嫌だが、同性にモテるというのは血沸き、肉…いや、心躍る。
別の意味で俺が狼なのは間違いではない。
否定はしない。
ハーレムも意外と良いかもしれない…と一瞬でも呟いてしまった俺は再び額を地に付ける破目となった。
……女って怖い。
●●●
草木も眠る丑三つ時。
「意外じゃの。 美味しかったぞ、主殿の料理は」
長…セルジオールの家に嬢ちゃん共々お邪魔して「泊めてくれるお礼」にと、料理を振舞った所これが好評で特にこいつ…九十九精霊は六分の一程胃に納めた。
それでもまだ食べ足りないと言って、俺の分まで食おうとしてきたのには驚いた。
まぁはたき落してやったがほんと、この食いしん坊…チビの体の癖にどんな体の構造しているんだ?
「食いっぷりが良いのは作った本人としても嬉しいが…あれ以上ねだるなら、朝飯抜いても大丈夫だよな?」
「それだけは嫌なのじゃ!!」
顔面蒼白になり、上目+うる目で懇願する俺モドキ…。
デフォルメ化されてるから良い様なものの、そうじゃなかったら斬り捨ててるな。
「そうじゃ、主殿」
「何だ?」
「儂に名前を付けて貰えんかの?」
そう言えばこの俺モドキ、生まれたばかりで名無しだといっていたな。
「そうだな…グラム・バルムンクときたから……よし、今からお前の名前は『ノートゥング・C=バルムンク』だ」
「わ、儂の名に主殿のミドルネームが…」
「腹を痛めた訳じゃないがノートは俺から生まれた様なもんだしな。 別にいだろ、或る意味俺の娘なんだ」
「あ、主殿ぉぉぉぉぉぉ!!」
「だが断…るぶおぉっ!?」
青い稲妻となって突撃してくるが、嬢ちゃんの事もあるので避ける。
が、ノートが一枚上手で激突せずに壁を蹴って再び砲丸となってあろう事か鳩尾へ頭突きを喰らわせてきやがった。
同時に床に叩きつけられた。
「げほっ…ぐぅ……こンの、石頭が…」
「あぁぁぁるぅぅぅぅじぃぃぃどぉぉぉぉぉのぉぉぉぉぉぉ!」
「ええい、びーびー泣くな! それとひっ着くな! 鼻垂れてる、汚ぇ!」
「ぐしゅ…主殿…儂は今…嬉しゅうございましゅ…」
ちみっ球より癖はあるが、悪い子でも無いからなぁ…。
人差し指でノートを撫でてやる。
「にゃあぁ~…ん♪」
――――何この萌え生物は!?
いや、俺モドキだけども。
もう一度、今度は絶妙な力加減で撫でてやる。
「うにゃぁぁぁぁぁ~ん…はにゃあ~~……ぁぁぁん♪」
……やべぇ。
悩殺ボイスとか、色々やべぇ…。
自制心が…理性が崩壊しそうだ……。
もっと、愛でてみようか。
しかし、そんな甘い時間は唐突に終わりを告げ易いのが世の理であって、不穏な空気が突風となって俺達に襲い掛かって来るのであった。
『聴こえるか、トリードの者よ! 戦いに備えよ!』
セルジオールの念話によって。
いよいよ序章も大詰め。
また何かありましたら削除&修正していきます。
追記
作者観の文章(もとい感想文)を此方側に移しました。
所で、読者の皆さんは『ニーベルンゲンの指輪』という物語を存じているであろうか。
伝説やファンタジー好きの人達にとってはお馴染みでは無いだろうか?
その中でも特に印象深いのはジークムントとジークリンデの息子、ジークフリート(『サガ』ではシグルズ)の悪竜・ファーブニル(場合によってはファフナー)退治とヴォーダン(主神オーディーン)の娘ブリュンヒルデ救出、そして竜退治の際に手にした宝物の呪いによる英雄ジークフリート悲劇的な死。
その時に出てくる剣こそが『バルムンク』ないしは『グラム』・『ノートゥング』である。
古来北欧では武具等に宿る呪いにより非業の死を遂げる英雄達は多い。
『F○te』シリーズでランサーとして登場する、知らない人はほぼいない…かなりの知名度を持つアルスターの英雄クー・フーリン(またはク・ホリンとも)もその一人。
そしてこの物語《ニーベルンゲンの指輪》の英雄もその 例に漏れず、計らずともその死を迎えてしまった。
故に、そういったものを私、作者は英雄屠りと、独自の解釈をしている訳である。