第87話 『ラスボスぽい人だ!!』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第87話
『ラスボスぽい人だ!!』
先生の空間にあった光を放つ物体を、握りつぶすと粉々に砕け散る。そしてまた地震が起こった後、私達は元いたビルの中へと戻って来た。
「戻って来れ……た?」
周囲を見渡すと、倒れている先生の姿。彼も能力が解除されて戻ってきたのだろう。
「おい、レイ。あっち見ろ」
黒猫が頭を叩いてある方向を尻尾で示す。そこに目線を向けると、上半身が地面に埋まっている坊主らしき姿と、その横で傷だらけの楓ちゃんも京子ちゃんがいた。
二人も私達に気づき、楓ちゃんは猛スピードで駆け寄ってくると頭に乗っている黒猫に抱きつく。
「師匠〜!! 師匠達も無事だったんですね!!」
抱きしめられて苦しそうにしている黒猫。再開が嬉しいのはわかるが、私は黒猫に飛びついた楓ちゃんに飛び乗られた状態で、猫と楓ちゃんの体重が合わさってつらい。
黒猫にスリスリして満足した楓ちゃんは、私から降りる。やっと解放された私達はホッと息を吐き、
「二人も無事で良かったよ」
坊主を倒したみたいで安心した。二人とも服も身体もボロボロで、坊主の強敵感は本物だったのだろう。私達が戦うことにならなくて良かった。
「足止めされちゃったけど、先を急ぎましょう」
私はビルの上を見上げる。この上にリエがいるはずなんだ。急がなければ。
京子ちゃんは木刀を肩にかけると、歯を剥き出しにしてニヤリと笑った。
「ああ、さっさと行こう。私もまだまだやり足りない」
私が目を覚ますと、目の前に見慣れた頭の姿があった。私が目覚めたのに気づいたのか、その人物は背を向けたまま、
「おう、目が覚めたか。すまねぇな、こんなことしてよ」
彼は優しい声で私にそう告げる。いつもの優しい彼の声だ。だが、私は彼のこういう声は知っているが、私と彼が喋ったのは初めてだった。
「私のことが見えるんですか!?」
私は尋ねながら、立ち上がろうとする。しかし、うまく立てない。というよりも身体の自由が効かない。
私は自身の身体の状態を確認すると、身体をお札の貼られたロープが縛っていた。
「これは……どういうことですか!!」
私は彼に尋ねる。しかし、彼はこちらに顔を向けることはない。
薄暗い部屋の奥を見つめる彼に、私はさらに問いかけようとした時。
「ククク、教えてあげなよ」
扉が開き、一人の男性が入ってきた。見たことある顔だが、印象になく誰だろうと考え込む。そして数秒考え込んでやっと思い出した。
この顔は彼の部下の一人だ。首なしライダーの時やクリスマスの時にも顔を出していた。
彼はニヤニヤしながら私に近づいてくる。そして私の目の前に立つと、彼の顔は粘土のようにうねりだし、形を変える。
そして体型までも変化して、黒髪に眼鏡をかけたインテリ風の女性に姿を変えた。
「君は生贄だって……ね」
「生贄……!?」
女性に変化したその人は、私に顔を近づける。ロープで縛られて寝転がされている私は、逃げることもできずやられるがまま我慢する。
鼻と鼻が触れ合いそうな距離で、私の瞳を凝視する女性。彼女は真剣に私の瞳を見て何かを確認しているようだが、私としては彼女の口がニンニク臭いのが気になる。
ニンニク女は確認を終えると、スッと私から離れて、両手を後ろにして指を組む。
「これは少し苦戦しそうだね。オサムンが成功した時に君が邪魔しなければ、こんな面倒なことにはならなかったんだけどね〜」
ニンニク女はニマニマと悪い顔をして彼を揶揄う。彼は舌打ちをすると不機嫌気味に返す。
「ッチ。あの時は俺も国木田もバッチをつけてなかったんだ。いちいち掘り返すんじゃねー」
「へいへい」
ニンニク女は揶揄ったのに反応がつまらなかったのか、私の横を通り過ぎて彼の横に並んで部屋の奥へ目線を向ける。
私は二人が何を見ているのか気になって、二人の見ている部屋の奥へと目線を向けた。
「……なに、これ………」
そこには、八つの首を持った大蛇の悪霊と、露出の多い服を着た黒い羽の生えた女性の悪霊が、一人の人物と戦っていた。
その人物は口元に鋭い牙を持ち、真紅の髪をした長身の女性。見た目は普通の人間と大差はない、しかし彼女はたった一人で二匹の悪霊と渡り合っていた。
「なんなの、あの人……」
私がそう呟くと、ニンニク女は笑いながら答えた。
「ククク。私達の社長。そしてやがて世界を支配する人よ」
ニンニク女がそう告げてすぐに、女性と戦っていた悪霊の二匹は討伐された。
倒された悪霊達は黒い霧となり天へと消えそうになる。しかし、赤髪の彼女はその霧に手を伸ばすと、黒い霧を吸収し始めた。
「悪霊を取り込んで……る!?」
私がその光景に怯えていると、先ほどニンニク女が現れた扉が勢いよく開かれた。そして聞き覚えある声が部屋中に響く。
「リエーー!!」
「レイさん!!」
ロープで縛られたリエが、こちらに体を向けて泣きそうな顔で私のことを呼んだ。
部屋は暗く、中の様子ははっきりと見えないが、三人の人影らしきものが見える。
「リエ、今助けるよ!!」
私達は捕まっているリエを解放するために、駆け寄ろうとする。しかし、奥にいた人影の一人がリエの横を通り過ぎて、私達へと向かってくる。
遠くから見た人影だと、女性のように見えたが、道中でその人影の形が変化する。
長身な男だ。私も身長は高い方であるのだが、そんな私よりもはるかに高い。黒いライダースーツを着た男性の顔は、イケメンとは言い難いが男らしさを感じる風貌。
「ククク。やぁ、こんなところに来ちゃダメじゃないか、姉さん……」
男性は片手をあげて私達にそう挨拶をする。しかし、姉さんって誰のことだろう?
私は誰のことなのか分からず、一緒にいるメンバーの顔を確認する。黒猫も楓ちゃんも私と同じようにキョロキョロしていた。
しかし、京子ちゃんはその男性の顔を見て、目を見開いて唇を震わせていた。
「京子ちゃん?」
私は彼が知り合いなのか、聞こうとする。だが、それよりも早く男性が声をかけた。
「ヤダなぁ、姉さん。俺のことを忘れたのか? 俺は…………」
男性がそこまで言いかけた次の瞬間。私の目では追えないスピードで、京子ちゃんは男性に近づいて木刀を振り下ろした。
その一撃で男性の身体は地面に埋まり、頭のテッペンだけが床から生えている。
木刀を振り終え、京子ちゃんは木刀を振って肩に乗せる。
「アイツはもういないんだよ。人の弟を汚すな」
あっという間の出来事に、私達は何が何だか分からずポカーンと佇む。そんな私達に顔も見せずに京子ちゃんは、部屋の奥にいる影に目線を向けながら、
「そこのちびっ子幽霊をさっさと助けて逃げな……。後は私がなんとかするから」
普段よりも低い声の京子ちゃんの言葉に、私は背筋が凍るような気分になり、何も言わずにサッと動いてリエの元へ向かう。
「リエ、大丈夫?」
「レイさんに、皆さん……助けに来てくれたんですね」
私はリエを拘束するロープを解こうとする。しかし、ロープには不思議なお札が貼られており、上手く外すことができない。
「なにこれェェ、全然解けない!!」
私は力任せに引っ張るが、それでもロープは破ることもできない。頭の上からロープを観察していた黒猫は、ロープのお札に注目する。
「もしかしたらこのお札が原因なんじゃないか?」
「流石師匠!! そういうことですね!!」
黒猫の考察に楓ちゃんが賛同する。しかし、例えそうだとしても、
「じゃあ、どうしたら良いのよ?」
「俺の予想だが、このお札はさっきの坊主が作ったものだ。お札に込められた霊力が消費されれば、時期に解けるはずだ」
坊主とは先ほど、ビルの内部で京子ちゃんと楓ちゃんが倒した人物のことだ。
時間経過で解けるのならば、無理に外す必要はない。私はリエを抱き抱えた。
「リエ、大人しくしててね」
「いや、縛られてるんで、動けないですよ……」
これでリエを助けることはできた。楓ちゃんもホッとした様子だ。
後は京子ちゃんに全て任せて、私達はスタコラサッサと逃げれば良い。戦力にならないため、邪魔にならないように早く逃げよう。
リエを抱えて背を向けようとした時。部屋の奥にいた人影が声を出した。
「霊宮寺さん、その子を置いていきな」
それは聞き覚えのある男の声。その声に私は背を向けて走り出そうとしていたが、足を止めてその声の方へと顔を向けた。
「なんであなたが……」
私はその人の顔を見て、ジーンと頭に重たい痛みを思い出した。
今回リエを連れ去られた要因。そして私が気を失った時、目の前にいた人物。
私と黒猫、楓ちゃんはその人物を見て同時に叫んだ。
「「「スキンヘッド!!」」」
「いや、この場面でそう呼ぶ!? 俺の本名は!! …………あれ、名乗ってなかったか」
私達の言葉に思わずいつも通りツッコんでしまうスキンヘッド。表情は暗く怖かったが、根の方はそこまで変わらないのかもしれない?
スキンヘッドは大げさに両手を広げると、高笑いをして、
「ならせっかくだ。俺の名前を教えてやろう、俺は!!」
そう言って名乗ろうとしたが、京子ちゃんがそれを遮った。
「そんなことはどうでも良い。ハゲ」
「姉さん!? ここは名乗る場面でしょ!! てかこれはハゲじゃなくてファッション!!」
名乗りを邪魔されてツッコむスキンヘッド。そんなスキンヘッドに京子ちゃんは木刀を向けた。
「なんでアンタがここにいんだよ」
怒鳴ることはなく、低い声を出す。仲間が裏切っていた。しかも弟を慕っていた人物がだ。
表面上には出していないが、内心はかなり動揺しているはずだ。
私はもしかしたらと京子ちゃんに
「きっと、さっきみたいにスキンヘッドに変装してるのよ!!」
先ほど、京子ちゃんの弟のフリをして接近してきた敵が来た。きっと彼も同じだろう。私はそう考えていたが、
「違う……」
京子ちゃんは確信を持って答えた。
「この霊力は本物だよ」
京子ちゃんはスキンヘッドの姿を見ながら言う。漫画なんかで見る、気配で誰だか判別できる的なやつなのだろうか。
だとしたら凄い。というか、私もやってみたい!!
スキンヘッドは腕を組むと、先ほどの京子ちゃんの質問に答えた。
「それはシンプルなことだろ。姉さん、俺はアンタらの敵だったってわけさ」
「アンタ、それがどういうことか。本当に分かってるんだろうね」
少し離れた後ろから見守っていた私からも、京子ちゃんの木刀を握りしめる力が強くなるのがわかる。
「姉さんや兄貴には感謝してるさ。こんな俺でも拾ってくれた……。だがな、俺はアンタらとは違うんだ」
スキンヘッドが全身に力を込めると、まるで漫画のようにエネルギーが身体から溢れ出て、風が発生した。
その風で髪は靡き、室内の木材で閉ざされた窓は、ガタガタと震える。
「あの人、あんな力を隠していたの!?」
私の記憶ではスキンヘッドには霊感もあまりなく、リエの姿が薄く見える程度だった。しかし、スキンヘッドから溢れ出る力は、楓ちゃんや京子ちゃんに匹敵している。
力を込めるスキンヘッドの隣に、もう一人奥にいた女性がやってくる。
赤い髪に牙の生えた女性。スキンヘッドの隣に立つと、スキンヘッドの肩に手を乗せた。
「お前達かァ。俺達の邪魔をしているっていう輩はァよォ」
「フェリシア様。ここは俺がやります。貴方は後ろに」
現れた女性にスキンヘッドは任せるように言う。すると、フェリシアと呼ばれた女性はスキンヘッドに微笑みかける。
「そうかァ。なら任せるぞ、スキンヘッド」
「フェリシア様!? 貴方まで」
「ノリだ」
スキンヘッドは上司にまで名前で呼ばれず、涙目になる。そんな中、フェリシアはスキンヘッドの肩を叩いて、しっかりやれと言ってから後ろに下がった。
涙目だったスキンヘッドだが、すぐに気持ちを切り替えて、両手を広げる。
「さぁ、姉さん。恩返しだ、弟の元まで送ってやるよ!!」




