避けられない悪化(1)
正輝はどうしたものかと悩みつつウダマン近くまで戻ってくる。王都には強めのスカウティングを実施しているので、まずは現状を掴むところから始めようと思ったからだ。
「来たー」
やってきたトレースチームにロナタルテが喜んでいる。
「お疲れおつかれ。なにかある?」
「実はちょっと由々しきことが」
「え、悪いほうの知らせ?」
小妖精が背負ったナップサックから折りたたんだ紙を出してくる。受け取って開くと、そこには「手配」の文字が躍っていた。
「来たか、とうとうな」
「東部の巡回チームも西沿岸のチームも同じものを持ち帰ったので、かなり広範囲に拡散されているかと思われるとテアクルセ様がおっしゃってます」
「正しい分析。ありがとう」
正直遅いくらいだと感じる。逆にいえば、国内全体の状態を王城が隠蔽して批判を避けるのを放棄したということ。それだけ、追い詰められてきている証左にもなる。
「覚悟して北の国境まで行ったのにウフルバいないんだもんな。呼び戻したってのは、つまり王都の守りのほうを重視しはじめたってことじゃん」
国境への北上はかなり警戒しつつの行動だった。
「ピトレスカ様も形振りかまわなくなってきたともおっしゃってました」
「だと思う。じゃあ、伝言頼むわ。君たちもそうだけど、あまり無理して深入りしないようにってね。そのうち、こっちのスカウティングにも気づいて小妖精を捕まえろって命令が出るかもしれない」
「わかりました。気をつけるよう共有します」
真面目な小妖精を引き寄せて補給してから帰るよう促す。報告が済んで安堵したか、その子もシャツにもぐり込むと表情を蕩かせていた。
「見せて」
手配書をティナレルザが覗く。
「似顔絵も結構寄せてきてるのね」
「当然恨みを買ってる自覚ある。教会関係は顔出しで潜入してたし、王国にはウフルバとか俺の顔知ってるのもいる。二つが手を組めばこれくらいは簡単だろ」
「ネクリハとか、かなり恨んでると思う」
ランゼッタにも指摘された。
「騙しっぱなしだったし放って逃げたもんな。悪いとは……、あんま思ってないけど」
「そんな正直に言わなくてよろしい」
「はいな、ルーザ先生」
噴霧したインクを魔法、念動で制御して定着させる技術はある。原紙を配布して、量産させるのも可能であればこういった手配書が出まわるのも時間の問題と考えていた。
「となると、これで『都』と名の付くような都市には近づけなくなったわけで」
「確実に街門で揉めるわ」
警備隊員は見逃してくれまい。
「いろいろ困るな。街レベルも怪しいとこだし」
「主に物資調達が怪しくなってしまいましたね」
「麦粉とか特になあ」
農家から直接仕入れが難しい社会システムゆえに問屋で買っていた。
「自給自足に後戻り」
「里の畑もまだ軌道に乗ってないしさ。帰ったところで補給できないじゃん」
「盗みますか?」
「それは嫌。体制に歯向かって戦うのはともかく、盗みはライダーのすることじゃない」
同じ犯罪でも意味が違う。国家にとっては同じでも、正輝にとってはまったく違う事柄なのだ。
「なんか考えないとな」
「ええ、マサキのお腹が膨れないのはわたしたちにとっても一大事です」
「トカゲと野草じゃ栄養偏るじゃん」
困った事態になったと正輝は腕組みした。
◇ ◇ ◇
そんなこんなで王都ウダマンから距離を取りつつ彷徨っていると、小妖精の集団がやってくる。いつものトレースチームの二人だけではなく五人の集団である。
「どしたどしたー?」
正輝は何事かと思いながら迎えた。
「王都チームと一緒になったからついでに来たの」
「そっか」
「報告あるって」
基本的に里に持ち帰る報告だが、折があれば直接受け取ってもいい。移動をやめて身を隠すと車のリアに腰掛けて話を聞く態勢になる。
「なにか変わったこと?」
話を促す。
「わかんない。でも、気になってること」
「それでいい。聞かせてくれる?」
情報を統合して検討しているのはテアクルセとピトレスカである。スカウティングチームはローテーションしているので、一つの事象を幾つものチームが触れることになる。なので、気になることは全て報告するよう助言していた。
「王都から出てきた車なんだけど、紋章付いてたから誰か身分の高い人間だと思って様子見たの」
いい判断をしていると思った。
「走りトカゲは伴走してなかった? それだと戦士団だと思うんだけどさ」
「なかった。だから、気になって」
「この時期に戦公や魔公以外が動く? なんの意味がある?」
むしろ閉じこもるのが正しいはずだ。
「誰だかわかんない。だから、顔見てイメージ共有しようとしてたの」
「正解。ルキに見せてもらってもいいかい?」
「共有する」
幼い感じの小妖精がエメルキアの手にとまる。記憶にある映像を彼女に伝えている。途中で少女はハッとした面持ちになった。
「この方は……」
知った顔だったらしい。
「誰?」
「確か、ラツッパ・コージャレと名乗ってらした戦公です。以前戦った」
「ラツッパ? あの女性戦公?」
(剥ぎ取ったからもう装鎧戦士じゃない。仮にそれで失脚したにしても、このタイミングで王都を離れるのは遅すぎ。妙じゃね?)
正輝はなぜか気になってしまった。
次回『避けられない悪化(2)』 「妖精種に文化が?」




